これまでM&Aの概要やスケジュール、買取価格などについて解説してきました。大まかな方法や流れについては、ご理解いただけたかと思います。

今回は少し視点を変えて、買い手が注意すべきポイントについて、お話します。
そもそもM&Aにおける買い手と売り手では、成功の定義が異なります。買い手側にとって成功とは、想定していた期間で投資を回収し、事業拡大など当初の目的をクリアし、期待していた相乗効果を発揮できることです。

そのために、買い手側がするべきこととはどんなことなのでしょうか?一緒に見ていきましょう。

M&Aを実施する前に確認すべき3つのポイント

Q:買い手として気をつけることはありますか?

A:統合後の効果を見極めるために、不明点はすべてクリアすること、そして冷静に価格交渉に臨むことです。

M&Aの買い手企業側は、多くの場合キャッシュリッチ(借入金がなく、現金など流動性の高い資産を潤沢に保有している状態)で成長意欲がある会社です。
自社の成長のために他社をM&Aしようとしているため、売り手側の企業のいいイメージばかりが浮かび盲目的になりがちです。この点は結婚と似ているかもしれませんね。

しかし、勢いだけでM&Aを実施しては大変なことになってしまいます。
大きなポイントとしては、以下の3つが挙げられます。
1.自社にとって本当に必要なM&Aであるか、お互いのブランドを活かせるか
2.その価格は妥当か、また生じる「のれん」の負担は問題ないか
3.統合後の計画はしっかりとできているか、無理がないか

赤字や不採算事業のある企業とのM&Aは要注意

それでは、上記のポイントを詳しく説明していきます。

●自社にとって本当に必要なM&Aであるか
これが、最大のポイントといっていいでしょう。経営においては、リスクを取らなければリターンもありませんが、私の経験上、成功したM&Aというのは少ないものです。

特に赤字の会社や不採算事業のある会社を買収した場合、計画イメージではすぐに黒字化となっていても、実際に赤字の会社を黒字化することは困難です。焦らず、何のためにM&Aをするのか、その目的をしっかりと確認してから着手するようにしましょう。

●その価格は妥当か、また生じる「のれん」の負担は問題ないか
次に、価格について検討しましょう。最初に「御社に○○円出しますよ!」と言ってから、DD実施後に価格を下げた提案をすると、信頼関係にひびが入ってしまいます。

また買収価格には「のれん」が含まれます。その「のれん」を今後どう償却していくのかもM&A立案時には計画しなければなりません。買収した後に「のれん」の償却負担が大きくなり赤字となってしまっては大変です。短期間で回収しようとして償却期間を短くしすぎないように注意しましょう。
※「のれん」については前回のM&A講座「その「のれん」は、本当に価値がある? のれんの評価にご用心!」も合わせてご覧ください。
https://nomad-journal.jp/archives/1622

●統合後の計画はしっかりとできているか、無理がないか

さらにM&A後に、どのように統合していくのかまでしっかりと考えておかなければなりません。これは、買収会社側のみならず被買収会社側の協力も必要となります。

M&A後のことはM&A後に考えよう、というスタンスでは、とてもM&Aを成功に導くことはできないでしょう。特に買収側は、被買収側の会社の立場を考えてお互いがWin-Winになる統合を目指すことが求められます。

専門家:江黒崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。