11年間の正社員生活に別れを告げ、2015年7月にフリーランス・ライターとしての活動を始めた。このコラムの第3回でも詳しく書いたが、妻からは「正社員で転職してもやりたい仕事はできるんじゃないか」「毎月収入が変わるなんて無理」と、フリーランスになることを猛反対されたものだった。

 

当時、一人息子は1歳半。これからどんどん教育費が必要になっていくし、ゆくゆくは2人目も欲しい。そんな状況の中でフリーランスに転身しようとしたわけだから、猛反対に遭うのも当然の流れだった。

 

ただ、フリーランスという働き方は、子育ての面では想像していた以上にプラスに働くことが多かった。今回はそんな経験を踏まえて、ごくごく一般的な男性の視点から「フリーランスと子育て」を語ってみたい。

 

保育所の「迎え」に行けるお父さんはまだまだ少ないのでは

4月2日、かねてより待機児童問題に関して積極的に発信している熊谷俊人・千葉市長のTwitterでのつぶやきが話題を集めた。

 

https://twitter.com/kumagai_chiba/status/848666732034105344

 

“保育所に預けているパパにも伝えたいのですが、早いうちに迎えを経験してみて下さい(送りじゃないですよ)。自分を見つけた時の我が子の笑顔は格別です。また、迎えであれば保育士と保育内容などについて意見交換することもできます。迎えのために父親が早く帰ることが当たり前の社会を作りましょう。”

 

保育所への「送り」ではなく、「迎え」を早いうちに経験してほしいというのは、分かる気がする。

 

3歳になった息子は都内の認証保育所のお世話になり、9時から19時前後(早い日は18時頃、遅い日は19時半頃)までの長い時間を園内で過ごしている。熊谷市長が言うように、親が迎えに来た瞬間の喜びようといったらない。保育士さんや看護師さんと会話し、生活習慣や健康状態で気になることを指摘してもらえるのも、とても勉強になる。

 

とは言え、何だかんだと言って今でも、父親が保育所の迎えを担当することは難しいのだろう。他の子どもたちを見ていると、送りのときには他のお父さんの姿もちらほら見かけるのだが、迎えのときはお母さんばかりだ。

 

僕自身、会社員時代は、残業をほとんどしなかったとしても会社を出るのは19時頃だった。保育所までの距離や保育所の運営方針にもよるだろうが、これでは延長保育で遅くまで預かってもらっても、迎えに行けるのはギリギリの時間帯だ。もし会社員を続けていたら、僕は迎えに行くことを妻に押し付けてしまっていたと思う。

 

「パパ、今日遅かったね」と言われないように頑張る

フリーランスになってからは、保育所への送り迎えに積極的に参加できるようになった。「取材活動を中心に記事を書く」というスタイルなので、毎日とはいかないものの、できる限り早く迎えに行くようにもしている。子どもも3歳になればいろいろと自分の意見を述べるようになり、迎えが遅くなった日は率直に「パパ、今日遅かった。寂しかった」と言ってくれる。

 

1〜2歳の頃は、日中に熱を出して保育所から呼び出しがかかることもしばしばあった。そんなときにも、取材が入っていなければすぐに迎えに行くことができた。保育所を出て急いでかかりつけの小児科へ向かい、薬をもらって帰宅する。何だかんだと待たされてしまえば、それだけでも2時間はかかる。仕事の進捗はもちろん気になるし、場合によっては夜中に持ち越さなければならなくなるのだが……。

 

とは言え、まだ日が明るいうちに保育所へ迎えに行き、その日の出来事をたどたどしく話してくれる息子とともに帰路を歩ける毎日は、この上ない幸せだと感じている。途中でおもちゃ屋さんに寄り道をして、いろいろと物色しているうちに、自宅には「プラレール」と「トミカ」がどんどん増えていく。

 

「イクメン」ではなく、子どもとともに過ごす時間を楽しんでいるだけ

今、率直に思うのは、「こうした時間を過ごせないのは親としてとてももったいないことだ」ということ。子どもが3歳でいてくれるのは今だけで、やがて大きくなれば、父親とおもちゃ屋さんに行ってくれることもなくなるのだ。抱っこをせがみ、喜んでくれるのも今だけ。

 

もし自分が正社員としての働き方を続けていたら、この喜びを知らないまま、何となく妻に「子育てを押し付けてごめんね」などと言っていたかもしれない。そしていつの日か、「そういえばうちの子にも3歳の時期があったんだな」と、もう取り返せない日々を思って、ともに過ごせなかった時間を後悔していたかもしれない。

 

「僕はフリーランスなので、保育所への送り迎えもできる限りやっているんです」

 

父親の育児参加がまだまだ進んでいない現状では、こんな発言をするだけで「イクメンですね!」と褒めてもらえることがある。でも僕自身は、別にイクメンでも何でもないのだ。今しかない、子どもとともに過ごせる時間を、精いっぱい楽しんでいるだけなのだ。

 

もし今、子育てをしながら「フリーランスになるか否か」を悩んでいる男性がいたら、僕はこの「父親の喜び」という一点だけで、フリーランスになることをおすすめする。平日の夕暮れどきを、何の気負いもなく子どもとともに歩けるのがフリーランスの特権だから。

 

午前中に取材が入っていない日は家族3人で家を出る。最寄り駅で通勤電車へ向かう妻を見送り、息子とともに保育所へ行く。

 

先日、息子に「パパは仕事に行かないの?」と聞かれた。ママは毎日会社に行くのに、パパは行かない。確かに息子にとっては不思議なことかもしれない。彼がこの価値を感じてくれる年齢になるまで、頑張ってフリーランスを続けていこうと思う。

ライター:多田 慎介

フリーランス・ライター。1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイトとして入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職に従事。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。