今どき、どんな仕事をしていようと変わらないのかもしれないが、「不確実性」というのはやはりフリーランスにとっての大きな不安要素だと思う。自分の望むジャンルで仕事を続けていけるか。収入を増やし続けられるか。いやそもそも、維持していけるのか……。

 

ライターという職種は今、ある種のバブル状態になっている。多くの企業はマーケティングに活用するための良質なコンテンツを求めていて、そのためにはプロの取材者とプロの書き手が必要になる。何よりもコンテンツの「量」が重視されるフェーズは過ぎたように思うが、「質」を追求せざるを得ないからこそ、なおのこと職業ライターの需要が増している感もある。

 

そんな状況は、不安をさらに増幅させるものでもある。需要があるところにはイノベーションが起きる。現に、人の手を介さなくてもそれなりにまともな文章が書けるAIはすでに登場しているのだ。ライターの仕事が、今の形とそっくりそのまま同じように求められる時代は終わる。

 

「40代のライター」は生きていけるのか?

僕の場合は、比較的近い将来の転換点として想定しているのが「6年後」だ。6年後、僕は40歳になる。体力的には毎日取材に飛び回っていてもまだ大丈夫だろう。しかし案件の質は間違いなく変わっているだろうし、「40歳のライター」にどんな需要があるのか、まったく見えない部分もある。

 

よくライター界隈では「40代・50代になっても食べていくにはどうするべきか?」という話題が持ち上がる。実際にそうしたテーマで業界の大御所を招くイベントも多く開催されている。

 

20代の頃は、どんなに単価が安くても実績を作るために引き受けた。件数をこなすために1日や2日眠らずに働いても、まだ何とかなる。30代でも若手の残滓のようなものはあるし、発注者である媒体編集者や企業担当者も同年代で、ウマが合えば長期的な取引も期待できるだろう。しかし、40代以降は……?

 

若い編集者や企業担当者の立場で考えれば、自分よりも年上の、経験だけはやたらと積んでいるようなライターに仕事を依頼するのは骨が折れる作業かもしれない。媒体のターゲットが若い読者である場合、そこに40代のライターを起用する意味などあるのだろうか。

 

ライターとして生きている人は皆、同じような不安を抱えているはずだ。

 

業界でもソーシャルでもあまり知られていない「職人」

一方、そんな不安などどこ吹く風で活躍している人たちもいる。新卒採用のコンサルティングを手がけ、採用コンテンツ制作を事業の柱としている企業の人から、先日こんな話を聞いた。

 

ウチもコンテンツ制作のためにライターさんを起用するけど、ほとんどは40代か50代の人だよ。新卒採用では企業トップのインタビューを行うことが多いんだけど、若いライターさんだとクライアントが良い顔をしないんだよね」

 

少し意外ではあったけど、分かる気もした。企業の人事担当者にとって経営者インタビューは「最も神経を使う」コンテンツだ。もちろん本質的には「若手ライターだから対応できない」と決めつけることなどできないが、できるだけ経験豊富なスタッフを手配してほしいと思うのは自然なことかもしれない。

 

とある大手新卒採用ポータルサイトの広告制作者が集まる飲み会に参加したときには、実際に40代・50代の方がたくさんいた。「紙媒体しかない、バブル景気まっただ中の頃からこの仕事をしてるよ。あの頃も企業の採用環境が本当に厳しくて、超売り手市場だったから、冗談抜きで寝る暇もなかったよねぇ」といった話も聞いた。

 

まさに筋金入りのプロフェッショナル、職人だ。ネットが主戦場になった今でもそのワークスタイルは変わらない。新卒採用サイトがオープンする直前の、入稿が鬼のように重なる時期は、徹夜が続くこともあるという。

 

面白いのは、こうしたプロフェッショナルは「ライター」と同じように名乗っている人たちの中でもあまり目立っていないということ。採用コンテンツ制作は完全に黒子に徹する仕事なので、ソーシャルメディアで自分の顔と名前を売り込む必要はないのだ。豊富な経験と人脈を武器に、この人たちはまだまだ稼ぐんだろうな、という気がする。

 

ライターという仕事に固執していられなくなる?

翻って自分は、どのようにこれからのキャリアを考えていくべきか。6年後、40歳になるときに、自分自身が提供できる価値をどのように伝えられているだろうか。ライターという仕事だけに固執していられなくなる可能性は大いにある。

 

クライアントと相対したときに語れる知見の幅を広げ、自らが設定した肩書き以上の価値を感じてもらえるようになる。そんな進化の方向性が必要なのだと思う。それは、自分で対応範囲を決め、何事も即決しながら日々を過ごしていけるフリーランスの特権でもあるだろう。今日と明日では、まったく違う仕事に挑戦することも可能なのだ。

 

そんな「可動性のある生き方」ができている今、何を目指していくべきなのか。次回の稿では、もう少し掘り下げて考えたみたい。

ライター:多田 慎介

フリーランス・ライター。1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイトとして入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職に従事。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。