前回、テクノロジーの発達に伴う、経済や産業構造の変化について解説しました。今回はもっとミクロな視点で、AI・ロボットを活用したサービスやプロダクトを例に挙げながら、私たちの生活にどのような変化が生じるのか見ていきましょう。インターネットやスマートフォンの出現によって、大きく変わった私たちの生活。次はどのように進化するのでしょうか。

大作家が描いた”ゆきとどいた”時代は来るのか

作家の故・星新一氏に、近未来を描いた「ゆきとどいた生活」という作品があります。主人公のテール氏は、一人暮らしの会社員。朝、優雅な音楽と女性の声が、目を覚ますよう告げます。眠ったままのテール氏を機械が運び、シャワーや着替えを自動で行います。終わると豪華な朝食も用意されます。そして出勤時間になると、カプセルが会社に送り届けてくれます。しかし同僚が話しかけても、テール氏は反応しません。実は昨晩のうちに、心臓発作で亡くなっていた……そんな話です。

 

このように人間が何もしなくても、人工知能やロボットによって生活のほとんどが成り立ってしまう、”ゆきとどいた”時代は訪れるのでしょうか。実際の事例を見ていきましょう。

ここまで進化した、次世代の車いす

医療・介護現場では、サイバーダイン株式会社により開発された世界初のロボットスーツ「HAL®(Hybrid Assistive Limb®)」が活躍しています。この製品は、お年寄りや体の不自由な方の行動をアシストしたり、リハビリを支援したりすることを目的に開発されました。私たちは、「右手を上げる」「左足を前に出す」など考えることで、脳から信号が送られ、筋肉が動作します。HAL®はこの仕組みを工学的に再現しています。身に着けた方が行動しようとすると、脳からの信号をセンサーが感知し、モーターが動きをアシストするのです。またその機能を活かして、医療・介護だけでなく、工場での重作業や、災害現場でのレスキュー支援などでも活躍が期待されています。

 

車いすにも、最新のテクノロジーが搭載された機種が登場しています。WHILL株式会社が開発した「WHILL」です。スマートフォンでの遠隔操作が可能なので、例えば起床後にベッドまでWHILLを動かし、そのまま乗ることができます。また急な坂を感知し、音声で案内するなど、安全面にも配慮した機能を備えています。ゆくゆくは自動運転機能の導入も進められているそうです。もし実現すれば、行き先を設定するだけで、WHILLが自動的に経路を探し、人や障害物を回避しながら目的地まで運んでくれることも可能になるのです。

 

「HAL®」も「WHILL」も決して安価ではありませんが、多くの方が気軽に利用できるよう、レンタルプランも用意されているようです。テクノロジーの進化によって、お年寄りや病気の方、障がいをお持ちの者などのQOL(クオリティ・オブ・ライフ:人生・生活の質)は、間違いなく向上するでしょう。

料理から片付けまで行うロボット

続いて、私たちの家庭で用いられているテクノロジーを見ていきましょう。防犯対策に欠かせない監視カメラも、劇的に進化しています。仏Netatmo社が開発した「Presence(プレゼンス)」は、AIを搭載した監視カメラです。ディープラーニングによって、カメラに映ったものは人なのか、車なのか、ペットの動物なのかAIが判別し、家主のスマートフォンに通知します。これにより、リアルタイムで自宅の状況を観察できるのです。やって来たのが人であれば、知人なのか、配送業者なのか、はたまた不審者なのか、すぐに確認できるので、その後の対応もしやすくなるでしょう。

 

キッチンではどうでしょう。実は料理から後片付けまで、全てを行ってくれる全自動ロボティックキッチンがあるのです。これは米国のベンチャーMOLEY ROBOTICSが、スタンフォード大学のMark Cutkosky教授や、米国のロボティクス企業Shadow Roboticsなどと共同で開発した製品です。操作はタッチスクリーンか専用アプリから行い、iTunes libraryに保存されているレシピの中から、食べたいメニューを指示するだけ。するとキッチンに収納されているロボットアームが、料理から後片付けまで行うのです。アレルギーをお持ちの方、ベジタリアンの方、子供向けなどさまざまな指定もできるほか、母親や恋人の手料理をレシピとして覚えさせ、再現することもできます。

あのコピーロボットも実現した!?

マンガ家の故・ 藤子・F・不二雄氏の「パーマン」に、外見も中身も自分とそっくりのコピーロボットが登場します。現実世界でも、これに近いロボットがあると言ったら、信じられますか? 実はあるんです。その名も「テレプレゼンスロボット」。インターネットやカメラ、マイクなどが搭載されたロボットが、自分の代理としてほかの場所へ行き、ミッションを果たすことができるのです。ユーザーはロボットを自由に操作し、現地の様子を見聞きできるので、実際にその場にいるのと同じ情報を得られます。

 

その用途は、さまざまに考えられます。例えばビジネスパーソンが、離れた支社の会議に代理出席するとき。店舗や街中の様子を見て、マーケティングに活用したいとき。どうしても行けない結婚式や同窓会に、気持ちだけでも出席したいとき。遠方で暮らす家族や親せき、友人などと交流したいとき。風邪やけがで外に出られないけど、外を歩き回る気分を味わいたいとき、など。テレビ電話だけでは物足りない、不十分という場面で、自分の代理としてロボットに出向いてもらうのです。これも立派なコピーロボットと言えるでしょう。

こんなにある!世の中を便利にするロボットたち

ほかにも、こんなロボットが開発され、すでに世の中で活躍しています。

 

・掃除や芝刈りを行うロボット
・温度や湿度を快適に自動調整するロボット
・ホテルでルームサービスを行うロボット
・苗の接ぎ木や農産物を収穫するロボット
・焼き鳥の串を刺すロボット
・回転寿司でシャリを握るロボット
・人が入れない危険な場所で作業をするロボット
・河川の氾濫や土砂崩れなど災害を予見するロボット

 

これからもさらに、世の中を便利にする製品・サービスが続々と開発されていくでしょう。しかし、便利さイコール豊かさとは限りません。テクノロジーが進化する中で、”ゆきとどき過ぎた生活”に支配されないよう、考える時期が来ているのかもしれません。

ライター: 肥沼 和之

大学中退後、大手広告代理店へ入社。その後、フリーライターとしての活動を経て、2014年に株式会社月に吠えるを設立。編集プロダクションとして、主にビジネス系やノンフィクションの記事制作を行っている。
著書に「究極の愛について語るときに僕たちの語ること(青月社)」
フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。(実務教育出版)」