“スマホネイティブ”と呼ばれる世代があります。子どもの頃からスマートフォンを持ち、SNSやLINE、アプリなどを当たり前のように使いこなす若者のことです。上の世代からすると、カルチャーギャップを感じることもあるでしょう。しかし、戸惑ってばかりはいられません。AIの普及に伴って、”AIネイティブ”たちが誕生しようとしている中、我々はどのように子育てや教育に向き合うべきなのでしょうか。

オバマ前大統領も注目したSTEM教育

“STEM教育”が注目されています。これは、AIをはじめとしたテクノロジーが普及する中で、特に必要とされると考えられている「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Mathematics(数学)」の頭文字を取ったものです。米国では1990年代後半から広まりはじめ、オバマ前大統領も重要政策の一つとして力を入れていました。

 

民間も同様で、米アマゾンは2017年1月から、科学や数学に関するおもちゃを毎月届ける「STEMクラブ」を開始。アップル社も、子どもたちが対象のサマーキャンプで、3日間に渡ってプログラミングを教えています。STEM、いわゆる理系の知識が、これから必要になってくることは、世界中に浸透し始めているのです。日本でも2020年から、小学校でプログラミングの授業が必修化されますが、欧米に比べてまだまだ遅れており、技術者の数も不足しているのが現状です。

 

STEMを学ぶことは、AIについて学ぶことでもあります。AIを理解して使いこなす、もしくは開発する能力がないと、どうなってしまうのでしょう。それこそ、AIに仕事を奪われて失業してしまうか、安い賃金でこき使われてしまうことになりかねません。

会社が守ってくれない時代に

今の時代で例えてみましょう。スマホの知識がゼロの方は、ビジネスの第一線で活躍できるでしょうか? 恐らく、難しいですよね。例えば本や雑誌、新聞などのコンテンツは、今や多くの人がスマホで閲覧するようになっています。紙の発行部数が減っている中、スマホに合わせた見せ方や内容、販売方法、マーケティング、収益モデルなどを構築しないと、生き残れません。スマホの特徴やできること、他社の戦略などを把握しておく必要があるのです。

 

それと同じく、AIについて知っておくことは、これからの時代で絶対に必要となります。その土台として、STEM教育が注目されているのです。ちなみに近年は、これにArt(芸術)を加えて「STEMA」とも呼ばれています。元日本マイクロソフト社長の成毛眞さんは、アートを見たりSF小説を読んだりして、想像力やクリエイティビティを養うことを推奨しています。

 

この先、会社や雇用の在り方は変わってきます。従来の新卒一括採用や、終身雇用、年功序列などはなくなり、人々の働き方はフリーランスに近くなっていくでしょう。会社が守ってくれないため、自分で生き残る術、つまりAIリテラシーを身に付けておく必要があるのです。

AIスキルは夢も叶えてくれる?

AIのリテラシーを身に付けておけば、将来的に職業選択の可能性が広がりますし、夢に近い仕事に付けるチャンスも増えるでしょう。例えば、お子さんの夢が「スポーツ選手になりたい!」だったら。非常に狭き門なので、正直、実現できる可能性は高くありません。けれど、スポーツ関連の仕事に就くことであれば、ハードルは一気に下がるでしょう。スポーツを含めたあらゆる分野で、AIは欠かせないテクノロジーとなるからです。

 

例えば試合のデータや選手の成績をAIで分析して、戦略立案や選手の起用にアドバイスをするデータサイエンティスト。データをもとにより多くのファンを獲得し、試合会場に来てもらうための施策を打つマーケターなど。これはスポーツだけでなく、あらゆる業界に通じます。AIのスキルが、目指す業界へのチケットとなるのです。

 

また日常生活も便利で豊かになります。これからAIだけでなく、IoTやVR、自動運転、フィンテックなど、さまざまなテクノロジーが社会に普及します。STEMで基礎知識を身に付けておけば、社会生活の変化にも柔軟に対応できるようになるでしょう。

子どもに身に付けるさせるべき「極める力」

STEM教育のほか、お子さんを持つ方は将来に備えて、どのような教育をするべきでしょう。世界初となる人工知能型教材「Qubena」の開発者であり、AIが先生を務める塾「Qubenaアカデミー」の設立者でもある神野元基さんは、これからの時代に生き残れる人を、“圧倒的能動志向を持った人”だと著書で綴っています。これは、「他者や周囲の環境に依存せず、自分にしかできない仕事や、社会における役割をどんどん作り出せる人」のことです。そして、将来そういった大人になるために、子どもたちに身につけさせたいスキルを、「極める力」としています。この力があれば、社会がどのような状況であっても、自分で考えて行動し、適応していけるようになるといいます。
神野さんはこの「極める力」を養うために、子どもが興味や関心を持ったことに取り組む際、5つの手順を指南しています。

 

① 目標設定(例:ゲームで日本一になりたい)
② 目標の具体化(そのゲームの日本一のプレイヤーの情報を集める)
③ 課題発見(自分に足りないこと、弱いことは?)
④ 解決策を考える(どうすれば課題を解決できるか?)
⑤ 振り返り(課題と解決策をもとに練習し、振り返りをする)

 

上記のサイクルを繰り返し、目標に近づけていくのです。ビジネスで言うところのPDCAですね。大事なのは、課題や解決策など、全て子供に考えさせることです。口を出したくなっても、親は答えを教えてはいけません。さりげなくヒントやアドバイスをあげるだけです。こうした繰り返しが、「極める力」を磨くのです。

 

※詳しくは、神野さんの著書『人工知能時代を生き抜く子どもの育て方(ディスカヴァー・トゥエンティワン)』を参照ください。

子どもの吸収力や学習スピードは非常に速いものです。親御さんはぜひ、子どもがテクノロジーに触れる機会や、「極める力」を養う機会を、早いうちから用意してあげてください。

ライター: 肥沼 和之

大学中退後、大手広告代理店へ入社。その後、フリーライターとしての活動を経て、2014年に株式会社月に吠えるを設立。編集プロダクションとして、主にビジネス系やノンフィクションの記事制作を行っている。
著書に「究極の愛について語るときに僕たちの語ること(青月社)」
フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。(実務教育出版)」