AIは東大に入ることができる?
AIの進化が言われている中で国立情報研究所で面白いプロジェクトが行われているのをご存知でしょうか。
それは「東大ロボットプロジェクト」です。このプロジェクトは2021年までにAIが東大に合格することを目的にしていましたが、残念ながら現在は凍結しています。とても面白いプロジェクトでしたが、これまでの研究で様々なことが分かってきました。
世界のAI研究と共通している部分も多いのですが、東大に入るという具体的な目標がありましたので、ここではその研究から分かったことを紹介していきます。
東ロボ君とは?
東ロボ君とは前述したようにAIが東大に合格することを目的にした研究プロジェクトです。しかし、実際には現在、そのプロジェクトは凍結されています。その理由としてはこのままでは東大に合格するに至らないからです。その理由はAIが苦手とすることに関係しています。
2016年のベネッセのセンター試験模試と代々木ゼミナールの東大入試模試の結果
前述したように東大ロボットプロジェクトは一旦凍結されましたが、その最後の模試の結果は以下のようにでした。
まずセンター試験模試ですが、合計で525点で偏差値でいうと57.1です。これは「MARCH」や「関関同立」でも学部によっては80%以上の合格可能性があります。科目別では国語、数学(数学ⅠA・ⅡB)、英語(筆記・リスニング)、理科(物理)、地歴(日本史・世界史)を受験し、4教科6科目で偏差値50を越えました。特に注目すべきは世界史Bで偏差値は66.3と高い数字になっています。また前回偏差値50を下回っていた物理で偏差値59を取ったのは大きな成果と言えるでしょう。ただし、英語のリスニングは偏差値36.2、英語の筆記50.5、国語49.7と低い偏差値のままでした。
一方、論述模試の場合は数学(理系)で76.2と高い偏差値を出しています。前回の模試では44.3でしたので、大きな進歩と言えるでしょう。ではこの結果からどのようなことが分かるのでしょうか。それをこれから説明します。
東ロボ君から分かったこと
東ロボ君のプロジェクトからAIが得意なことと苦手なことが分かってきました。ここではAIが得意なことと苦手なことについて説明します。
東ロボ君から分かったAIが得意なこととは
さてこのような試験結果からAIの得意なことが見えてきたと言えます。つまりは意味を考えなくても答えられるような問題は正解できます。
センター試験の問題では、世界史や数学など、問題文の意味が分からなくても答えられる分野は正解率がとても高いです。よく理解されているようにAIはデータ処理やその最適化は得意なのです。こうした分野に関しては人間はAIに遠く及ばないでしょう。
しかし、東大に入ることは無理であると言ってもセンター試験模試で偏差値57.1取れるというのはすごいことです。文章の意味が理解できないと言っても、そこまではできるということは、今後、AIが人間の変わりに行う仕事が増えてくることは確かでしょう。
東ロボ君から分かったAIが苦手なこととは
一方で東ロボプロジェクトから分かったことは国語など、文章を理解することです。
大量のデータの中にないような問題はAIでは正解できません。前述したように、国語や英語の偏差値は低いものでした。特に人間の社会ではパターンで解けない問題はたくさんありますよね。
答えがないような問題、文脈を考えないと答えが出ないような問題はAIでは答えることができません。こうした問題はAIは苦手なのですから、こうした能力を人間は鍛えるべきだという話になるのです。
東ロボプロジェクト新井紀子氏の提言
こうした結果から東ロボプロジェクトの責任者である新井紀子氏は子どもたちは国語力を鍛えるべきだと主張します。
実際に新井氏が子どもたちの国語力を調べたところ、子どもたちもAIと同様に国語力が低いことが分かったのです。一例を上げると、
「仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広がっている」
という例文があります。そこで
「オセアニアに広がっているのは( )である」
と聞くと約3割の中学生が答えられませんでした。答えはキリスト教ですよね。
こうしたことから、新井紀子氏は「計算の正確さと暗記の正しさで人間がAIに負けることは何も問題はなく、人間はAIを使って生産性を上げていけばいい。しかし、(AIが苦手な読解力を伸ばさずに)AIが得意とする分野で人間が対抗しても勝てないだろう」(「AIの性能を上げている場合ではない」──東ロボくん開発者が危機感を募らせる、AIに勝てない中高生の読解力)と危機感を抱いています。それが前述した国語力を鍛えるべきだという話に繋がっていくのです。
文章を理解する練習をしましょう
新井氏が言うように人間が得意な能力を伸ばしていかなければ、AIの進化の中で生き抜いていくことは難しいでしょう。私も小学生に国語を教えていますが、文章を理解する能力が低い子どもたちは意外と多いです。大学生でもネット検索すれば簡単に情報が手に入るためか、本を読まない人が増えてきています。文章を理解する能力こそ人間の特別な能力なのですから、毎日、少しずつでも良いので本を読んで文章を読むようにしましょう。
記事作成/ジョン0725