働き方改革とは文字通り働き方、労働のあり方、仕事の内容に直接かかわる改革です。人の生涯に対し、学校を卒業してから退職するまでの年数は大きな割合を占めています。その時間の過ごし方の改革が働き方改革なのですが、その概要はどのようなものでしょうか。まとめてみました。

働き方改革の概要について

働き方改革で変わるもの

労働は何のためにするのでしょうか。もちろん様々な理由がありますが、賃金をもらうため、というのは大きな理由です。十分な貯蓄や配当を得た人が仕事を辞めるのはそのためです。そして高い賃金を得ている家庭は、多くの商品やサービスを利用する機会に恵まれるのです。

さて、個人ではなく国家として考えてみましょう。国民がよく働く国は、当然ですが大きな報酬を得ることになります。ですからその国の経済力、もっと言えば国力は、国民がどれほど働くかにかかっていると言えるでしょう。その観点では、日本は現在まで国力の高い国ですが、今後はこの国力が下がることが懸念されています。

働き方改革は、国レベルで経済力を高めるために、日本の国民全体の働き方を変えるというものです。では具体的に何を変えるのでしょうか。主な課題として、同一労働同一賃金、長時間労働の是正、労働市場の流動性が挙げられています。

働き方改革の実現に向けての政府の取り組み

政府は2016年9月に「働き方改革実現推進室」を設置しました。雇用情勢が好調な今が、その好機と考えられています。では、主な課題として挙げられた、同一労働同一賃金、長時間労働の是正、労働市場の流動性について見て、それぞれがどのように国の経済力を高めることにつながっているかを考えましょう。

同一労働同一賃金の原則

非正規労働者という概念がなくなる

改革の1番目は、同じ労働をしている者には同じ賃金を支払うという原則です。もちろん、変形労働時間制やフレックスタイム制、短時間労働制の導入と相反するものではありません。

今は同じ仕事をしていても雇用形態の違いにより給与が異なる場合が多くあります。仕事の内容や残業時間数は同じなのに、正社員とパートでは待遇が異なるのです。

正社員は給与が高いだけでなく賞与や福利厚生も充実しています。対しパートは給与が低く、同じ報酬を得るには長時間働く必要が出てしまいます。それにより体力を使い果たしてしまうばかりか、働きが報われていない、評価されていないという気持ちから精神的にも追い詰められてしまうのです。

これが解消されることは社会に大きな影響を及ぼします。賃金に見合うだけの働きをしようと意欲的になることでしょう。また能力を存分に発揮するようなイニシアティブが生まれることにより、経済が活性化することが期待されます。

社内の評価制度はどうなるか

同一労働同一賃金には欠かせないポイントがあります。それは労働者が納得できるような、そして会社が必要としている人材に合致するような、しっかりとした評価制度の確立です。仕事の成果についての公平な評価ができなければ、同一労働であることを示せません。この仕事の評価というのが、なかなか難しいのです。

評価をするのは通常は職場の上司なのですが、評価基準が細か過ぎると評価者に負担となりますし、基準がおおまかだと恣意的な評価になってしまいます。また、良い評価をもらおうとする従業員が出てきて、評価に歪みが生じたりします。

最悪なのはこの評価制度が悪用され、あえて厳しい評価を下すことで一方的な賃金カットの口実として利用されるというケースです。これらを防ぐようなシステムが必要です。

長時間労働をなくしていく

労働時間に対する見方を変える

安倍首相は「モーレツ社員という考え方自体が否定される日本」へ変革するという意向を示しています。その言葉通り、残業の多い社員が優秀とされる風潮を変化させるのが、働き方改革の2番目のポイントです。

残業時間を減らすためには、環境も整備される必要がありますが、労働法からのアプローチも必須です。働き方改革の中では、まず36協定に上限規制が設けられました。これまで事実上無制限の残業が合法的に可能でしたが、これを1か月100時間、2か月の平均80時間を上限と定めました。

次に勤務間インターバル制度の導入に助成金が出ることになっています。これは、労働日の終了時間と翌日の開始時間との間に9-11時間のインターバルを置く制度のことで、たとえ繁忙期であっても最低限の休息時間を取らせることを目的とした制度です。

女性や高齢者にとって働きやすい環境

以上のように労働時間を短縮していくことで、企業の生産性を低下させてしまうのではないかとの懸念があるかもしれません。確かに従業員1人1人の働く時間が短くなれば、企業全体で見れば無視できない数字になります。しかしこの長時間労働の是正にはテーマがあります。それは女性や高齢者など、現在の状況で働けていない人々の活用です。

女性や高齢者にとって長時間労働はハードルが高いものです。しかし短時間労働では単純作業しか任せられないという企業も多いです。少し考えれば、サービス残業を当然のようにこなす長時間労働者が多くいる職場に、家庭とのバランスや健康上の問題を優先しながら短時間の労働力を提供する労働者が入って行っても働きにくいことは容易に想像できます。

現在はまだ移行期間にすぎませんが、残業に上限規制がかかり、仕事日と翌仕事日との間に最低限の休息時間が確保されることで、その条件なら働けるかもしれないと考える人はいるわけです。長時間労働の常態化が解消されるなら、さらに多くの人々に門戸が開かれることになり、これが企業全体および国全体の労働力増加につながるのです。

柔軟な労働市場の実現

転職や再就職がしやすくなる

IT技術の進歩に伴い、仕事にも大きな変化が生じ始めています。ユーチューバーのように昔はなかった職業が登場する一方で、ITの導入により不要となる職業も出てきました。その流れの中で自ずと転職や再就職をしていくことになるでしょう。
しかし、日本の企業や環境は転職に対して未だ否定的です。1つの企業に長く勤務することが美徳であって、転職するのはその本人に何らかの問題があるからだ、などと決めつけられてしまいます。この意識を変えていくのが働き方改革の3番目のポイントになります。

本人の事情やイノベーションにより、職業は変化するものだという認識を広めることが必要です。また、転職や再就職を促進するため、マッチングを支援する機関、とりわけ自力で職を見いだすことの難しい高齢者をサポートする機関が必要です。経済産業省も民間の取り組みを支援しています。

全体的な生産性の向上

では転職が国の経済にどのように関係しているのでしょうか。個人レベルであれば賃金の高い職業への転職は、自分の経済力の向上につながります。実は同じことが国家にも言えるのです。

ある人が賃金の低い職業を辞めたとします。その会社は人員が1名不足した状態になりますが、賃金が低いため求職者が現れません。そのうちにIT技術が革新し、不足していた1名分の仕事が技術によって埋まりました。結果、この企業は1名少ない人数で従来と同じ生産性を示すことができるようになりました。

これは単純な例ですが、付加価値の高い職種や業界への転職が容易であれば、日本の全体的な生産性が向上します。AIに仕事を奪われるなどと憂いを感じる必要はありません。働き方改革が目指すのは、そこです。1億人の国民が、それぞれ意義深い職を見いだして、能力を存分に発揮し活躍することなのです。

まとめ

働き方改革が何をしようとしているのか、3つの点からまとめてみました。ブリタニカ百科事典によれば、改革とは「社会の変動や危機に対応し、あるいは適合するように社会的、経済的、政治的諸制度や諸組織、諸政策などを部分的に改善すること」です。ここで挙げた3つのポイントは、どれも日本社会の変動への対応策になります。

一方で改革の定義の続きには、「体制の全面的変革や崩壊を防止するという意味をももっている」とあります。働き方改革の概要を見て、その内容が多岐にわたっていることから、その実現性に疑問を持たれる人もいらっしゃるかもしれません。
ですが実はこれでも、世の中を大きく変えてしまう革命が起こる前に、より小規模な改革を実行しているだけなのです。これらの政策が成果を挙げ、多くの人々の不安を解消する方向に進んでいくことが期待されています。

執筆者:木本こかげ

社会保険労務士。翻訳家。専門知識を背景に社会保険・労働保険・助成金・年金に関する記事を多数執筆。「日本語力」を生かして就業規則・契約書・医学論文・機械取扱説明書・オンラインゲームシナリオの英文和訳を多数手がける。