近年注目されている、CMO(Chief Marketing Officer=最高マーケティング責任者)。今回のインタビューは、CMOアウトソーシング事業を展開する株式会社warmthの代表取締役を務めながら、野菜宅配サービスで知られるオイシックス株式会社のCMOを兼任する西井 敏恭さんです。

ウェブマーケティングのプロとして、上場企業のCMOや、スタートアップから大企業まで複数社のマーケティング支援を行う会社の社長として、「複数社で同時に働く」働き方を実現しています。

後編では、マーケティングにおいて最も重要なことは何か、そして現在のマーケティング手法に関する疑問、尊敬するマーケターや今後の展望を伺いました。

まずは内部人材で考えぬいてから、専門家の力を

Q:ドクターシーラボ、そしてオイシックスのCMO、warmthなどそれぞれの会社でマーケティング戦略を進めていくにあたり、重要だと考えていたことは?

西井 敏恭さん(以下、西井):

重要だと思っていたのは、今まで培った「経験」と、経験不足を補うための勉強による「知識」、そしてとりあえずやってみようという「実行」の3点です。すなわちマーケティングに必要なのは、経験と知識、そしてそれを加速させるための実行が必要だと思っています。

新しいことをやる時には、物事を深く知らなければいけません。実行しないと経験も積めませんし、経験を積むためにもなんとなくの理解ではなく、深い知識があったほうが正しい結果がでる経験を積めると思います。事業者側でのマーケティングは広く浅くでも、狭く深くでもなく、広く深くでないとダメだと思います。

経験を積むにも、広く深く知識がないとダメなのですね。

例えば他社でfacebookによるマーケティングがうまくいっていると聞いたとします。それを見て自社で実行してみたけれども、うまく結果がでない。この時によく「うちの商材は合わない」「ターゲットの属性が違う」などといった話が出てきますが、ほとんどの失敗ケースはこれに当てはまりません。

ターゲットの属性が合うか合わないかは最初からわかりますし、facebookという仕組みがどのようなロジックで表示されて、どのような場合に興味を持つコンテンツとなり、それを自社の商材に当てはめた時に、どのような設定でどういう風なコミュニケーションを実施すればいいか、うまくいかなかった時はどのように修正していけばよいかなどを理解した上で実行できていれば、成功確率はもっと上がっていきます。

ECサイトを運用する際、最終的にはお客様に支持されて商品が売れて利益が出る事が大事です。

例えば、大手のECサイトAmazonでは最先端の施策を行なっています。では、自社でも同じことをすれば儲かるかというと、そうではない。オイシックスがAmazonと同じサイトを作って同じような売り方をしても、ユーザー数も違えば強みのある取扱い商材も違う。それなのに、他社でやっているような同じような手法を実施しても、簡単に売上や利益があがるわけはないのです。

マーケティングにおいて、専門領域が細分化していっている印象があります。パートナー企業や専門家などの外部リソース活用の見極めはどうやればいいですか?

西井:

マーケティングにおいて大事なのは自社の強みや取扱い商材をしっかりと理解することです。そのためには、自社のビジネスモデルを知っている事業者側がマーケティングに対してしっかりと考える力をつける必要があります。そして、実行の部分で専門家と連携していくべきです。

マーケティングでは以前から4P(Product, Price, Place, Promotion)と言われていますが、Promotionだけがマーケティングではありませんし、これはWEBのマーケティングについても同じです。

まずはしっかりと自社で「自社に今必要なマーケティングはどうすればいいか」を考える。その時に最適なものは何か。そもそもそれを考えるための知識か、それとも実行するための知識や経験か。SEOもSEMもアドテクノロジーも一つ一つが年々変化しており、古い知識では役に立たなくなっている事も多いため、自社で必要なものをしっかりと考えた上で、専門のパートナー企業と連携していくとスピードがあがると思います。

いずれにしても、事業に理解がありマーケティング手法を俯瞰的に見られる方が社内にいることが大切です。我々もお手伝いしておりますが、人材を育て、チームを作っていける人を増やすためにも、代理店やベンダーの方が広告主側に転職したり、広告主側の人が代理店に転職するなど、もっと人材の移動があってもいいと思っています。

空気を読まず、経営目線で内部から

Q:最適なマーケティング手法はどのようにして考えていくものでしょうか?

西井:

私が深く関わっている通販の考え方は、いかに見込み客へアプローチし、使っていただいて、リピートしてもらうかということ。新しいユーザーとどういう風に接点をもって、そのお客様とのコミュニケーションをとって長いお付き合いを続けていくかです。

通販以外の会社を数社お手伝いしてみてわかったのですが、実はWEB上でのマーケティング手法はシンプルで、通販以外でもほぼ同じように考える事ができます。

私が現在関わっていて、非常に伸びているWebサービスを提供する会社のマーケターの人が「私たちは通販サービスではないが、やっていることはほとんど通販のやりかたを参考にしている」と言っています。

また、ある通販企業の社長とスポーツのマーケティングについてお話をしていても、「それってダイレクトマーケティングと同じことですよね」という話をしていました。

今までは新しいお客様と接点をもって、その後使っていただき、使い続けてもらう、というプロセスが見えづらかったのですが、Webが登場したことによって、以前よりも可視化されやすい状態になって、考え方自体がシンプルになっているのかもしれません。

Q:CMOのアウトソーシング事業を展開するにあたって、意識していることはあるのでしょうか?

西井:

3つあります。まず一つ目が、依頼の初期段階でできる限り経営者の方と直接お話させていただきます。直接経営者と話すことで現状の問題意識を確認することができますし、マーケティング全般を考えた時に、商品や組織作り、予算の編成にまで話が及ぶこともあります。

経営者と話さないままスタートすると、「その部分は他の部署だから」「その部分は会社の決定だから」などの理由でプロジェクトそのものがうまくいかない場合が出てくるからです。経営者自身がマーケティングに課題をもっていて、変化する意思を持っている事が成功するためには重要だと考えています。

二つ目は、自分自身が内部の人として、どのようにすればうまくいくかを考えること。

外部から「お金をいただいている」という関係性ではなく、仕事の依頼をいただいた会社がどうすればうまくいくか。自社の売上でなく、依頼主の売上が上がれば、最終的に自社に戻ってくると考えています。不要な広告を実施しようとすれば止めますし、依頼主の売上が上がれば心の底からうれしいと感じています。

三つ目は、空気を読まないこと。もっとうまくいく方法を実践するために、既にある体制や仕組みを壊していくことは外部から入ってきたからこそできることです。「お金を払っている」「お金をいただいている」という関係ではなく、時には耳の痛い事を話すこともありますし、社内では見えていないことなどを言うだけでなく、一緒に取り組むことに価値があると思っています。

プロのマーケターだからこそ、毎日の努力を欠かさない

Q:最近のマーケティング手法のトレンドについてはどのようにお考えでしょうか?

西井:

最近はテクノロジーの話ばかりが先行しすぎていると感じます。マーケティング手法についての話が取り上げられるのがとても多いのですが、それよりももっと本質的なことを大事にするべきだと思います。テクニックにとらわれず、物事に対する本質を見抜くことで、もっとシンプルに問題を考えられることが多いです。商品が良くなかったり、届いた時の箱がボロボロで残念な気持ちになるような状態になっているのに、リピートしてもらうためにはメール配信のシステムを整えよう、みたいな話は本末転倒だと思っています。そのようなお客様にがっかりさせてしまう体験を与えては、どんなテクニックを使ってもリピートは生まれないんです。

Q:マーケターか、もしくはこれまでCMOとしてかかわった方々の中で参考にしている方はいますか?

西井:

経営者でいうと、ドクターシーラボの城野会長やオイシックスの高島社長でしょうか。二人ともマーケティングを非常に重要だと考えている経営者で、ゼロから会社を作って数年で今のような会社にしているという点で、一緒に仕事させていただいていつも勉強になります。

マーケターでは、スタートトゥデイの清水さん、良品計画の奥谷さんですね(※奥谷さんは2015年10月にオイシックスに転職)。名前をあげた4名は立場もビジネスモデルも様々ですが、マーケティングに対してとことん真摯に向き合っていて、これは褒め言葉なのですが、”マーケティングバカ”ですよね。

昔、講演で清水さんとご一緒したときがあるのですが、私が半年で50冊ほどマーケティングの書籍を読書していると話したら、清水さんは毎月50冊読んでいる、と言っていました。清水さんはすでに多くのことを知っているのにもかかわらずインプットを続け、新しい事を実践されており、そういう方々が近くにいるとすごく刺激を受けます。

マーケティングは、そうやって絶えずインプットもして、アウトプットもしている方が活躍している場所だと感じています。

Q:西井さんの最終目的はなんでしょうか

西井:

僕は、あまりゴール設計を得意としていないんですよね。
10年前にいまの自分は想像できていたかといえば、そうではない。ただ、目の前のことを一生懸命やっていた結果が今、ということだけなのです。将来、政治家になっているかもしれないですし、宇宙に行っていたりするかもしれませんね。でも、三回目の世界一周は確実に行きますね(笑)

ただ、今はもっとマーケティングを日本に根付かせていきたいです。そのうえで、経営者の体験を積み、一流の経営者になりたいなと思っています。

文/千葉 忍・早野 龍輝
撮影/加藤 静

【専門家】西井敏恭氏
1975年福井県生まれ。2001年、26歳時に世界一周の旅に出たWEBの旅日記が人気を博す。帰国後、旅経験についての本を出版し、当時黎明期だったECの世界へ。各社でEコマースを約10年間経験したのち、2013年末ドクターシーラボを退社。再び世界各国を旅行後、2014年6月に帰国し、株式会社warmth設立、代表取締役CEOに。現在、warmthでCMOのアウトソース事業を展開しながら、オイシックス株式会社のCMOとしても活動。大手通販、スタートアップの企業など数社のマーケティングを支援している。Webマーケティングのプロとしてデジタルマーケティングフォーラムad:techをはじめ、全国の講演や、雑誌や新聞、テレビなどのメディア掲載多数。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスX-bookを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。