日々注目度を高めている民泊。
政府主導で条例が制定され、民間でも活用の動きが広がるなど、そのニーズは目に見えて高まっている。
今回お話いただくのは、そうした民泊ニーズに「運営代行」のかたちでワンストップのサービスを提供する町田龍馬氏。
ビジネスノマドの働き方にフォーカスしたインタビューとしても、町田氏の働き方はヒントに満ちている。民泊の現場からみるインバウンドマーケティングの可能性について伺った。
高まる民泊需要に、オールインワンで応える。Airbnbの内装と運用代行
Q:まずは、現在の仕事内容についてお聞かせください。
町田 龍馬さん(以下、町田):
Zens株式会社で、Airbnbの内装と運用代行全般のサービスとコンサルティングを行なっています。
内装というのはアパート、マンションや一戸建てのリノベーションを指します。また、運用代行というのはAirbnb上での英語でのメッセージ対応、清掃、緊急時対応、価格最適化ですね。
また、Airbnbのコンテンツ作成も行なっておりまして、物件の撮影やゲストに送るガイドの作成など、幅広くホスト(貸し主)をサポートしています。
物件準備から掲載、予約対応、当日対応、アフターフォローから事故対応までのノウハウがあるため、最終的には代行料金を差し引いても手残りの利益が上がるようになっています。
働き方も柔軟で、常にどこかの管理事務所にいるわけではなく、常に担当する物件を回り、オーナーとのディスカッションやコンサルティングを行っており、動き方はかなり自由です。
Q:現状、日本での需要に関してはいかがでしょうか。
町田:
日本国内の民泊需要は、日々かなり高まっていると感じています。
最近ではAirbnbが様々なメディアに取り上げられており、私もニュース番組からよくコメントを求められるのですが、その流れのなかで、ほとんどの方が英語力に不安があってなかなか自分じゃなかなか始めることができていません。
そこでAirbnbの代行サービスを探されるお客様に対して初期段階から相談に乗っています。
Q:現在のサービスにいたるまでの経緯をお伝えください。
町田:
もともと4年ほど、オンラインのメディア作りをやっていました。3000字前後のオリジナル記事を、企業に向けて作成していたのですね。それは海外の記事やサイトを参考に、オリジナルの日本語コンテンツを作るというものでした。
ただそのなかで、自分は日本を良くしたいと常に考えており、そのために何ができるか探っていました。
最初は自分が起業家として成功し、影響力をつけて、海外経験者や起業家精神を持っている人を増やしたいと思っていたのですが、それをやるのはなかなか難しい。
その時、たまたまAirbnbのホスト(貸し主)をやっている人と話す機会があり、利用者像や売り上げなどをリサーチしてみたら、サービスも面白く、売上も期待できるとわかりました。
まずは自分でホストをやってみて、「これはいける」と確信しましたね。
Q:なぜ、Airbnbに確信を抱いたのですか?
町田:
初めてうちに泊まりに来たゲストが大変良い方で、新しい価値観を学ぶことができ、さらに個室貸しにも関わらず一泊7000円以上も頂けたんですね。これは良いことしかないな、と。
それで、「これは海外経験者を増やすという、自分がやりたかったことを日本に居ながらやれるな」と可能性を感じたんです。
そこから、まずは身近な人にホストを勧めました。
しかし、初めは誰もやりたがらない。「外国人とは交流したことはないから、無理だ」「英語でメッセージ対応や緊急の時の対応をできると思えない」という意見を聞き、きっかけ作りの必要性を感じましたね。
それなら、まずは自分が貸し出す物件を増やし、泊まりに来たゲストと日本人を繋ごうと交流会を開催し、それを国際交流のきっかけにしてもらおうと考えました。
NYのブロードウェイミュージカルの女優が来た時、そこに日本人のクリエイターを呼んで、気軽に一緒にご飯食べたりするイベントを開催しました。
ただ、実際にイベントと業務の両立は大変。
それなら、まずは運用代行事業にフォーカスし、日本でAirbnbの物件数が一番多くて安心ができる会社になろうと、考え方をシフトしました。そしてどんどん件数を増やしていくことで、質を高め、いいゲスト達が自分の物件に来る状態になっていれば、今後何をするにしても可能性が広がるなと感じました。
現在は、2020年までに2万件の運用代行をめざしています。
日本人は海外旅行客のニーズをわかっていない。Airbnbの利用客のニーズとは
Q:Airbnbはいわゆる民泊となりますが、民泊というのは、日本にそもそも適していないという意見もあります。日本人は国際交流が苦手で、内気な人が多いとされますが?
町田:
国際交流の経験が乏しい日本人にはどうしても不安があるでしょう。
ただし、一度Airbnbを使ってもらえば、ゲストはすごくフレンドリーで、日本の文化を学びたいという積極的な人が多いとわかると思います。
例えばこちらが英語をゆっくりしゃべる。向こうが日本語を頑張って喋ってくれる、そういうお互いを理解した交流さえすれば考え方が変わると思います。
Q:民泊のプロとして代行業とコンサルティングを進める中で、意識しているところは何でしょう。
町田:
驚かれるのが、利用者のニーズ把握ですね。
Airbnbの利用者は、通常のホテルに宿泊するような外国人旅行客とは好みが大きく異なります。彼らは、おあつらえ向きの「外国人観光客向けに用意された、いかにも観光地的なもの」には興味を示さないんですね。
たとえば、メニューや内装などで過剰に日本文化を強調した飲食店や、外国人向けに作られたアミューズメント施設などは、あまり魅力がない。彼らにとって、富士山や浮世絵、サムライのポスターのような過剰な装飾は不要です。
求めるのは、現代のありのままの素朴な日本像なんですね。
驚くべきことかもしれませんが、Airbnbでの滞在中、彼らはほとんど予定らしい予定を立てません。せいぜい、その日はどのエリアに向かうかと、どこで食事するかといった予定だけ。1日のスケジュールがびっしり、といったことは珍しいくらいです。
渋谷の近くに泊まったなら、ある1日はそこからひたすら街と街の間を歩いてみて、目に入った定食屋にふらっと入ってみる、といったことをやるゲストもいます。
Airbnbの利用客は偶然の体験に楽しみを見出す人が多いため、予定を立てずにその日の出来事を楽しむ、といったことが当たり前です。
また、彼らにとっての関心事は日本の「食」です。
多くの利用者が日本食の素晴らしさを認めており、滞在中にどれだけ日本食を味わうことができたかで満足度が変わっていきます。
利用者の職業をみてみると、通常の旅行客に比べてクリエイティブな職業の方が多いですね。
デザイナー、ブロガー、エンジニアなど、どちらかといえば新しい物好きで、社交性が高く、多少のアクシデントはむしろ楽しんでしまうような人が多いといえます。
こういったニーズがわかっていないで、とおり一遍の観光客対応をしようとすると、結果につながりませんから、そこはプロとしてお伝えしていますね。
民泊現場から感じる、日本の魅力と可能性
Q:2020年東京オリンピックに向けてインバウンドの増加に伴い、Airbnbの需要も増えると思います。Zensでは具体的にどこまで事業を拡大していきたいと考えているのですか。
町田:
東京オリンピックまでに2万件の運用代行が目標です。また、東京オリンピックの後の需要に関しても、僕はもうちょっと上がっていくと思いますね。
日本のポテンシャルはものすごく高く、実際にまだ日本のいい面が英語という形で全世界に通して発信されていないんですね。
ちゃんと発信されて、しかも、オンラインで日本の物やサービスが買える状況になってくれば、もっともっと日本に来る人は増えていくと考えています。
現在の需要は、東京オリンピックに向けて増加しているというよりも、単純に日本の良さがどんどん世界中にソーシャルメディアやブログを通して広がっているためだと考えています。
それが更に東京オリンピックに向け、オンラインでもオフラインでも英語化されていけば、もっと日本に来る人は増えます。東京オリンピックが終わっても、需要が減速しないでしょう。
ノマドだから可能になるサービスがある
Q:ビジネスノマドとして、町田さんはどのような1日を過ごしているのですか。
町田:
朝8時くらいに起床して、メール対応、お昼からは打ち合わせが多いです。その後は、犬の散歩をしながら、電話会議で関係者とコミュニケーションをとります。
いつでも好きなように自分がタイムスケジュールを決められるため、柔軟に動けるところが良い点ですね。ずっとオフィスにこもりながら仕事するのは、僕にはちょっと合わないですね。
犬の散歩をしながら公園にいって緑を見ながら会議をするとか。ストレスフリーになりつつ仕事ができます。
もちろん、やはりこのやり方は小規模なビジネスだからできるかもしれません。スタッフの増加とバックオフィススタッフの働き場所の確保のため、1月からは原宿に本社オフィスを設置します。
しかし、さまざまな物件に対応して、その全てで高いサービスを提供するために、僕は決められた場所にいるのではなく、必要な時に必要な場所にいることの重要性は実感しています。
ノマドとしての働き方が、結果的にサービスの質を高めると感じています。
基本的に居なくてはいけないスタッフがいて、あとは在宅や時々オフィスに来るような働き方が良いと考えています。
取材・記事作成/早野 龍輝
撮影/加藤 静
Zens株式会社 代表取締役CEO
1987年長崎県諫早市生まれ。大学卒業後、共同購入クーポンサービスで起業、その後2011年6月に株式会社Zen Startupを共同創業し、2013年8月に北米市場向けFacebook解析ツール「ZenMetrics」を開発・マーケティングを行う。2014年、自身がAirbnbホストになったことをきっかけに8月よりAirbnb内装・運用代行サービスを開始。同年11月に社名をZens株式会社 に変更。「英語を話す機会を増やし、外貨を稼ぐ機会を増やし、日本を元気にする」をビジョンにかかげ、2020年8月東京オリンピックまでに全国で2万件のAirbnb運用代行を目指す。
共著書に『中古アパート・マンションが生まれ変わる airbnb空室物件活用術』(小沢吾亘との共著、幻冬舎・刊)がある。
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