以前にも少しお話しましたが、M&Aでは契約成立=成功ではありません。統合によるシナジーを生み出すことができて、はじめて成功といえるのです。

ですが実は、この段階の「成功」をしているM&Aはごく僅か。残念ながら成功率の統計はありませんが、専門家の調査によると、5割前後と言われています。

そこで必要となるのが、統合プランです。契約に向けて多忙を極める中、さらに作業が増えるため大変ではありますが、プランを作ることで統合作業は格段にスムーズになり、成功の確率もぐんとアップします。

せっかく事業拡大や社員のために買収をしても、「買いっぱなし」ではもったいない!統合後のこともしっかりと考えてM&Aを実行しましょう。

統合プランの作成を通して、お互いの企業文化を理解する

Q:M&A後は、どのようなことに注意すべきでしょうか。

A:買い手と売り手の双方が積極的に統合に協力できるよう、「統合プラン」をつくります。

M&Aは、異なる企業文化を持つ会社同士が一つになることです。業界が同じだから、グループ企業だからといっても、企業には一つひとつ違う固有の文化があるもの。そのため、その統合作業には慎重に計画を立てて臨む必要があります。

当然、M&Aそのものを計画している時点で、どのように両者が統合すべきか大まかにイメージをしますが、クロージングされなければ細かいところまでは決められないもの。また実際に統合をしてみると、事前に決めた内容に不都合が生じて軌道修正しなければならない部分も出てくるでしょう。

そのために大切なのが、「統合プラン」を作成することです。この「統合プラン」はPMI(M&A後の経営統合=Post Merger Integration)とも呼ばれ、文字通り、どのように買い手と売り手を統合していくのかを明確にするものです。

M&Aの初期段階からプランを作成することで、スムーズな統合を実現

Q:統合プランには、どのようなことを盛り込めばいいのでしょうか。

A:それでは、具体的な作業内容について見ていきましょう。主なものは、以下の5つに大別することができます。

1.ビジネス戦略や企業イメージ(コーポレート・アイデンティ)
2.役員構成、場合によっては社名の変更
3.組織図、人員配置
4.給与体系、福利厚生、退職金制度
5.ITシステムの統合

上記のほかにも、オフィスの統合や各種発注先など細かいところでも統合が必要となってきます。

なお、この統合プランはM&A後に作成したのでは間に合いません。M&Aの当事者が登場し、お互いの情報収集がはじまった段階で検討し、事前交渉を行いながら統合プランをイメージしていきます。実務では、ビジネスDD(デューデリジェンス=事前調査)の作業中に大まかな両者統合プランを立てていくことが多いです。

難しいのは、M&Aがクロージングするまで社員や取引先などに情報を公開することができないため、限られたメンバーだけで統合後の姿をイメージしなければならないことです。ただ、これもM&Aがクロージング(契約完了)するまで。めでたくM&Aが成立したら一斉に情報を伝えるとともに統合スケジュールを共有し、プランを実行していきましょう。

契約完了まではもちろんですが、契約後も統合の成功のために、両者の企業文化を尊重し、コミュニケーションを密にして、お互いが協力する姿勢が求められます。

専門家:江黒崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。