1945年の終戦後、高度成長期を経て、世界2位の経済大国に成長した日本。長らくその地位を保持していましたが、2010年、中国にGDPで抜かれ、3位に転落しました。その後も少子高齢化に伴う労働人口の減少や、市場の成熟により、経済的な停滞は続いています。そんな中、日本政府はAIなど先端技術の活用による成長戦略を打ち出しました。AIの発展は、経済や産業構造にどのような影響をもたらすのか、見ていきましょう。

ドイツ発・4度目の産業革命で人間の手を必要としない「自動化」が実現

世界の歴史を振り返ると、これまでに3度の産業革命が起こりました。第一次が蒸気機関、第二次が電力や石油を燃料とした電気モータやエンジン、第三次がコンピュータの発明です。いずれも生産性を大きく向上させ、その名の通り産業に「革命」をもたらしてきました。

 

そして今、AIやロボットを活用した第四次産業革命(インダストリー4.0)が訪れようとしています。先駆けとなったのはモノづくり大国のドイツで、そのコンセプトは”製造業のデジタル化”です。これまでは分断されていた設計から製造、さらに流通や部品調達まで、モノづくりの全工程をプラットフォームでつなぎ、あらゆる情報をデータ化。そしてAIやIoT、ビッグデータなどテクノロジーを活用することで、製造工程の自動化を進めると同時に、生産性向上とコスト削減を実現するのです。ドイツでは2011年から産官学が一体となり、この一大プロジェクトに注力しています。

 

ドイツに本社を置くシーメンス社の工場では、このインダストリー4.0によって、製造工程の自動化が75%まで進んでいるそうです。と、ここで一つの疑問が生じます。自動化が進んだとき、その作業を行っていた労働者はどうなるのでしょう。新たな技術によって仕事を奪われ、失業してしまう「技術的失業」に陥ってしまうのでしょうか。

技術革新によって雇用は失われるのか

ここで再び歴史を振り返ってみましょう。17世紀~18世紀にかけてイギリスで起きた第一次産業革命では、人力に変わる動力として蒸気機関が発明されました。産業の中心だった綿織物工業は、主に工員たちの手作業で行われていましたが、機械化によって160倍以上の生産スピードを実現したのです。不安を覚えたのは工員たちです。自分たちの仕事が奪われることを恐れて、機械を壊す運動が起こったほどです。

 

ところが結果的に、技術的失業は起きませんでした。大量生産が実現したことで、綿織物製品の価格が下がり、買い求める人々が増えました。それに伴い工場の規模が拡大し、工員たちは機械のオペレーターとして必要とされるようになったのです。また、蒸気機関車といった新たな移動・輸送手段も生まれ、鉄道関連の職業も誕生し、そこで働くようになる人も増えました。これまでと形は変わっても、結果的に労働者の雇用は守られ続けてきたのです。これを「労働移動」と言います。

 

オックスフォード大学のオズボーン准教授が2013年9月、現存する702の職業のうち47%が、AIやロボットによって奪われると発表しました。これも技術的失業によるものですが、それに代わってより高度でクリエイティブな、機械に代替されない仕事への労働移動が起こるでしょう。

独立行政法人労働政策研究・研修機構
職務構造に関する研究 ―職業の数値解析と職業移動からの検討―」を元に作成

実はこの流れは、AIどうこうではなく、はるか昔から言われ続けてきた問題です。今から何十年も前に出版された経済本に、コンピュータやオートフォーメーション化によって雇用が奪われるのではないか……と書かれていたこともあるほどです。技術的進歩が起こるたびに既存の仕事が失われ、その代わり新たな仕事が誕生するのは、歴史上ごく自然なことなのです。

働かなくてもいい未来がやって来る?

冒頭で説明した第四次産業革命は、日本にとっても経済成長の大きなカギとなっています。政府は2016年、AIをはじめとしたテクノロジーの活用による成長戦略を発表しました。具体的には、自動運転やドローンによる宅配サービス、IoT、ドイツにならった製造工程の自動化など。テクノロジー分野で、2020年に30兆円規模の市場を作ることを掲げています。

 

その中でも、当たり前のように労働移動は起こるでしょう。例えばシステム開発全般を行うSIerという職業が、AIに精通した”AIer”に変化していくのではと、日立製作所中央研究所の主管研究長であり、AI研究家の矢野和男さんはあるインタビューで話しています。

 

ではその先の未来に、第2回で紹介した「汎用AI」が誕生したら(2030年とも言われています)。それこそ、産業構造や経済に大変革が起きることは間違いありません。汎用AIはドラえもんのように自ら思考し、物事を理解・認識し、意思決定までできるのですから、ホワイトカラーの労働の大部分が代替されるでしょう。その頃にはロボットも発達し、あらゆる産業がオートフォーメーション化されているため、労働移動の必要もなくなっているかもしれません。労働人口は全体の1割程度で、それ以外の人は趣味や余暇のために時間を費やす……そんな世界が実現するとしたら、あなたはどう思いますか?

ライター: 肥沼 和之

大学中退後、大手広告代理店へ入社。その後、フリーライターとしての活動を経て、2014年に株式会社月に吠えるを設立。編集プロダクションとして、主にビジネス系やノンフィクションの記事制作を行っている。
著書に「究極の愛について語るときに僕たちの語ること(青月社)」
フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。(実務教育出版)」