本来、勤務時間以外の時間をどう使うかは個人の自由です。会社に従業員のプライベートの時間についてとやかく言う権利はありません。しかし、多くの会社では就業規則に副業禁止規定があり、勤務時間以外の時間を自由に使うことを制限しています。
しかし、会社に内緒で副業をしているサラリーマンは少なからずいます。副業が禁止されていることを知っていながら、あえてするということは、バレてクビになることも覚悟の上なのでしょうか。それとも、副業することは違法ではないから会社が副業を禁止することが間違っている。だからバレても大丈夫。そう考えているのでしょうか。どちらにしても、副業について考える場合、副業禁止規定の法的性質は最も興味深い問題であり、その意味を明らかにしておく必要があります。
1.副業禁止規定は有効か? 就業規則の読み方に注意
憲法では職業選択の自由(憲法22条1項)が認められています。したがって勤務時間外の時間をどう使うかは個人の自由です。とはいえ、職業選択の自由を行使して会社と労働契約を結んだなら、ルールブックである就業規則に従う必要があります。
就業規則は使用者が一方的に作成できるもので、そこで定められた労働条件は最低条件としての効力を持ちますが、労働基準法に定める基準以上かつ内容を合理的なものとしなければなりません(労働基準法93条、労働契約法第7条)。
多くの会社では、就業規則に副業禁止規定があります。しかし、副業禁止規定の内容が合理的でないなら、その効力は従業員に及ばず、副業が会社にバレてもクビになるどころか何らお咎めなしとなります。
次の2つの副業禁止規定を見てください。
(ア)業を営み、又は、在籍のまま他に雇われることを一切禁止する。
(イ)会社の許可なく業を営み、又は、在籍のまま他に雇われてはならない
違いは、(ア)が理由の如何に関わらず一切の副業を禁止しているのに対し、(イ)が副業の可否を会社の許可に係らせ、副業できる可能性を残している点です。
職業選択の自由は憲法上の権利として保障されていますので、理由の如何を問わず絶対的に副業を禁止する(ア)のような規定は、内容が合理的とはいえず許されないことになります。そのため、多くの会社では(イ)のように規定しています。副業が理由の如何を問わず絶対的に禁止されていない限り、(イ)のような副業禁止規定を置くこと自体の合理性は認められています(小川建設事件・東京地判昭57年11月19日など)。
ここで注意すべきは(イ)の読み方です。一見、原則として副業は禁止であり特に会社が許可した場合にのみ例外的に認められる、というように読めます。しかし、副業することは憲法上の権利であり原則OKなのですから、(イ)のような規定の仕方であっても、特に会社が許可しないことが合理的であるケースに限って副業が禁止される、と読むべきです。
2.副業を禁止する理由は? 禁止が合理的なケースを知る
会社が副業を許可しない理由とは、どういったものでしょうか。
一般的には、副業による本業への影響が考えられます。たとえば勤務終了後、副業することでトータルの労働時間が長くなります。その結果、体調を崩したりすれば本業に影響します。また、風俗業界での副業は、それが取引先等に知られたら会社の信用が傷付くという理由も考えられます。
このように会社にとって重大なデメリットが生じる可能性があるなら、副業を禁止することは合理的だといえるでしょう。逆にそういったデメリットがない場合には、副業禁止は問題があることになります。
3.会社が解雇できる場合とは? ポイントは権利濫用の可否
副業禁止が絶対的でなければ就業規則に規定を置くこと自体は認められ、副業を会社が許可しない理由が合理的であれば、副業禁止もやむを得ないということがわかりました。
では、会社は副業禁止規定に違反した従業員を解雇できるのでしょうか。
労働契約法は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています(16条)。「合理的理由」「社会通念上相当」という抽象的な文言が並んでいます。すべてのケースで使える客観的な基準とはいえません。こういった場合は、事例ごとに解雇の「合理的理由」と「社会通念上相当」について判断されることになります。
解雇は従業員としての地位を奪う非常に厳しい処分なので、「合理的理由」と「社会通念上相当」も厳格に判断されなければなりません。たとえ副業禁止規定に違反したとしても、会社の業務に何ら影響がなかったようなケースでは解雇することは不当だということになるでしょう。解雇できるのは、副業禁止規定違反による影響が大きい場合に限られると考えるべきです。
先ほどの例でいえば、副業が長時間かつ長期間に及んだことで体調を崩し長期の入院を余儀なくされ本業の継続が不可能になった、風俗店での副業が取引先に知れ取引停止になった、というような場合です。
4.まとめ
以上見てきたように、絶対的に禁止しない限り就業規則に副業禁止規定を設けること自体は認められます。会社は副業禁止規定に違反した従業員を解雇することも可能ですが、実際に副業による影響が大きくなければ解雇はできません。
だからといって無条件で副業を推奨します、というわけではありません。良好な職場環境を壊すような副業のあり方は、実際の会社業務への影響が少ないとしても人間関係に大きく影響するかもしれません。
副業を行うにあたっては、社会通念に基づく良識が必要です。残念ながら会社の人間関係は法律で保護できないのです。副業をするなら、その点を十分に理解した上で取組むことが期待されます。
記事制作/白井龍