副業は自由に行うことができるのが原則です。しかし、会社にも守られるべき利益があるため、就業規則に副業禁止規定を設け、懲戒解雇事由とすること自体が不当というわけではありません。
では、副業禁止規定に反した場合、それだけで即解雇されてしまうのでしょうか。この問題について争われた裁判例を見ながら、どのような場合に解雇が正当化されるのか整理してみましょう。
1.小川建設事件
(1)事実の概要
原告が勤務する建設会社の就業規則には、「会社の承認を得ないで在籍のまま他社に雇われたとき」を懲戒事由とする規定がありました。原告は勤務時間外にキャバレーの会計係として就労していたところ、会社に知られ解雇されました。
(2)判決の要旨
裁判所は、以下のように判断しています。
- 従業員が副業することの許否について、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえで、就業時間外における副業を使用者の許可にかからしめる就業規則の定めは不当ではない。
- 原告が無断で副業したことそれ自体が企業秩序を阻害する行為である。また、勤務終了後、6時間に渡る労働を繰り返していたことは、会社での労務に支障が生じる蓋然性が高い。
- 勤務時間外に24時まで6時間の勤務を要するキャバレーの会計係等として雇用されたことを理由とする解雇は有効である。
(3)ポイント
まず、副業禁止規定の意義について確認しておきましょう。
私企業の労働者は一般的に法律で副業を禁止されていません。したがって、就業時間以外の時間をどのように使おうと自由なのであって、原則として会社に副業を禁止されるいわれはありません。しかし、いくら自由であるからといっても、就業時間外に精神的肉体的疲労が蓄積するようなことをすれば、会社での労務に支障が生じるおそれがあります。また、副業の内容によっては企業の秩序を乱したり、対外的信用が傷つけられるといったこともあり得えます。このように会社側にも守られるべき利益があるので、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえで、副業をするには会社の承諾が必要だとする規定を就業規則に定めることは不当ではないことになります(①)。
裁判所は、①を前提に会社に承諾を求めることなく無断で副業したことが企業秩序を阻害する行為であるとしています。そして、原告が勤務終了後、6時間に渡る労働を繰り返していた点を会社での労務に支障が生じる蓋然性が高いものだと評価し、仮に原告が会社に申告したとしても、承諾が得られるとは限らないとしました(②)。
以上のような理由から、裁判所は原告の行為は就業規則で解雇事由とされている「会社の承認を得ないで在籍のまま他社に雇われたとき」に該当し、会社が原告を解雇したことは有効だとして、原告の訴えを退けました(③)。
2.橋元運輸事件
(1)事実の概要
原告は、取締役副社長として運送会社Xに勤務していましたが、同一業種のY社を設立して取締役に就任し、Xの業績を低下させるような計画に参画していました。そこでXは、このような原告の行為は、就業規則に定められた「二重就職の禁止」に該当するとして、原告を懲戒解雇としました。
(2)判決の要旨
- 就業規則に二重就職の禁止が定められたのは「従業員が二重就職することによって、会社の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であり、あるいは従業員の会社に対する労務提供が不能若しくは困難になることを防止する」趣旨である。
- 原告はXの取締役であるから、Xの経営上の秘密が原告らからYにもれる可能性があり、原告がYの取締役に就任することは、Xの企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であるというべきである。
- 原告がXの許諾なしに競争関係にあるYの取締役に就任したことは、懲戒解雇の事由として就業規則に規定されている「二重就職」にあたり、懲戒解雇は有効である。
(3)ポイント
まず、裁判所は就業規則に二重就職の禁止が定められた趣旨について述べています(①)。そして本件における原告の行為を「企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大」であると認定し(②)、原告の行為は懲戒解雇の事由として就業規則に規定された「二重就職」にあたるため、解雇は有効だとしました(③)。
3.ナショナルシューズ事件
(1)事実の概要
原告は、商品部長として勤務していましたが、会社の業種と同種の小売店を経営し会社の取引先から商品を仕入れていました。また、商品納入会社にリベートを要求し、金品を受け取っていたことから懲戒解雇されました。
(2)判決の要旨
- 原告が小売店を経営していたことは、就業規則の懲戒解雇事由である「会社の承認を得ないで在職中に他企業へ就職したとき」に準ずる程度の不都合な行為に該当する。
- 会社の取引先である商品納入会社にリベートを要求し収受したことは、就業規則の懲戒解雇事由である「業務に関連し私利を図り又は不当に金品その他を収受するなどの行為があったとき」に該当する。
- 原告に対する懲戒解雇は有効である。
(3)ポイント
副業禁止規定との関係では①が重要です。原告の行為は、懲戒解雇事由である「会社の承認を得ないで在職中に他企業へ就職したとき」には該当しませんが、それに「準ずる程度の不都合な行為」だと認定され(①)、これに②が加わり、懲戒解雇は有効だとされています(③)。
①の意味は、二重就職禁止規定の趣旨から考える必要があります。二重就職禁止違反を懲戒解雇事由としたのは、会社の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大きいことにあるとすれば、二重就職にあたらなくても、このような危険のある副業であれば二重就職と同様、懲戒解雇事由として斟酌されることもあるわけです。
4.まとめ
裁判所は副業が「会社の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大きい」かどうかといった観点から懲戒事由に該当するか否かを判断しています。実質的に企業秩序を乱すような副業・二重就職に限って懲戒処分が正当化されるわけです。
一方で、小川建設事件では、就業規則の二重就職禁止は、兼業内容が会社に対する本来の労務提供に支障を与えるものではないか等の判断を会社に委ねる趣旨を含むものであるとし、無断で二重就職すること自体が企業秩序を阻害する行為だとしています。
もっとも、いずれの事件も総合的な判断によって最終的な結論を導いています。副業を行う場合は事前に会社の承諾を得ておくのが無難ですが、どうしても内緒でやりたいという場合は、就業規則がどういった副業形態を禁止しているのかについて注意深く確認し、副業のやり方や内容について十分検討しておくことが重要だといえそうです。
記事制作/白井龍