「To Be マガジン」

岩田氏が率いる株式会社ロックオンは、昨年9月に東京証券取引所マザーズ市場に上場したばかり。岩田氏が大学3年生だった2001年に創業、今年で15期目を迎えている。激変するインターネット広告業界の中で広告効果測定の強力なインフラを提供してきており、今年4月には主力サービスを大幅に刷新する形で、マーケティングプラットフォーム『アドエビス』をリリースした。順風満帆にみえる岩田氏だが、実は起業するまでには数々のドラマがあった。「もともとは社長になりたいと思っていなかったんです」と語る岩田氏を経営者の道に引き込んだものはなんだったのだろうか。

「トークがおもしろくない」と感じてアジアからNYへ

いまでは時代を切り開く企業の経営者としての顔をもつ岩田氏だが、学生時代はバックパッカーとして海外を渡り歩いた経験を持つ。理想を描いて大学生活をスタートしたものの、どうしてもおもしろみを感じることができず約3ヶ月で休学手続きをとった。休学後は海外留学も検討したが、ひとつの大学しか体験できないのはつまらないと思い、荷物ひとつでアジア各国を巡る旅に出た。

シンガポール、マレーシア、タイ、ミャンマー、インド。言葉や文化の異なる国を渡り歩く中で、気付くことがあった。「最初はたしかにおもしろいんですが、あるときどの国でも『どこからきたの?』『なにしにきたの?』という質問に答えるだけの浅い会話しかしていないことに気付いたんですね。これじゃトークがおもしろくないなと(笑)」もっと深いなにかを学びたいと思った岩田氏は、世界で最も刺激的な街のひとつ、NYに向かった。

安宿から見上げる摩天楼が夢をつくってくれた

アメリカ同時多発テロ事件が起こる前、1997年のNYは盛り上がっていたと岩田氏は言う。学生旅行なのでもちろん裕福ではない。一泊千円、一部屋に数人が同居する安宿に泊まった。「俗にいうタコ部屋でしたね(笑)いろんな人種の宿泊客がいました。NYは世界中から人・情報・金が集まる環境に、すごく貧乏な人とすごく裕福な人が暮らしている街です。しばらく過ごすうちに、その気になればいろんなものにアクセスできる街の可能性を目の当たりにし、自分も力をつけて、大きなビジネスができる世界に挑戦したいと思うようになりました」

「仕事を通して超一流の人間になりたい」という気持ちが募った岩田氏は11月に帰国した。アジア各国とNYをまわった約4ヶ月の海外生活を通じて自分の目標設定は完了、日本でなにか仕事に打ち込んでみることにした。とはいえ岩田氏はまだ大学1年生。大学生活両立するために、まず実家の最寄り駅にある飲食店でアルバイトを始めた。意気揚々と仕事を始めた岩田氏だったが、ここで現実の大きな壁にぶつかることとなった。

繁盛店に生まれ変わらせてみせると決意し、飲食店オーナーに

アルバイト先はオムライスが自慢の洋食店だった。仕事の意欲に溢れた岩田氏はマイフライパンを購入。自宅でも調理の練習を重ねるほどだった。ところが働くうちにだんだんとまわりに違和感を持ち始めた。「とにかく従業員のモチベーションが低かったですね。適当にやっているから料理はおいしくない。だからお客も増えないし店は赤字。みんなが不幸になる悪循環でした」

「みんなが幸せになる仕事」を追求したかった岩田氏はオーナーに掛け合い、赤字分もすべて引き受ける条件で店を譲ってもらうことにした。友人の親を含む従業員を全員解雇し、新しいメンバーで店をスタートさせる苦渋の選択もとった。自分の力で繁盛店にしてみせると決意し、大学1年生の2月には新しく店をオープンさせた。ところが1年もたずに閉店。挫折は大学2年生の夏だった。「飲食業界の大変さが見に染みました。ビジネス全体で考えると飲食業界は本当に競争が厳しい。乱立するコンビニまで競合になってしまうんです。自分の経験不足で従業員をマネジメントできない苦しさもありました」

アンテナを張らないことで、人と違うアウトプットを

飲食ビジネスの厳しさに直面した岩田氏は、自分の経験を活かす「職人」として働くことができる将来有望な分野としてインターネット業界を選んだ。関連書籍を読み漁りネットワークエンジニアを目指し、旅行に関するネットサービスを立ち上げるなど、エンジニアとしての試行錯誤を繰り返した。その中で株式会社ロックオンを立ち上げた。「もともと自社プロダクトを開発したいと思っていましたが、まずは資金を集めることが先決。そこでウェブサイトの受託開発をしながら、徐々に自社プロダクト開発チームを創り上げていくのがよいだろうということで、2001年に会社組織にしたんです」

岩田氏は、家を守れる存在になるため、小さい頃から自立を意識し、自分に力をつける。学校の勉強や運動はそのための自己投資だった。現在、経営者として活躍する岩田氏だが、いまでも多忙な合間の読書や会合、情報収集などの自己投資を怠らない。「敢えてアンテナを張らないことを意識しています。マスメディアの情報をシャットアウトし、人と違う情報を自分にインプットすることで他人や世間に左右されないクリエイティブなアウトプットがだせるんです」と岩田氏は語る。世の中になくてはならない存在として社会の問題を解決できる力を持ちたい、そのためには1000億くらい売り上げないと、と笑顔で語る岩田氏。リリースしたばかりの自社プロダクトに象徴されるように、業界に一石を投じる存在としてこれからも目が離せない。

岩田 進
株式会社ロックオン 代表取締役社長
関西学院大学商学部入学直後、大学を休学しバックパッカーで世界を旅する。
帰国後すぐに飲食店を経営、その後旅行ビジネスを経営するも共に実らず。それらの反省を活かし、2001年、大学在学中の22歳で株式会社ロックオンを創業した、根っからの起業家である。
取材:株式会社ToBe 代表取締役 四分一 武 / 文:ぱうだー
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このインタビューは、株式会社サーキュレーションの提供する「知見・経験の循環」をめざす知見共有サービスOpen Research(エックスブック)との連携企画です。

ノマドジャーナル編集部
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