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外部人材を活用して、ベンチャーの成長を加速化する取り組みが拡大しています。本メディアで紹介するビジネスノマドはまさにそのような人材にあたりますが、基本的に提供する知見・スキルは、事業戦略策定、資金調達、人事制度や広報戦略などの領域が多くみられます。

今回のインタビューは、若干26歳ながら、シェアリングエコノミーの観点から資金ではなく技術投資という新しいかたちで起業家の支援をおこなう、TECHFUNDの川原ぴいすけ氏です。同社では昨年の創業からシードアクセラレーションプログラム「SUNRISE PROGRAM」を実施。8月に2期生の卒業をむかえ、今月からは別軸でも、日本のスタートアップ支援のための事業が本格的に動き出すとのこと。

前半では、技術の投資というアイディアに至ったぴいすけさんが抱く課題感、海外との比較で浮かび上がる国内のベンチャーサポートのあり方、また、それをTECHFUNDでどう解消していくのかについて、後編ではぴいすけさんの経歴にまじえ、提唱するクラウドソーシング的な働き方についての考えをお聞きしたいと思います。

スタートアップが真に求めるのは資金ではなく人材や技術

-投資というとお金を支援するやりかたが一般的ですが、技術投資では起業側にどのようなメリットがあるのでしょうか。

川原ぴいすけさん(以下、ぴいすけ):

すでにサービスを持つスタートアップに資金を提供するだけでなく、シード段階のチームをみずから育て出資するシードアクセラレーターは、ポール・グレアムによるYコンビネータなど海外ではわりと存在していますが、日本ではあまりみられません。

さらに、TECHFUNDの場合はそのインキュベーションの仕組みを技術ーー開発支援を中心に、メンタリング、採用支援、ビジネスデベロップメント、資金調達サポートなど−−お金以外のあらゆるサポートを提供するという特徴を持っています。

技術を提供することで生まれる大きなメリットは、まず期間を短縮できる点ではないでしょうか。ファイナンスを受けて技術者を採用するケースは現在のスタートアップの動き方の主流ですが、どれだけ時間をかけても、そこでCTOレベルで経営に介入できるような優秀な人材を得られる保証はありません。

そもそも、通常通り資金を調達しようとした場合、サービスがある程度形なっていることが前提となってきます。”構想段階”のスタートアップはVCや投資家から門前払いを受けるしかなく、「資金調達をするにはサービスが必要→サービスを作るには技術者が必要→その技術者を雇うにはお金が必要」という負のスパイラルから抜け出すことができず、チャンレンジを諦めてしまうことが多いのが現実です。

-スタートアップのシードでの資金調達は、まさに”卵が先か、にわとりが先か” 状態ですね。

ぴいすけ:

こういった起業家層のことを僕たちは「トライアルラウンドの起業家」と呼んでいますが、裏を返せば彼らが求めているのは必ずしもお金ではなく、自分たちのやりたいことに対して適切なアドバイスをしてくれる人や、いっしょにサービスを作ってくれる人材なんです。

そこで、TECHFUNDでは、顧客課題とプロダクトの2軸の仮説検証を「SUNRISE PROGRAM」のなかで実施しています。なかには、2ヶ月の期間中に10回もピポッドしたチームもいますよ。

また、技術支援と並行してスタートアップとメンターとなっていただいているVCや投資家のマッチングもおこなっています。現在では、卒業チーム8社︎中半分が資金調達を完了、もしくはクロージング日を待っている状況です。

-投資家に資金提供を打診できるレベルまで、技術力をもって起業家を育てるというわけですね。実際に資金調達まで完了したスタートアップには、どのようなところがありますか?

ぴいすけ:

「Dog Huggy」というペットのためのサービスを作ったチームはプログラム参加中はまだ高校生でしたが、最終的にはサイバーエージェント・ベンチャーズ(CAV)さんから出資をしていただきました。CAVさんにはメンタリングの段階から積極的に参加していただき、出資前からコミュニケーションを取っていただいていましたね。

適材適所でアセットを高めるクラウドソーシング型の起業

-今までは起業となると、同僚や友人など自分のまわりにいる人を誘ってのスタートが基本だったと思います。でも、TECHFUNDのSUNRISE PROGRAMに参加すると、極端な話アイディアさえあれば一人でも起業できてしまいますね。

ぴいすけ:

気の合う仲間同士で起業というとストーリー的には美しいんですが、いろいろなチームを見ていると、広い視点を持って初期の人材選別をしているチームは少ないです。そこで、クラウドソーシング的に創業期の人材を適所適材で配置し、アセットや流動性を高めることで、起業の成功確率を上げたいと思っています。TECHFUNDで提案しているのは、このような「クラウドソーシング型の起業」という新しい起業の仕方なんです。

-それは、日本の今のスタートアップ支援のシステムがきちんと機能していないということでしょうか。

ぴいすけ:

僕らが日頃から思うのは、技術面はエンジニア、リーガルサポートは士業、ファイナンス面はVCといった具合に、しっかりセクション分けをできればいいなということ。支援先と話していると、VCのなかにはプロダクト内部にまで変に介入してくるところもあるそうで、そういうときは少し大変ではあるみたいですね。

そもそも、日本ではVCのパワーバランスが圧倒的に強いため、スタートアップ側は投資してもらう先を選ぶ状況になく、なすがままになってしまう傾向が強い。

そういう意味でも、多方面の領域とつながりをもつ第三者がセクションごとにマッチングをおこなうことは非常に効率的です。事業ができあがってきた段階でメンター、つまり出資者に託すため、スピード感をもって事業のスケールにつなげることができます。

スタートアップとVCの不均等なパワーバランス

-国内でのVCとスタートアップとの力関係についてのお話がでましたが、起業文化の進んだ海外ではどうなのでしょうか。

ぴいすけ:

これが海外ではまったく逆で、スタートアップ1社に対して3~4社のVCがプレゼンするというシーンがあちこちで見られます。

TECHFUNDでも過去に、サンフランシスコ、スイス、バンコク、インドネシアなど様々な国のスタートアップから相談がきましたが、あくまでローカライズ戦略のひとつとして現地でのファイナンスを検討しているといった感覚で、へりくだった様子はもちろんありません。

じゃあ、日本のスタートアップも国外のVCと連携をとればいいのではということになりますが、日本の起業家のなかに、彼らと対等に渡り合えるほどのビジネス英会話を身につけている人はほとんどいません。そういう事情もあって、手の届く範囲でしかアプローチをかけないという文化になってしまっています。

-もっとグローバルな視点でみれば選択肢が広がるのに、日本のスタートアップはある種卑屈になってチャンスを逃しているのですね。

ぴいすけ:

これを解消するには機会をもっと均等にすべきという思いから、TECHFUNDではスタートアップのデータベース化を進めています。SUNRISE PROGRAMに参加したスタートアップを定性・定量の両方から分析することで、シードファイナンスにおける明確な投資指標を作り、その指標を軸とした投資のオンラインプラットフォームを作る。これをサービス化したものを年内リリース予定です。

みなさん外食する時は、食べログのスコアを見てそのお店の良し悪しを判断しますよね。同様に、スタートアップともちろんVC側もスコアリングし、それを基準にオンライン上で投資をおこなうといったイメージです。そうすることで、VC側からスタートアップに提携を申し込む流れが生まれますし、なにより言語や文化の壁を越えて、国内のスタートアップにも世界にアピールする機会を提供していきたいと考えています。

(後編は10月14日(水)に掲載予定です。)

ノマドジャーナル編集部

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