(国籍/業種)スウェーデン/インターネットサービス業
(キーワード)カスタマーエクスペリエンス、オンラインショップ

アパレルオンラインショップの課題

情報通信白書(総務省)によると、今やインターネット利用者の二人に一人がインターネット通販を利用したことがあるようです。営業時間を気にしなくてよい、店舗までの移動時間・交通費がかからない等の理由から、書籍、衣料品、雑貨を中心に多くの人が利用しています。

今後もインターネット通販の利用頻度は増えると予想されますが、利用者の不安・不満も一定数存在します。特にアパレルのオンラインショップでは、サイズに関する不安は大きくなっています。オンラインショップの多くは、無償での返品対応を行っていますが、返品オペレーション負荷、コスト負荷は小さくありません。また、もし利用者がフィットしないサイズを選んでしまうと、不満を持たれ二度とサイトに訪れなくなるかもしれません。このため、サイズに関する不安はオンラインショッピングの大きな課題です。

これらのオンラインショップの課題を解決するのが、バーチャサイズ社(スウェーデン;ストックホルム)が開発するオンライン試着ツール「Virtusize(バーチャサイズ)」です。

オンライン試着ツールVirtusize

Virtusizeは、自身が保有する洋服とオンラインショップで販売している洋服のサイズを簡単に比較できるオンライン試着ツールです。ヨーロッパ、アジアを中心に約40社の大手オンラインショップで導入されています。開発を手掛けるバーチャサイズ社はスウェーデンの起業家が2011年に設立し、東京にもオフィスを構えております。日本を重要なマーケットの一つとしており、国内では、ユナイテッドアローズやディノス・セシール等、数社に導入されています。

Virtusizeの特徴は、自身が保有する洋服の寸法を登録することで、購入したい洋服(青色表示)と自身が保有する洋服(灰色表示)が重なり合いイラスト表示され、視覚的にサイズの比較ができます。また、その差異を数値的な情報としても表示します。自分のお気に入りの洋服の寸法を複数登録しておくことができ、Virtusize導入の他オンラインショップからでも、登録データを呼び出すことができます。

オンラインショップとユーザの双方に効果

Virtusizeはオンラインショップ利用者の満足度が高まることはもちろんのこと、オンラインショップ経営にとっての効果も大きくなっています。Virtusizeを導入すると以下のような効果があります。

①顧客満足度・売上向上

今までサイズを不安に感じる利用者が、洋服を安心して購入するようになり、顧客満足度が向上し、結果的に売上が向上するでしょう。

②返品率低下

Virtusizeを導入すると、サイズ違いによる返品が50%程度削減できるといわれています。返品による顧客満足度低下を防ぐだけでなく、オンラインショップの運営コスト削減にもつながります。また、割引販売を余儀なくされる返品商品の削減ができます。

③カスタマーロイヤリティの形成

オンラインショップ利用者は、スムーズな購入、思った通りのサイズの洋服であったりすると、オンラインショップ自体に好印象をもち、再訪問につながるといわれています。

Virtusizeを実際に利用してみる

筆者も実際にVirtusizeを利用してみました。

実店舗で何度か利用したことがあるユナイテッドアローズのオンラインストアでポロシャツを注文してみました。購入したいポロシャツのサイズ選択ボックス近くに、Virtusizeロゴの「サイズをチェック」ボタンがあります。それを押すとバーチャサイズ画面が立ち上がります。「サイズを登録する」画面で指示された通り、以前ユニクロで購入したポロシャツの身丈、身幅、ゆき丈の3か所をメジャー図り、画面に入力します。サイズを図る箇所が詳細に表示されるので図り間違いはありません。購入したい商品と、自分でサイズ登録した商品が重なって表示され、視覚的に分かります。Sだと自分のポロシャツよりやや小さい、Mだと大きい。自分のポロシャツは実際に着ていてやや大き目なので、Sを購入してみました

約2日後商品が届きました。着てみると購入時の予想とほぼ同じで、フィット感あるちょうど良いサイズ。返品せずそのまま着ることにしました。

Virtusizeを利用した感想は、洋服のサイズを図ることに慣れておらず面倒さはありましたが、一度登録してしまえば、どの商品とも比較することができ購入時のサイズに関する不安は大きく減りました。

数クリックで比較できるので、ついつい多くの洋服と比較してしまいます。実店舗での試着より、気軽に沢山比較できます。また、せっかく登録したからVirtusize導入のオンラインショップでまた購入しようという心境にもなります。ただ、素材の厚さ・質感を確認することには対応していないので、このあたりは今後の機能拡張に期待したいと思います。

カスタマーエクスペリエンス(顧客経験)に基づく戦略

顧客が商品、サービスを購入するまで多くのプロセスを踏みます。そのプロセスにおける行動、感情をつぶさに観察、想像することで何か不満に思っているであろうことを察知し、利用者の不満解消へ向けてのソリューションを提案できるのではないでしょうか。これは、顧客経験(カスタマーエクスぺリエンス)に基づく戦略といえるでしょう。

アパレルのオンラインショップでは、せっかく多くの商品から一つを選び、購入画面まで行ったものの、数値的なサイズ表示だけでは不安が残り、購入を思いとどまってしまうシーンなどはその一例でしょう。その一瞬の意思決定の瞬間にフォーカスして、利用者を購入の方向に向かせたのが、バーチャサイズではないでしょうか。

まだまだ、発展途上ともいえるオンラインショップ。利用者の経験・行動・思考をトレースすることで、新たなソリューションが生まれてくる可能性が多いにあります。

<参考資料>

専門家:稲吉 勝範
ビジネスイノベーションハブ株式会社/戦略パートナー。中小企業診断士。経営コンサルタント。
業務コンサルタント、システムコンサルタントとして国内外の銀行・証券・資産運用会社に対し、業務効率化、新規事業立ち上げを支援。「お客様とともに栄える」をモットーに、創業支援、事業計画策定支援、業務革新などを行う。雑誌「企業診断」(同友館)の連載「業界最前線のビジネスモデルを追え!~勝ち組に学ぶ、儲かる仕組み」では、農業業界を担当。

ノマドジャーナル編集部

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