(国籍/業種)米国/家電メーカー
(キーワード)IoT、スマートホーム、センサー・アズ・ア・サービス、オープンプラットフォーム、ビジネスエコシステム

米国ではシリコンバレーを中心に、IoT(モノのインターネット化)ビジネスを手掛けるベンチャー企業が1,000社以上存在していると言われています。今回は、昨年Googleが32億ドル(約3,800億円)もの資金を投じて買収した本命IoTベンチャー企業であるNest Lab.(以下Nest)のビジネスモデルを取り上げましょう。

人工知能内蔵のサーモスタット

Nestは2010年創業のベンチャー企業で、温度調節器「Nestサーモスタット」や火災検知機「Nestプロテクト」などを手掛けるメーカーです。Nestサーモスタットには様々なセンサーや人工知能の機能が搭載されていて、ユーザーの行動パターンや嗜好を学習しながら、自動的に快適な環境を作り出すことができるようになっています。また、Nestプロテクトはアラームとともに音声で火元を知らせるハイテクプロダクトです。双方とも、スマートフォンと連動することによって遠隔地からの操作も可能になっています。また、シンプルかつスタイリッシュなデザインも好評を得ているようです(図1)。

Nestの創業者の一人でありCEOでもあるトニー・ファデル氏が2010年に起こした企業で、同氏はアップル社において長らくiPodの設計や開発責任者を務めていた人物です。2008年のアップル退任後、半年でNestのビジネスモデルを確立し、その一年半後にプロダクトを出荷し始めたという驚くべきスピード感と実行能力をもっています。買収された後も、Nestブランドを残しつつ独立部門として引き続きCEOとして経営は続けていく模様です。

スマートホームという概念

IoT(モノのインターネット化)と同じく「スマートホーム」という概念は、20年以上も前から存在していたようですが、なかなか大きな市場を形成することなく現在に至っています。従来は、同一メーカーやプロバイダーのプロダクト群を全て揃えないと実現できなかったり、消費者にとっての魅力性が欠けるものであったりしたことが主な原因であり、お世辞にも「スマート」といえる存在ではなかったようです。それでは、Nestが構想するスマートホームとは何でしょうか?また、Nestのビジネスモデルや究極の狙いとは一体何でしょうか?

Nestのビジネスエコシステム

Nestサーモスタットの価値提案は主に2つあります。1つ目は、利用者が難解な操作を覚えることなく、サーモスタット自身が快適な環境を考えてくれることです。2つ目は、利用者にとってのお金の節約であり、電気代やガス代を約20%削減することができるとNestはアピールしています。しかしながら、Nestはハイテクプロダクトを提供することだけにとどまらず、住宅空間におけるあらゆるモノやサービスのプラットフォームとなることを目指しているようです。

Googleによる買収後、「Nest開発者プログラム(Nest Developer Program)」を発表し、Nestプロダクトとサードパーティのプロダクトやサービスと連携できるスマートホーム・プラットフォームを公開しました。これは、「Nestと一緒に働こう(works with nest)」というキーメッセージの下、開発者向けにAPIを開放するものです。つまり、Nestは新しいスマートホームプロダクトを自前で次々と作り出すのではなく、有能なサードパーティのプロダクトやサービスをもつ企業とのエコシステムを構築するという道を選択したのです。

実際に、ぺブル(スマートウオッチ)、ジョウボーン(フィットネスバンド)、メルセデスベンツ(自動車)、ワールプール(洗濯機)、ラチオ(スプリンクラー)、LIFX(電球)など、Nestと相性の良いプロダクトやサービスをもつ個性的な企業50社以上がこの構想に参画しているようです。これにより、自動車での帰宅時に最適な空調を設定する、電気料金が最も安い時間帯に遠隔から洗濯機をコントロールする、睡眠状態に応じて空調を変える、起床するタイミングで部屋の明かりをつけるなどといったことがスマートに行われるようになるというものです。

ここで、あることに気付いた方もいらっしゃるでしょう。そうです、iPhoneのビジネスモデルにとても似ているのです。ここに単なるモノ作りだけではないIoTビジネスモデルのヒントが隠されています。多くの消費者の幅広いニーズに応えるための価値を提供するだけでなく、より多くの価値を生み出すために多くのパートナーが参画できるオープンプラットフォームを構築する。これこそが、持続可能かつ拡張可能なデジタルビジネスモデルの基本形なのです(図2)。

新しい収益モデルの模索

Nestは、さらに多くの電力会社と「ラッシュ時間報酬プログラム(Rush Hour Rewards)」という契約を取り交わしています。これは、真夏などの電力利用が集中する時期に電力会社がNestを遠隔で操作することにより、電力の供給をコントロールするというものです。このプログラムに協力する消費者は電力会社からのキャッシュバックを受けることができます。電力会社としては、ピーク時における電力供給量を減らすことができるため、設備投資に関するコストを大幅にカットすることができるというわけです。

現時点におけるNestの主な収入源はプロダクト販売によるものです。近い将来、一般消費者には無料でNestを配布し、電力会社から大きな収益を得るといった新しい収益モデルも視野に入れているかもしれません。

Nestの最終的な狙い

Nestの最終的な狙いは、住宅空間における全てのデータを収集することにあるようです。Nest(巣)という企業名がそれを象徴しているかのようです。買収時において、「Nestが収集するデータをGoogleのビジネスとして利用することはできない」という約束はあるものの、「世界中の情報を整理する」という野望をもつGoogleがNestを手に入れたかった理由がここにあるのかもしれません。

Nestは、年間百万台規模でプロダクトを販売している一方で、様々な企業とのパートナーシップを通じたサービスの提供も精力的に行っているようです。このようなビジネスは、IoTビジネスへの参画を検討している多くのメーカーにとっての良き方向性を示してくれるでしょう。昨年がバズワードとしてのIoTのピークだとすれば、今年2015年はIoTビジネスの本格的始動の元年となることでしょう。

<参考資料>

専門家:白井 和康
ビジネスイノベーションハブ株式会社/代表取締役 兼 株式会社サーキュレーション/主任研究員。
ビジネスイノベーションハブは、IoTに代表されるデジタルビジネスモデルのデザインに関するプロジェクト支援サービス「D-bit(デジタルビジネス革新&変革アプローチ)」をパートナー企業とともに提供しています。デジタル社会の本格的到来に向けた新規事業をご検討の方は、お気軽にお問合せ下さい。

ノマドジャーナル編集部

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