前編では、任天堂がDeNAとの提携を通じ、どのようにビジネスモデルを変えようとしているのか、ビジネスモデルキャンバスのフレームワークを使って、これまでの任天堂ビジネスモデルの特徴を振り返りました。

(前編はこちらから

後編では、DeNAとの提携後に任天堂がめざすビジネスモデルについてご紹介します。

任天堂のビジネスモデル

モバイルデバイス向けゲームは、ゲームの基本機能を無料で提供し、少数の有料ユーザーからの課金で儲ける、いわゆる「フリーミアム」のビジネスモデルです。ここでは顧客ニーズのきめ細かい吸い上げや、課金の仕掛けのノウハウが重要ですが、これらは任天堂の強い分野とはいえません。その点DeNA は、オークションサイト、SNSなどインターネット領域のビジネスを展開し、携帯電話向けのソーシャルゲームも運営しているため、Webプラットフォーム運営、顧客データ分析、課金システム等に強みがあります。そこでDeNAとの提携によりモバイルデバイス向けのゲームを開発、同社のプラットフォーム運営ノウハウ、技術を通じて提供するわけです。

任天堂の岩田社長は、「スマホゲーム」の取組み姿勢に関する質問に対して、「(スマートデバイスで)関係ができたお客様に、ゲーム専用機で(中略)、いわば『没入感のある世界にどっぷり浸っていただける、本当にゲームの大好きな人に心から満足していただけるようなゲーム』を提供することを、これからも任天堂のコアビジネスとしてしっかりやっていきます。」と答えています(2015年3月17日:業務・資本提携共同記者発表)。また5月8日の2014年度決算説明会でも、少数のヘビーユーザーから「狭く深く」稼ぐのではなく、多くのユーザーから「広く薄く」課金するのが理想であること、また「任天堂はファミリーブランドですから、『親御さんが子どもさんに安心して渡していただける』という構造は変えたくありません。(中略)私たちはお金のいただき方については、しっかりこだわりを持ってやっていきたい」と語っています。

結局、任天堂がめざすのはモバイルデバイス向けゲームで大きく儲けることではなく、信頼度の高いブランドイメージを堅持しつつ、ゲーム専用機の顧客予備軍を獲得することです。つまり「スマホゲーム」は、独自のゲーム専用機に新規顧客を吸引するための「撒き餌」と考えられます。こうした撒き餌戦略を成功させるためには、①顧客の期待を裏切らず任天堂のブランドイメージを傷つけないと同時に、専用機でもっと楽しみたいと思わせる、モバイルデバイス向けゲーム品質の適切なさじ加減と、②会員制サービスを通じたゲーム専用機への誘引の具体的な仕組み、の2点が課題となるでしょう。

このうち会員制サービスの概要について、岩田社長は5月8日の決算説明会で、「任天堂のゲーム専用機とスマートデバイスアプリで、共通のIDを利用可能にします。(中略)今後は任天堂ホームページにこの共通IDでログインすることで、お客様一人ひとりに対してこれまでの購買履歴やプレイ履歴などを反映させた各種サービスをはじめ、ロイヤリティプログラムを進化させた各種サービスをご利用いただけるように」すると説明しています。つまり「スマホゲーム」のユーザーとして獲得した顧客を、会員制を通じて囲い込み、会員特典の提供等によって、専用機およびゲームソフトを購入する顧客へ移行させるのが狙いです。任天堂なりの、「環境変化に対応したビジネスモデルの再構築」といえるでしょう。

DeNAとの提携を通じて、任天堂のめざすBMCをまとめたものが図5です。「スマホゲーム」の品質が高まり、ゲーム産業の競争環境が激化する中、任天堂のビジネスモデル再構築の試みに注目したいと思います。

(図5)

<参考資料>

  • 任天堂株式会社 ホームページ
  • みずほ産業調査Vo.48「コンテンツ産業の展望–コンテンツ産業の更なる発展のために–」2014年9月10日
  • 日経ビジネスオンライン「DeNAとの業務・資本提携に至ったすべて(前編・後編)」2015年3月20日、23日
専門家:大橋 功
東京大学経済学部卒業。金融機関を経て現在は通信業界の会社に勤務。
海外業務経験が長く企業金融、投資評価、事業計画策定等の分野を得意とする。
2013年5月中小企業診断士登録。事業再生、補助金申請、ビジネスモデル研究、
インバウンドビジネス等の分野で、中小企業支援および執筆活動を積極的に行っている。
ノマドジャーナル編集部
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