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今回から数回にわたり、国内外の著名企業のビジネスモデルについて触れていくことにします。第2回の今回は、破壊的なビジネスモデルとして世界中の注目を浴びているUber(ウーバー)です。

Uberが提供する基本的なサービスは、スマートフォンのGPS(位置情報機能)を使ってハイヤーやタクシーを呼び出し、指定した場所から乗車することができるというコンセプトとして非常にシンプルなものです。

それは、車両の現在位置、到着までの時間、目的地までの概算料金、ドライバーに関する情報まで提供してくれます。

また、支払いは事前に登録したクレジットカード等から自動的に引き落とされ、領収書もアプリやメール上で発行されるというものです(図1)。

Uberは2009年に米国サンフランシスコで創業、翌年から営業開始しています。2011年には、ゴールドマン・サックスをはじめとする投資銀行やアマゾンのジェフベソス氏などの投資家から30億円以上の資金調達をしました。

昨年あたりから爆発的な成長を遂げ、この1年間でサービスを提供している都市は約100から250まで増加、昨年末の企業価値(時価総額)は日本円で約5兆円にまで到達したという飛ぶ鳥を落とす勢いの企業です。

Uberのビジネスモデルキャンバス

では、Uberのビジネスモデルをキャンバス上で簡単に説明していきましょう(図2)。

まず、対象となる顧客は一般消費者とビジネスユーザーです。上記で推測できるとおり、安全性や快適性、オンデマンドによる利用、利便性や透明性といったところがUberの価値提案です。展開している都市の交通事情にもよりますが、なかなかタクシーがつかまらない、料金が不透明であると不満をもっている消費者にとっては非常にありがたいサービスでしょう。

チャネルはスマートフォンに搭載されているモバイルアプリ、顧客との関係は自動化されたヘルプサービスが中心となります。中核となる収益は運賃の一部(20%前後)がであり、天候や交通事情などの需給関係によって料金は変動するようです。

一方、このビジネスモデルを運営していくために必要なリソース、活動、コスト構造は、R&Dを含むIT基盤の構築や保守に関するものが大半を占めているのではないかと推測されます。特に、ドライバーに関する情報のデータベースは、価値提案の拠り所となる重要な知的リソースとなります。

パートナーは、Uberのビジネスに欠かすことのできないドライバーをはじめ、PayPalのような支払決済、American Expressのようなクレジットカードのリワードプログラムを提供している企業です。

破壊的イノベーションの3つの条件

Uberのビジネスモデルは、文字通りタクシー業界に乗り込んできた破壊的イノベーションと言われることがあります。

「イノベーションのジレンマ」で一躍有名になったハーバード・ビジネススクールのクリステンセン教授が設立したコンサルティング会社、イノサイトのパートナーであるアンソニー氏は、3つの側面からUberのビジネスモデルを評価しています。以下、簡単に要約してみましょう。

1つ目は、多くの顧客にとって重要なモノをより簡単で手に入れやすくしているかどうかという側面であり、Uberの価値提案はこの点をなんなくクリアしていることです。

つまり、タクシーをつかまえるという誰にとっても面倒な作業を優れたユーザーインターフェースをもつモバイルアプリが解決するものです。

2つ目は、競合他社にとって模倣困難なビジネスモデルであるかどうかです。Uberのモバイルアプリを支える強力なIT基盤はこれに相当します。

さらに、提供する機能が同じであっても、契約するドライバーが多くなるほど、顧客にとっての価値は高まるという「ネットワーク外部性」の効果をもっています。ネットワーク外部性は一定の閾値を超えると、eBayやヤフオクのようなオークションサイトと同じく市場のほとんどを独占する可能性さえあります。

3つ目は、「動機の非対称性」が存在しているかどうかです。破壊的イノベーションには2つのタイプがあり、従来の業界が対象としていない非顧客を対象とするタイプ、ローエンドの市場を対象とするタイプがあります。

これらの2つのタイプにおいて、業界の他のプレイヤーは通常しばらく静観しているわけですが、Uberの場合は既存プレイヤーと同じ土俵で真っ向から戦っていることが同社の大きな課題であるとアンソニー氏は指摘しています。事実、各国において既存プレイヤーとの様々な軋轢が起こっているのは周知のとおりです。

Uberが次に狙うもの

現在、コンテキスト・アウェア・コンピューティングという概念が注目されています。この概念を提唱している調査会社のガートナージャパンは、「場の空気を読むテクノロジー」と日本語で表現しています。

具体的には、モバイルデバイス、GPS、ネットワーク、センサーといった技術を組み合わせることによって、「どのような嗜好を持った人が、現在どこにいて次に何をするのか?」を予測しようとするものです。

Uberのビジネスモデルは、この技術を上手く駆使した良い例と言えるでしょう。

さらに、同社は近い将来における自動運転技術も視野に入れているようです。CEOのトラビス・カラニック氏によれば、自動運転車が実用化された暁には、Uberを全て自動運転車に置き換えると公言しています。

コロンビア大学の分析によると、自動運転車の実現によりマンハッタンのタクシー需要は現在の1.3万台から0.9万台、平均待ち時間は5分から36秒、コストはマイル当たり4.0ドルから0.5ドルになると予想しています。夢のような話が現実味を帯びてきているわけです。

終わりに

Uberのターゲットは巨大なタクシー市場ではありますが、Uber自身は旅客業ではなく情報サービス業です(日本では旅行業として登録されています)。

旅客ビジネスとして考えると、交通インフラ、法的規制、業界ルール、生活習慣などの様々な要因が存在するため、各国で今後どのような展開になるのかは非常に興味あるところです。

いずれにせよ、テクノロジーを最良の顧客経験に活用するという考え方には多くを学ぶことができるのではないでしょうか。

<参考資料>

  • ハーバード・ビジネス・レビュー「タクシー業界の破壊者Uberの2つの強みと1つの弱点」
  • http://www.dhbr.net/articles/-/2795
  • VCノート「Uberは4.8兆円の価値があるのか?」
専門家:白井和康
ビジネスイノベーションハブ株式会社/代表取締役 兼 株式会社サーキュレーション/主任研究員。
IT業界において20年以上にわたり、営業、事業企画、マーケティング、コンサルティングと幅広い役割に従事。
2013年1月から2014年5月まで、ビズジェネ(翔泳社)に「イノベーションを可視/加速化するビジネスアーキテクチャー集中講義」というタイトルで、長期連載を寄稿。
2014年9月、「ビジネスモデルフェスティバル2014」の講師を担当。2014年11月にビジネスイノベーションハブ株式会社を設立、代表取締役に就任。

ノマドジャーナル編集部
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