(国籍/業種)日本/情報サービス
(キーワード)フリーミアム、プラットフォーム、成長戦略(新製品・サービス開発、新市場開拓)
1.クックパッドの好調な業績
「クックパッド
」の名前をご存知の方は多いでしょう。投稿レシピ数の累計は210万品を超え、料理を手軽に作りたい20~40代の女性を中心に月間5,600万人以上(ブラウザーまたは端末数ベース)が利用する、日本最大の料理レシピサイトです。利用者数も右肩上がりで推移しています(図表1)。
次にクックパッド
社(以下「当社」)の決算発表データから、3か月ごとの売上収入と営業利益率の推移を表示したのが図表2です。2014年に決算月を7月から12月に変更しているので、途中2か月の期間が混じっていますが、売上収入は一貫して増加、営業利益率も40%以上の高い水準を維持するなど、業績は極めて良好です。
当社の売上収入は、有料会員(プレミアム会員)からの会費収入と、サイト内で広告を掲載する企業からの広告収入が柱です。プレミアムサービスの会費は月額280円(税抜き)と少額ですが、プレミアム会員数は約160万人おり(2015年6月現在)、年間50億円以上の収入源になっています。一方、広告事業も、ユニークブラウザー数、約5251万というサイトの集客力を背景に、着実に収入金額を増やしています。
当社の好業績の秘密はどこにあるのでしょうか? ポイントは次の3点にまとめることができます。
①メインコンテンツである料理レシピの魅力(高い品質、豊富な量)
②有料の「プレミアムサービス」へ誘導する仕掛け
③サイト集客力の高さ
今回は、当社がもうけを生み出している仕掛けを分析し、成長を続けるクックパッド
社の強さの秘密に迫ります。
2.もうけを生み出す仕掛けの数々
①料理レシピコンテンツの魅力
メインコンテンツである、料理レシピの量の豊富さは圧倒的です。例えば料理名の「ハンバーグ」でレシピを検索すると、ヒットしたレシピ数は25,579件、次に秋の食材「さつまいも」で検索すると、何と38,077件ヒットしました(2015/10/2現在)。会員からのレシピ投稿により、この数が毎日増え続けるわけです。ここで投稿を促す仕掛けとして機能しているのが、「つくれぽ」制度。これは、会員が気に入ったレシピで料理を作り画像を添えてコメントを書き込むもので、この書き込みが10、100、1000とたまると、それぞれ「話題のレシピ」「今月のつくれぽ100」「殿堂入りレシピ」として紹介されます。こうした仕掛けが投稿者の励みとなり、質の高いレシピを生み出しているのです。顧客である会員を、いわば「コンテンツプロバイダー」としてビジネスパートナー化し、経営資源を補完している点に当社のユニークさがあります。
②有料の「プレミアムサービス」へと誘導する仕掛け
クックパッド
には多くの無料登録会員と、比較的少数のプレミアム(有料)会員がおり、プレミアム会員からの会費収入がビジネス運営を支えています。これはいわゆる「フリーミアム」と呼ばれるビジネスモデルで、Dropbox、Skypeや多くのスマホゲームと共通しています。料理レシピの魅力で集まった無料会員を、いかにプレミアム会員にアップグレードさせるかが収入面では重要です。
ここで無料会員とプレミアム会員の使えるサービスを比較してみましょう(図表3)。有料サービスのポイントは、人気のある料理レシピや自分が関心のあるレシピの絞り込み検索ができること、お気に入りレシピをたくさん保存できることです。こうした、料理レシピコンテンツの蓄積をフルに活用できる魅力と、月額280円+税と手ごろな価格設定が、会費を「払ってもいい」と思わせるポイントでしょう。
③サイト集客力の高さ
料理レシピ以外にも、ダイエット診断、料理教室、子育て情報など、主な利用者層である20~40代の女性が関心を持つ様々な「お得情報」をそろえ、クックパッド
サイトの集客力を高めている点も見逃せません。
中でも、立ち上げ早々から成果を上げているのが、今年3月に小売店向けの有料サービスとして提供開始している「特売情報」です。これは郵便番号、地名、店名を入れると近隣のスーパー、ドラッグストア、クリーニング店などの、毎日の特売情報がわかるサービス。特売となっている食材の写真をクリックすると、関連したレシピも見ることができます。サービス開始から3か月後の2015年6月末時点で、配信登録店舗は約12,000に達しました(当社ホームページによれば10月3日現在:19,266店舗)。当社はこのうち約5,000店舗から月額5,000円の広告料を得て、サイト内での優先表示特典や配信結果の分析情報などをお店に提供しています。広告収入を得ながら、こうした生活関連のお得情報を提供することで、サイトの集客力を高めているわけです。
3.クックパッド
のめざす方向性
もうけを生み出すための様々な仕掛けが功を奏して、クックパッド
は成長してきましたことが分かりました。本稿のまとめとして、会費収入と広告収入を中心としたビジネスモデルを活かし、当社が今後めざす方向性について目を向けてみましょう。
①料理レシピの付加価値をさらに高める
当社の穐田誉輝社長は、料理レシピのカギは、パーソナライズと健康に関連する情報やサービスの提供としたうえで、以下のように述べています。
「有料サービスの付加価値はレシピの人気順検索が中心ですが、それだけではユーザーを惹き付け続けることは難しいと考えているため、有料サービスの付加価値を高めていく必要があると考えています。特にスマートフォンは一人一台持つデバイスであり、PCと違ってパーソナライズが進んでいるため、ユーザーが何を食べたいか、何を食べるべきかをスマートフォン上に提示するべきだと思っています。つまり、より個人に適合したサービスを出していくということがひとつの軸になります。もうひとつの軸は、「健康」です。クックパッド
というと簡単でおいしいというイメージですが、これに加えて健康というイメージも付け加え、健康のためにクックパッド
を使おうという方向性にしていきたいと考えています。」(「2015年12月期第2四半期決算説明会 主な質疑内容の要約」より)
クックパッド
利用者のうち、すでに約70%にあたる3,945万人がスマートフォンのアプリまたはブラウザでサービスを利用しています(2015年6月現在)。いつも手元にあるスマートフォンを通じ、利用者一人ひとりの健康状態や好みに合った情報を提供することで、利用者のロイヤリティを高める戦略です。
②料理を超えた「生活インフラ」サービスを提供する取組み
すでに述べたように、当社は料理以外の様々な情報をサイトに掲載していますが、買物、健康、教育、娯楽、美容、結婚、子育てなど、クックパッド
を「食を中心とした生活インフラ」としてさらに進化させる取り組みも進めています。ビジネスモデルの観点からみれば、新製品・サービス開発を通じて当社サイトの「プラットフォーム」機能をさらに強化し、会員事業、広告事業以外の収入源を増やしていこうという戦略です。その動きを促進するために、以下のとおりM&Aも積極的に進めています。
- 産婦人科を通じた妊産婦・乳幼児向けサービスを提供する日本テクト(株)を子会社化し、「(株)クックパッドベビー」と社名変更(2015年6月)
- 結婚式場の口コミサイト運営や結婚式プロデュース事業を行う、(株)みんなのウェディングへの出資(2015年5月)
穐田社長も、「スマートフォンを利用する方が増えるほど、GPSと連動して位置情報に連動した情報が求められるようになると思いますので、GPSをオンにしておけば「クックパッド
」からお得な情報が手に入るという状況を作れれば、まだまださまざまな業態への進出が考えられます。」と述べています。(「2015年12月期第2四半期決算説明会 主な質疑内容の要約」より))
③新たな市場を開拓する取組み~海外市場~
そしてもう一つが、新市場開拓としての海外市場進出です。具体的には、英語圏(人口3.4億人)、アラビア語圏(同2.4億人)、スペイン語圏(同3.9億人)、インドネシア語圏(同2,3億人)等をターゲットとしたレシピサービスの展開です。人口規模からみてポテンシャルは十分にあると考えられますが、海外は国や地域によって利用者のニーズや文化が異なるため、サイト運営については現地パートナーのノウハウが必要になります。2015年1月に、アラビア語のレシピサービスを運営するNetsila S.A.L.を100%買収したのもその一環でしょう。日本発のユニークなビジネスモデルの、今後の展開に期待したいと思います。
<参考文献・参考サイト>
- クックパッド株式会社 ホームページ
- 週刊東洋経済「クックパッド 料理レシピを蓄積 有料会員の増加続く」2015年3月28日号
- 東洋経済ONLINE「スーパーで安く買いたいならチラシに頼るな」2015年8月3日
東京大学経済学部卒業。金融機関を経て現在は通信業界の会社に勤務。
海外業務経験が長く企業金融、投資評価、事業計画策定等の分野を得意とする。
2013年5月中小企業診断士登録。事業再生、補助金申請、ビジネスモデル研究、インバウンドビジネス等の分野で、中小企業支援および執筆活動を積極的に行っている。
ノマドジャーナル編集部
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