(国籍/業種)日本/サービス
(キーワード)マルチサイドプラットフォーム、ビジネスマッチング、クラウドソーシング

技術力のあるパートナー探しに悩む大手企業、販路開拓に悩む中小企業、その両者をマッチングさせるサービスが広がりつつあります。その中でも、特に注目されているサービス「Linkers(運営はリンカーズ株式会社。以下、リンカーズ)」を今回は取り上げます。リンカーズは、NHK「クローズアップ現代」、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」や週刊「日経ビジネス」、月刊「事業構想」などでも紹介されている注目の企業です。同サービスは2014年1月のサービス開始からわずか1年で100件のマッチングを成功させ、2015年7月期で1.3億円の売上を見込んでいます。今回はそのビジネスモデルに迫ります。

ビジネスマッチングが求められる背景

中小企業白書によると、日本国内の製造業は、大企業が約2,000社、中小企業が約43万社という構成になっています。大手メーカーは、新製品や新規ビジネスを立ち上げる際、この43万社の中からイノベーティブかつニーズにマッチするパートナーを探し出さねばなりません。優秀な中小企業が一地域に集中しているわけではないので、選定は全国から行う必要があります。また、展示会や商談会に参加してもニーズにマッチする企業はわずか2~5%と言われています。大手メーカーにとってパートナー探しは、時間もコストもかかり、かつマッチングの成功確率も低いといった悩みの種になっています。

一方の中小企業は、従来、「系列」という大手メーカーを中心とした下請取引構造の中に入れるかどうかが成否を分ける要因となっていました。大手メーカーは、資本提携を含む強固な連携により、自社の技術ニーズに合った下請企業を育成しながら、短納期化やコスト低減を行ってきました。中小企業にとっても、技術供与を受けながらノウハウを蓄積し、大手メーカーとともに成長できるというメリットがありました。また、系列内での取引さえしていれば売上が確保でき、営業や販路開拓の必要もありませんでした。

しかし、グローバル競争への対応で開発期間の短期化、技術の多様化が進んだこと、さらなるコスト低減を目的に大手メーカーの海外進出が進んだことで、技術革新や海外展開についていけない中小企業は取り残され、系列関係が希薄化してきました。また、高度経済成長期は系列内取引で安定的に成長することが可能でしたが、バブル崩壊やリーマンショックなどの景気変動により、1社依存の取引構造がリスクであるとの認識が浸透し、複数社との多面的な取引に移行する企業が増えてきました。

とはいえ、リソースの限られる中小企業にとって、営業・販路開拓は簡単にできるものではなく、大きな課題となっています。日本政策金融公庫の調査でも、経営基盤の強化に向けて注力する課題として、実に74%の中小企業が「営業力・販売力の強化」を挙げています。

大企業と中小企業をマッチングさせる取組みの拡大

このような背景もあり、最近、大企業にパートナーを紹介する、あるいは中小企業とのマッチングの場を提供するといった取組みが増加傾向にあります。従来から行われてきた展示会や商談会だけでなく、大手企業主導のマッチングイベントやベンチャー企業への出資、オープンイノベーションファンドの組成、ベンチャーキャピタルによる出資に付随した企業・技術紹介、そしてICTの進展により現れたweb上でのマッチングサービスがあります。

クラウドソーシングをはじめとしたマッチングサービスは勃興期にありますが、技術マッチングサービスの中で、民間かつ日本発で今もっとも勢いのある企業がリンカーズです。

中小企業の魅力をいかに発掘するか

大企業と中小企業のビジネスマッチングで難しい点は、中小企業の真の技術力が開示されないことです。中小企業は、コスト負担が大きいことも一因ですが、主に技術流出を恐れ、特許出願を最小限にとどめます。その代りに営業秘密として技術を保護する傾向にあります。そのため、マッチングサイト上で詳細な技術力が開示されることはほぼなく、真の魅力が伝わらずマッチングに至らないということに陥ります。

リンカーズは、中小企業と強固な関係をもつ全国各地の経済連合会や産業支援機関などの公的機関、コンサルタント、中小企業診断士などの専門家に着目しました。彼ら専門家は地元の支援先企業の開示されない高度な技術から開発中の案件まで熟知しており、大手メーカーのニーズにマッチした企業を紹介することが可能です。また、地元の産業を活性化し、成功事例を輩出することにモチベーションを持っており、同サービスにも協力的です。そこでリンカーズでは、全国の専門家をコーディネーターとして登録し、上手に活用する仕組みをつくりました。どのように活用しているのか、ビジネスモデルキャンバスで見てみましょう。

リンカーズのビジネスモデル

顧客は大手や中堅のメーカーで、新製品や新規ビジネスにマッチした技術をもつパートナー探しを課題として持っています。案件は、開発が頓挫したものや、1年近くパートナーが見つからないような難しいものが多いとのことです。それに対しリンカーズはプラットフォームを通じて、リーズナブルにベストパートナーの選定を行います。

選定プロセスに先立ち、まず発注企業と秘密保持契約を結びます。選定の初期から最終段階まで全てクローズドで行われるため、発注企業側からも選定企業側からも大きな信頼を得ています。第1段階として、全国に1,300名以上所属するコーディネーターに対し、発注企業が作成した案件の選定条件を流します。コーディネーターは各地域で案件とマッチしそうな企業を推薦します。候補企業は、コーディネーターとともに選定条件に対する自社評価を行いリンカーズに提出。発注企業は集められた匿名の企業リストを見て当選企業と落選企業を決定します。さらに、条件を加えていき、2次、3次選定と行い候補企業を絞ります。数社に絞られた段階で、発注企業と候補企業で秘密保持契約を結び、具体的な条件を提示し、三者面談を行い、最終的なマッチングを行います。

収益の流れとしては、発注企業側からの基本手数料とマッチング時の成功報酬、中小企業側からの紹介料を得ます。一方のコスト構造としては、システムや管理に関わる費用のほか、コーディネーターへの謝礼が発生します。

このビジネスモデルの肝は何と言っても前述のコーディネーターをはじめとするパートナーの存在です。コーディネーターのネットワークにより全国から情報を得ることができ、かつコーディネーターの「目利き」によって企業を選定するため、確度の高い選定を行うことが可能です。また、ベンチャーキャピタルからはパートナー選定に悩む大手・中堅メーカーの紹介も受けます。このようにウェブサイトだけでなく人力を最大限活用している点が他サービスとの差別化要因となります。

マルチサイドプラットフォームの特徴を満たすリンカーズ

ある顧客セグメントと別の顧客セグメントに対し、プラットフォームを用意し、介在することで、両者を結びつけ新たな価値を生むビジネスモデルをマルチサイドプラットフォーム(MSP)と呼びます。

MSPには、以下3つの特徴を満たす必要があります。

1.ネットワーク外部性

ネットワーク外部性とは、利用者が増えれば増えるほど会員の利便性があがるという現象です。リンカーズでも利用者が増えるほどマッチングの可能性が増え、ユーザーの利便性があがります。

2.異なる顧客セグメントとのマッチング

リンカーズでは、コーディネーターをフル活用することで有力企業10万社以上に繋がるネットワークで、1.5~2か月でマッチングさせることができます。

3.ユーザーのコスト削減

リンカーズを利用することで、大手・中堅メーカーは、パートナー選定コストを大幅に削減でき、中小・ベンチャー企業は、営業費用や販路開拓費用を削減できます。

プラットフォームビジネスは、同種のサービスの中で最大のユーザー数を獲得すると、一気に成功確率が高まります。リンカーズの場合、人力により強化されたネットワークが原動力となり、登録者数、マッチング率が向上し、より多くのユーザー、コーディネーターを誘引することが可能です。リンカーズは、他の追従を許さない最大の技術プラットフォームになる可能性を秘めています。

「リンカーズ」から「日本モノづくり株式会社」へ

リンカーズ代表取締役の前田佳宏社長によれば、2020年を目途に、蓄積された中小企業の情報を集約し、「日本モノづくり株式会社」を立ち上げたいとのことです。日本の中小企業を一体として海外に売り出し、どのようなニーズにも対応できるようなイノベーションを継続的に生み出せる仕組みを考えています。

コーディネーターをはじめとするパートナーの人力を積極的に活用し、最大の技術プラットフォームとなることで、中小企業43万社とのネットワークが完成し、「日本モノづくり株式会社」が実現される日もそう遠くないことでしょう。

<参考文献・参考サイト>

  • 中小企業庁「2015年版 中小企業白書」、「2012年版 中小企業白書」
  • 森部好樹「なぜ新事業が起こせるのか?飛躍するベンチャー7社に学べ!」日経BP社、2015年
  • 日経トップリーダー 日経BP社 2015年2月号
  • Wedge 株式会社ウェッジ 2015年5月号
  • リンカーズ ホームページ
専門家:小島 慶亮
ビジネスイノベーションハブ株式会社/戦略パートナー。中小企業診断士。経営コンサルタント、セミナー講師。東京大学大学院修士課程終了後、外資系メーカー勤務。経営戦略立案、収益・生産性向上や業務改善のプロジェクト、法人営業等を経験。ビジネスモデルに関する研究を通して、執筆やセミナー講師を多数行うほか、中小企業支援にも活かしている。雑誌「企業診断」(同友館)の連載「業界最前線のビジネスモデルを追え!~勝ち組に学ぶ、儲かる仕組み」では、教育、小売、農業、日本酒業界を担当。酒蔵の経営コンサルタント、地域誘客プロジェクト立ち上げなど、地域に根ざした活動も展開中。

ノマドジャーナル編集部

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