独立プロフェッショナルや若手経営者、キャリアプラン設計中のビジネスパーソンに送る、「ビジネスノマド・スキルアップ講座」。若手ビジネスパーソンのために、ビジネスモデルについての考え方やその事例を取り上げることで、ビジネスノマドが、そのスキルや知見を共有いたします。
注目を集めている企業のビジネスモデルについて触れていく、第4回の今回は今年の7月に突然の岩田聡社長の悲報に驚いた方も多かった任天堂についてご紹介致します。
任天堂は、今年の3月にDeNAとの業務・資本提携を発表しました。
報道発表によれば提携内容の骨子は以下2点でした。
- 任天堂のキャラクターを含む、任天堂の知的財産を活用したスマートデバイス向けゲームアプリの共同開発・運営
- 多様なデバイスに対応した新しい会員制サービスの共同開発(平成27年秋の開始を目指す)
任天堂といえば、ニンテンドーDSやWiiなどの家庭用ゲーム機が有名ですが、スマートホン(以下スマホ)等で手軽に遊べる「スマホゲーム」の急速な普及によりゲーム機の販売が低迷、近年の業績は芳しくありません。2011年度以降3期連続で営業赤字が続き、2014年度(2015年3月期)にようやく営業黒字に回復しました(図1)。
任天堂はDeNAとの提携を通じ、どのようにビジネスモデルを変えようとしているのでしょうか? 今回はビジネスモデルキャンバス(以下BMC)のフレームワークを使って、同社の目指す方向性を考えます。まず、これまでの任天堂のビジネスモデルの特徴を振り返ってみましょう。
任天堂のビジネスモデル
任天堂は1982年に「ファミリーコンピュータ」を発売以降、携帯型の「ニンテンドーDS」や据置型の「Wii」等の家庭用ゲーム機、および「マリオ」を代表とする多数のキャラクターを創出し、ゲーム分野で世界的なブランドを確立しました。そのビジネスモデルの特徴は以下のとおりです。
直面する課題とめざす方向性
このようなビジネスモデルで高い利益率を維持してきた任天堂ですが、以下の環境変化により、既述の通り2011年度以降、急速に収益が悪化しました。
任天堂のビジネスモデルと、環境変化に伴うこうした問題点をBMCにまとめたものが図2です。
(図2)
任天堂の直面する大きな課題は、顧客流出の食い止めと売上の回復です。その解決策として国内で拡大しつつあるモバイルデバイス向けゲーム市場に、活路を求めたということでしょうか?
ここで任天堂の売上構成を考える必要があります。図3の通り、任天堂の販売地域別売上高の推移をみると、その約70%が欧米を中心とする海外向けであり、同社にとっては国内だけでなく海外市場でどのようなゲームが売れているか、また今後売れるかが重要です。世界のゲーム市場規模予測(図4)によれば、PlayStation4やWii U等の据置型ゲーム機向け、およびスマホやタブレット等モバイルデバイス向けのゲームが今後拡大する一方、Nintendo 3DS等の携帯型ゲーム機向けは徐々に縮小する見通しです。
市場規模の成長性からみれば、据置型ゲーム機向けとモバイルデバイス向けの強化が基本的な方向性でしょう。ただしモバイルデバイス向けは、専用機向けに比べゲーム開発費が小さくてすみ、参入障壁が低く競争が厳しいとされています。従って任天堂の強みを活かせるメインの儲けどころは、据置型ゲーム機向けであり、同社が新型の据置型ゲーム機「NX」に注力する意味もそこにあると考えられます。それでは、任天堂にとってモバイルデバイス向けゲームはどのような位置づけでしょうか?
(後編はこちらから)
<参考資料>
- 任天堂株式会社 ホームページ
- みずほ産業調査Vo.48「コンテンツ産業の展望–コンテンツ産業の更なる発展のために–」2014年9月10日
- 日経ビジネスオンライン「DeNAとの業務・資本提携に至ったすべて(前編・後編)」2015年3月20日、23日
東京大学経済学部卒業。金融機関を経て現在は通信業界の会社に勤務。
海外業務経験が長く企業金融、投資評価、事業計画策定等の分野を得意とする。
2013年5月中小企業診断士登録。事業再生、補助金申請、ビジネスモデル研究、
インバウンドビジネス等の分野で、中小企業支援および執筆活動を積極的に行っている。
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。