新規事業プロジェクトを進める上で注意することは何でしょうか?

今回は、ビジネスモデル検証記事を連載している白井さんに、新規事業を進める上での注意点や、活用することで効率よく進めることができる様々な強力なツールについてお話しいただいています。

ビジネスモデルキャンバス、ジョブ理論、リーンスタートアップなど、聞いたことがあっても意外と本当の活用方法をしらないこれらのツール・考え方ですが、一度理解すると新規事業を進める上で強力なサポートになります。

【キーワード】

  • ビジネスモデルキャンバス
  • ジョブ理論
  • リーンスタートアップ
  • ガーリーテスト

仮説がいつのまにか前提に。新規事業が失敗する要因

Q1. 新規事業プロジェクトを進めていく上で注意すべきことは何でしょうか?

A1. 1つ目は、新規事業で経済的な金銭を獲得するためには、4つ視点をから総合的に俯瞰し、説明できなければなりません。
それは、誰が顧客か(Who)、その顧客に何の価値を提供するのか(What)、その価値をどのように生成するのか(How)、なぜそれが利益を生むのか(Why)、です。

通常、プロジェクトは異なるスキルや専門領域をもつ人々から構成されます。このような場合、各々が自分の得意としている領域からのみビジネスを見ておらず、議論のすれ違いが頻繁に起こります。
ビジネスモデルキャンバスを活用することによって、事業全体の構造をハイレベルで俯瞰することができ、プロジェクトを円滑に進めていくことができるでしょう。

Q2. 多くの新規事業が失敗する原因は何でしょうか?

A2. プロジェクトの実行能力に起因することは自明でしょう。しかしながら、それ以前にターゲットとする顧客が欲しくもないプロダクトやサービスを作ってしまうことが最も大きな原因です。

仮説がいつの間にか前提になり、前提を事実と取り違えてしまうケースが散見されます。仮説はテスト/検証しなければ意味をもちません。そのためには、顧客の真のニーズを理解し、ターゲット顧客と価値提案をフィットさせ、次にビジネスモデルの他の要素を最適化する必要があります。

「あなたは何を望んでいますか?」は愚の骨頂。
顧客の真のニーズとは?

Q3. 顧客の真のニーズはどのように発見することができるのでしょうか?

A3. かつて、ヘンリー・フォードは、「もし顧客に何を望むのかを聞いたら、もっと速い馬が欲しいと答えていただろう」と言いました。新しい価値を創造しようとする際、顧客に「あなたは何を望んでいますか?」と尋ねることは愚の骨頂です。

顧客の真のニーズを発見するためには、「顧客は、何らかのジョブを成し遂げるためにプロダクトやサービスを雇う」というハーバードビジネススクールのクリステンセン教授が唱えるジョブ理論が最も有効であると考えます。つまり、顧客へのインタビューや観察を通じた仮説をテスト/検証を繰り返し、顧客が欲しくもないプロダクトやサービスを作ってしまうリスクを減らすことです。このアプローチを採用することにより、新規事業の成功率は3~4倍に改善するでしょう。

「事業計画型」ではなく、リーンスタートアップを

Q4. 実際の新規事業プロジェクトはどのように進めていくべきでしょうか?

A4. どのような規模の組織であれ、リーンスタートアップという考え方が新規事業を開発していく上で参考になるでしょう。
これは、時間をかけて事業を計画するのではなく、短いサイクルでビジネスモデルに関する仮説をテスト/検証していきながらプロダクトやサービスをこまめにリリースしていくアプローチです。実験ボードやスクラムボードといったツールと方法論を使っていけば、リスクを最小限に抑えるとともに、迅速にプロダクトやサービスを市場に提供していくことができます。

Q5. そのようなアプローチを採用している日本企業は存在しますか?

A5. 残念ながら日本では「事業計画型」の従来アプローチをとる組織が多いのですが、何社かは新しい試みをしています。某社では、いくつものの新しい事業アイディアを潜在的な顧客の反応を見ながら実験しています。実際には、いくつもの小さな失敗を繰り返しながらその会社は成長しています。小さく、安く、早く失敗して、その失敗から学習するという姿勢が重要です。大企業ならともかく、小さな企業が1勝9敗でも生き残っていくためには不可欠なアプローチであると確信しています。

成功するビジネスモデルを構築するために

Q6. 話は変わりますが、大きな成長や利益を生み出すビジネスモデルを見分ける方法はありますか?

A6. 投資家は、常に対象とするビジネスモデルの将来価値を現在価値に引き直して評価します。シリコンバレーのベンチャーキャピタリストであるビル・ガーリー氏が提唱する通称ガーリーテストが有名です。これは、他社による模倣困難な参入障壁があるか、顧客ロックインのメカニズムがあるか、スケールメリットを享受しているか等、10の視点でビジネスモデルを評価していくものです。

Q7. 最後に、上記のようなアプローチに対して、白井さんが、「成功する新規事業」のために新規事業プロジェクト支援やビジネスモデルワークショップを通して実現したいことは何でしょうか?

A7. ビジネスの構造は、ビジネス設計(どのようにお金を稼ぐのか?)、ビジネス計画(何を達成したいのか?)、ビジネス実行(日々何をすべきか?)という3つのレイヤーから構成されていると考えています。

私は、この中で特にビジネス設計に注目しています。実際に企業の新規事業プロジェクトに関わったり、ワークショップを実施していると、まだまだ設計のところが整理しきれていない例が多くみられます。一方で、各種アプローチや方法論を工夫することによって劇的に改善する部分が大きいと感じています。

そのため、方法論やツールについて海外で幅広く実績のあるものを仕入れ、日本向けにアレンジしながら統合して提供もし始めています、これまで個人として関心をもつ方はかなりの数にのぼりましたが、これからは、組織として浸透/定着させていくことが重要だと考えています。

専門家:白井 和康

ビジネスイノベーションハブ株式会社/代表取締役 兼 株式会社サーキュレーション/主任研究員。IT業界において20年以上にわたり、営業、事業企画、マーケティング、コンサルティングと幅広い役割に従事。2013年1月から2014年5月まで、ビズジェネ(翔泳社)に「イノベーションを可視/加速化するビジネスアーキテクチャー集中講義」というタイトルで、長期連載を寄稿。2014年9月、「ビジネスモデルフェスティバル2014」の講師を担当。2014年11月にビジネスイノベーションハブ株式会社を設立、代表取締役に就任。

ノマドジャーナル編集部

専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。
業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。