ちまたには「ギグエコノミー」、「シェアリングエコノミー」、「プラットフォームエコノミー」など、さまざまな名称で呼ばれているオンデマンドの労働形態を賞賛する声が聞かれています。でもそれは本当に機能するものなのかという記事が、今年の5月米国誌ニューヨーカーに載りました。
この記事は、寄稿者のネーサン・ヘラー氏が引っ越しをしたところから始まります。引っ越し後に残った小さな仕事、壁に鏡や絵を掛ける、棚を吊るといった仕事に、彼はTaskRabbitからギグワーカーを雇うことにしました。TaskRabbitは2008年に創設されたギグワーカー用のプラットフォームで、ワーカーのスケジュールに合わせてお金を稼ぐことができる機会をみんなに与えています。米国にはTaskRabbitのほかにも、プロのプロジェクト用のThumbtack、 配達のためのPostmates、 家事サービスのHandy、ペット用のDogvacayなど無数のサービスプラットフォームがあります。
ホームシェアリングサービスのAirbnb、より高級なonefinestay、運転サービスのUber、Lyft、Juno がすでに タクシーに置き換わっていることはご承知の通りです。そしてこれらを米国の仕事の未来と見る向きもあります。
Airbnb とHappy Host
取材中ヘラー氏は、Airbnbで毎月部屋を貸しながら、自由気ままに世界を旅行している女性と出会います。ところがAirbnb利用者の間で彼女のアパートが有名になるにつれ、予想していなかった問題が彼女に起こりました。利用者の入れ替えの間にアパートの掃除を素早くしなければならない、利用希望者からの問い合わせには、たとえ海外にいても即座に答えなければならない。Airbnbのロジスティクスが「フルタイムの仕事」に近づき始めたとき、彼女はHappy Host(http://happyhost.nyc/)と呼ばれる管理会社を雇って、予約、清掃、雑用を処理してもらうことにしました。Happy Hostは通常、収益の25%を請求しますが、彼女はそれでも助かると言っています。
ヘラー氏はHappy Hostの創始者、ブレイク・ヒンクリー氏を訪ねます。大学卒業後Boston Consulting Groupで大企業の効率評価を行っていたヒンクリー氏は、仕事で旅行する間アパートを貸し出せば何万ドルも稼ぐことができたことに気づきました。
サービスの一環として、Happy Hostはプロの写真撮影を手配したり、Airbnbのリスティング、予約リクエストの審査、チェックインのコーディネート、ゲストの受け入れ、電子メールへの返答、石けん、タオル、ワインの供給などを行っています。従業員は緊急事態に備えて、電話に待機しています。 かつて、ニューヨーカーの省スペース方式で、オーブンの下の引き出しを書類や郵便物の保管場所として使っていたクライアントのところに泊ったゲストが、ケーキを焼こうとして、キッチンが火事になりかかったことがあったからです。
「スタートアップの起業家やコンサルタントなどはとても忙しく、時間内にゲストの問い合わせに応答する時間がありません。それにゲストが酔って帰宅して、ドアの鍵を開けられないからといって、夜中に起こされるのもたまらないでしょう」とヒンクリー氏。「価格設定についても考えなくてはいけません。年がら年中予約が入っているのは、価格が安すぎる証拠。頻繁に予約がないのは高すぎるからです。入れ替えが多いと、清掃やコーディネートに費用がかかるので、長期滞在が好ましいですね。うちでは独自のアルゴリズムを使って、将来の料金を設定しています。」ホストと一緒に仕事をするかどうかを決めるとき、ヒンクリー氏はアパートの外観や場所を見て評価しています。
ゴールドラッシュのつるはし
今日Airbnbの主要都市(ロンドン、パリ、ロサンジェルス、サンフランシスコ、シカゴ、ニューオーリンズなど)には、市場の期待に応えるために複数のHappy Hostがあります。
創業2年目のニューヨークの競争相手MetroButler社は22人の請負業者と2人の清掃者を雇っており、昨年はもう1つ競争相手Proprly社の顧客を買収しました。 MetroButlerの共同設立者ブランドン・マッケンジー氏は法学校の学費を返済するためにAirbnbを使用して、短期レンタルがサービス業全体を支えることができると気づいたのだそうです。「私たちはゴールドラッシュ時代のつるはしのようなものです」とマッケンジー氏。収益は十分上がっているようです。
中産階級の経済的ライフライン?
Airbnbは宣伝用資料で自らを「中産階級の経済的ライフライン」と呼んでいます。昨年12月に発表された企業スポンサーの分析では、住民の大部分が少数民族である地域のマップにAirbnbのリストと伝統的なホテルの地図が重ねられました。
ニューヨークを含む7都市で、エスニックなど少数民族地域に属するAirbnbのリストの割合は、ホテルの部屋の割合を上回っています。「私たちがやっていることは、最終的に富を人々に分け与えることです」と同社の戦略家クリス・ルハネ氏は言います。
彼は伝統的に、豊かな人々が不動産、投資、相続などからさらに富を受動的に享受し、そうでない人たちは働いてお金を稼がなければならないことを指摘して、こう言います。「Airbnbでは、空き部屋のある人なら誰でも受動的な収入を得ることができるのです。」
ふつう、すべての効率性には、勝者と敗者があるものです。Uberのようなサービスは、利用者に利益をもたらします。利用者はタクシー代を節約できますが、運転手の収益は不安定になります。Airbnbは、まともなホテルの請求書にたじろぐ人に、手頃な価格で旅行を提供していますが、それでもホテルの従業員などの観光業者に直接的には影響していないというのが、彼らの主張です。
ギグエコノミーは正当に機能しているか
数年前、米国ボストン大学のジュリエット・スコー社会学教授は、Airbnb、Turo(レンタカー用のAirbnb)、TaskRabbitなどから収入を得ている43人の若者をインタビューし、彼らの大半がホワイトカラーであることに気づきました。
より広範な第2の調査では、ギグエコノミーに頼って生計を立てている人は、他の仕事や給付を受けるかたわら、ギグで予備収入を得ている人ほど満足していないことがわかりました。これはこのシステムが、最も必要としている人の役に立っていないことを示しています。
まとめ
Airbnbのようなサービスが社会全体に富を押し下げるという主張は、たいへん好ましく聞こえますが、実際には単純に富を押し下げるのではなく、伝統的なサービスワーカーの収益をより特権的なポケットに振り向けているのではないかと受け取ることもできます。このような議論が起こる当たり、米国のシェアリングエコノミーが進んでいる所以でしょう。
参考記事:https://www.newyorker.com/magazine/2017/05/15/is-the-gig-economy-working
記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)