前回は、フリーランス経済の進んだ米国やカナダですでに、クリエイティブ系やIT系を超えた業種へもフリーランスの労働形態が広まりつつあることをご紹介しました。

 

このようなフリーランス経済先進国には、そのほかにも変化が起こっています。これまでフリーランスやギグワーカーを雇うのは一般的に中小企業やスタートアップであったのが、今では大企業もそれに加わっているのです。

ギグエコノミーはスタートアップだけのものではない

英文ビジネス誌フォーチュンはこの夏、ギグエコノミーがすでにスタートアップだけのものではなくなり、全米企業の売上高ランキング「フォーチュン500」に入る企業や、世界的な大企業にも及んでいると報道しました。

 

この記事によると、ギグワーカーは今やTaskRabbitの単発お助けワーカーや、Uber Lyftのドライバーだけではなくなっており、サムソンのようなグローバル企業も、UpworkPeoplePerHourなどのオンライン・フリーランスプラットフォームで、デザイナー、マーケティングスタッフ、IT専門家、その他の知的労働者を見つけ始めているというのです。

 

過去12ヶ月間で、そのようなオンライン・プラットフォームを使って調達されたプロジェクトの総数は26%増加。 プロジェクトの発注主には、これまでのスタートアップや中小企業だけでなく、大企業も加わりつつあるのだそうです。

オックスフォード大学の調査

オンラインのフリーランスプラットフォームと、それが労働力に及ぼす影響を研究する、オックスフォード大学の経済心理学者ヴィリ・レドンヴィルタ準教授は、大企業9社を詳しく観察し、その結果を「プラットフォームソーシング:フォーチュン 500企業のオンライン・フリーランスプラットフォームの採用方法」という報告書にまとめました。

 

「これらの大企業がこのようなプラットフォームを、どこまで受け入れているかには、実に驚かされるものがあります。これは労働形態に真に影響を与える可能性があるものです」とレドンヴィルタ準教授は語っています。

大手マッチングプラットフォームUpwork

10年以上前、米国カリフォルニアを拠点にElance-oDeskの名で設立されたオンラインのフリーランスプラットフォームは、2015年にUpworkと改名され、今では世界中から1,200万人の登録フリーランスリモートワーカーと、500万のプロジェクト依頼主をもち、年間300万件のプロジェクトを取り扱い、総額10億ドル(約1,120億円)に相当する、世界最大のオンライン・フリーランサー市場となっています。

 

このUpworkも、上記のトレンドに気付いています。同社CEOのステファン・カスリエル氏によれば、数年前まで同プラットフォームへ仕事の依頼を寄せていたのは、従業員100人ほどの小企業がほとんど。それが 今では大企業からのフリーランサーの需要の増加で、対応する「エンタープライズチーム」を2倍に拡大する計画だそうです。現在フォーチュン 500企業の2割がUpworkを使っています。

企業の経営方針に反するのでは

企業経営では一般に、スキルの高い従業員を保持することが勧められています。この意味で、外部のフリーランサーに頼ることは、現代の企業ニーズと価値に相反するものではないのでしょうか。その他にも、企業には守るべき知的財産や、維持すべき文化もあるはずです。それでも大手企業が外部のフリーランサーに頼り始めているのには、いったいどのような理由があるのでしょう。

 

レドンヴィルタ準教授は、価値の変化をその理由に挙げています。 大企業は以前よりも「透過的な境界」を認識し、フリーランス労働者を新鮮なアイデアの源、より広い産業からの「知識移転」の源泉として見なしているというのです。「企業は知識創造を促進するために、よりオープンなものとなり」、「必要に応じて電話で相談できる専門家の価値を認めるようになった」というわけです。

低コスト雇用の利点

より柔軟で低コストの雇用を与えてくれるフリーランスプラットフォームは、企業にとってまさに理想的な解決です。冒頭に挙げたサムソンがUpworkを使い始めた理由もここにあります。

 

当初Upworkを試すことには内部に懐疑的な見方があったそうですが、プラットフォームの使用結果はサムソンのパイロットチームを十分満足させるものでした。プラットフォームの使用で支出は6割削減され、管理時間も64%短縮された上、Upworkは支払いから守秘義務契約の処理まで、企業の管理負担の多くを処理してくれるため、管理プロセスも通常の7倍高速化されたと言います。

 

サムスンは現在、フリーランスプラットフォームの使用を拡大中ですが、同社のようにオープンな企業は実際にはまだ少数です。

企業従業員への影響は

良いことづくめのようですが、それではフリーランスプラットフォームの使用には、企業の人員組織の方法を乱すような弊害はないのでしょうか。

 

レドンヴィルタ準教授は「それはまだ起こっていない」と答えています。そもそも独立した労働力を支援するためには、全く新しいエコシステムが開発されなければなりません。現状はそこに至っていないのです。

 

現在プラットフォームを使用する企業に必要なのは、内部コストと外部インタフェースの両方を管理するためのコーディネーションコストでしょう。 またワーカーにとっては、このようなプラットフォームが勝者と敗者を生み出すリスクがあります。熟練したフリーランサーなら世界のどこからでも柔軟に収益を増やすことができますが、市場性の高いスキルのないワーカーは、それを身につけなければならないのです。

まとめ

フリーランス経済の将来について、レドンヴィルタ準教授の研究はさまざまな可能性を考えさせてくれます。

 

たとえば、特定のプラットフォームでより多くのタスクを実行した人に与えられるプレミアムのような制度が、これまで学歴が企業社会に創り出してきたワーカー間の不平等を緩和させるのではないか。もちろんプラットフォームでより多くの仕事を得るために、ワーカーはスキルを常に向上させなくてはならないのですが、学歴より実践力に決定される経済を実現させることができるのではないかという期待感も感じられます。

 

大企業がコアの従業員を外部フリーランサーと置き換えることはないとしても、内部従業員と平行して働くフリーランサーが大企業に増えつつあることは、フリーランス経済を労働形態の未来と信じる人が米国で増えている証拠と言えるでしょう。

 

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)