これまで見てきたように、フリーランス経済は今や世界のあらゆるところで見られるようになっています。そしてフリーランサーの主な業種は、クリエイティブ系やIT系が依然として多いようです。フリーランス経済の多少進んだ国では、この先より広い業種へのフリーランス経済の広まりを期待する声が聞かれています。そんな中、カナダではすでに伝統的な業界を超えて、フリーランス経済が広がり始めているようです。

北米のフリーランス経済の発展

カナダでもフリーランスと言うと、一般的にはライター、グラフィックデザイナーなどのクリエイティブ系の職種だと思われがちです。しかし昨年夏のデータでは、カナダの臨時雇用やコントラクター(契約労働者)の現状が変わってきていることが明らかになっています。

 

テレコミュニケーターの求職ボードFlexJobsレポートによると、2016年5月から7月の間にフリーランスの職種の中で最も需要のあった分野は、医療と健康、教育、プロジェクト管理、コンピュータとIT、会計と財務でした。FlexJobsのコンテンツ担当ディレクター、ブリー・レイノルズ氏は、「この調査結果は主にアメリカの求人掲載に基づいたものですが、カナダの企業にも同じことが言えます」と話しています。

 

カナダでは、約190万人が従業員を持たない単独自営業者、230万人が臨時雇用労働者で、これら2つのグループを合わせると、カナダ全体の労働力の約21.5%を占めています。

 

「教育や健康管理、会計、財務などの伝統的な分野は、フリーランスベースで行うことができ、これらはライティングやグラフィックデザインなど従来のフリーランスの職種よりも成長しているようだ」とレイノルズ氏は解説します。コントラクターや自営業に関心を持つ人には、これまで以上に転職の機会が増えているのだそうです。

カナダのフリーランス経済の多様化

カナダのフリーランス経済を構成する労働者の年齢層や経験レベルは、実に多様です。カナダフリーランス連盟には、全国からあらゆる年齢層、あらゆるレベルの教育、あらゆる収入レベルのフリーランスメンバーが登録しています。会長のレスリー・ダイソン氏によれば、長くフリーランスを続けている年上の労働者の中には、他のフリーランサーを雇ってプロジェクトをアシストさせるなど、経済的にかなり安定した人もおり、若いフリーランサーの中には高度な学歴やスキルを持った人たちもいるということです。

 

カナダの多くのフリーランサーは独立して働くことを自ら選んでいますが、正規雇用の機会が徐々に減少する中で、フリーランサーにならざるを得ない人も増えているそうで、カナダ経済の大きな変化とともに労働形態も変わってきているようです。

 

その結果、コントラクターを専門に扱うカナダの人材派遣会社には、現在大きな需要が見られています。FlexJobsがプロのためのトップ人材派遣会社と認める、トロントのITスタッフ代理店Eagleには、ITワーカーから月に7千件を超える応募が届いています。

 

Andersen Consulting(現Accenture PLC)の募集部門として始まったEagleの事業開発担当副社長フランシス・マッカート氏は、同社を通じて働く労働者はいずれも10年から20年の経験を持つ専門職だと話しています。

 

マッカート氏自身も20年間のキャリアの中で、IT業界のフリーランス労働者に対する認識の進化を目撃しています。

「私が最初に始めたときは、独立したコントラクターを使うことは非常にまれでした。そのような人たちは、最高のワーカーではないと考えられていたのです。フルタイムの仕事を得ることができなかったので、コントラクターになったのだろうと。しかしY2K(2000年)の技術革新以来、多くの人が独立したコントラクターになりました。そしてこの傾向はそれ以降も拡大しています。」

 

今ではカナダのあらゆる規模の企業が、フリーランスのIT担当者を定期的に採用するようになりました。特に新しいテクノロジプラットフォームを採用し、アップグレードする場合などに。 金融業界も同様です。監査やコンプライアンスなどの特定プロジェクトや季節的なプロジェクトには、相当数の派遣社員が雇われ、正社員の退職時にはコントラクターとの置き換えが起こっています。

 

「変化の激しい業界やセクター、買収や、新規株式公開時の企業、企業合併などの折りには、物事が安定するまで正式雇用は凍結されます」と、トロントに拠点を置く人材派遣会社Lannickのファイナンス兼会計部門の顧客サービス副社長ヴィネイ・マンダル氏は述べています。重要な会計能力を持つ人を置き換える必要がある場合にも、コントラクターに置き換えられることが多いのだそうです。

 

マンダル氏は近年の相対的な成長の結果として、リエイティブ産業よりも、財務などの業界でのフリーランスの採用が上回っていると付け加えます。「今のところ金融経済は強く、企業は様々なプロジェクトに投資し、支出することができています。会計と財務分野の強力でプロフェッショナルな才能への需要が、今や供給を上回っています。5年前にはこんなことはありませんでしたよ。

まとめ

フリーランス経済の発展途上国では、将来ITやクリエイティブ産業を超えた分野へも、この経済が発展していくことが期待されています。カナダでは経済好況にも後押しされて、すでに伝統的なフリーランスの職種を超えた分野に、フリーランサーの需要が着実に伸びつつあります。

 

日本ではこの夏、正社員の有効求人倍率が1倍を超え、求人数が求職者数を上回る一方、中年層に非正規雇用労働者が急増しています。フリーランス経済を将来の労働形態と捉えるなら、日本でもカナダのように業種にとらわれないフリーランサーの受け入れが必要となるでしょう。

 

参考記事:

https://beta.theglobeandmail.com/report-on-business/careers/career-advice/life-at-work/freelance-work-expanding-to-more-sectors-report-finds/article31519391/?ref=http://www.theglobeandmail.com&

 

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)