これまでフリーランス経済が最も進んでいる米国、米国と同様の展開を見せるオーストラリア、リモートワーク市場で恩恵を受けるアジアのフリーランサーなどを見てきましたが、世界のその他の地域にもフリーランス経済は到達しているのでしょうか。
今回は、アラビア半島の7つの首長国からなる、アラブ首長国連邦のフリーランス事情を探ってみたいと思います。
アラビア半島に波及するフリーランスの波
今年3月、TimeOut Dubai誌には、「ドバイでフリーランサーになる方法-アラブ首長国連邦でフリーランスになるのに、これ以上の好機はない」という記事が載りました。
その書き出しはこうです:「Forbesのビジネス専門家によると、2017年はすでに「フリーライターの年」と呼ばれています。 2020年までに米国は労働力の50%がフリーランスになると予測しています。これはすでにアラブ首長国連邦にも波及し始めています。」
続いて「10万人以上のフリーランサーを抱えるオンライン市場Nabbeshによると、2016年第1四半期にアラブ首長国連邦の企業はフリーランサーを40%増やしたと言われています。企業規模が縮小に向かう世界的な動向の中、これらの企業はフレキシブルワークに対応しつつあり、フリーランス経済は急速に拡大しています。 過去数年間のフリーランス労働許可へのアクセスの増加が、この国でフリーランスとして働くことを容易にしてきました。」
ここまで読んで、一つ腑に落ちないことがあります。「フリーランス労働の許可」とは何でしょうか。
アラブ首長国連邦でフリーランサーになるには
記事の続きにはこう書かれています:「ドバイに本社を置くVital Corporate Solutionsの創設者であるアマンダ・ペリー氏は、起業家やフリーランサーが国に事業を正しく登録する手助けをしています。彼女は、現在フリーランスの許可を発行している58のフリーゾーンが同国にあると語っています。」
「フリーランスの許可」や「フリーゾーン」とは聞きなれない言葉です。日本や米国のような自由経済では、労働形態は個人が自由に決められるもの。フルタイムで雇用されつつ、夜間だけフリーランスとして働くムーンライターなどにも、私たちは多く接してきました。
しかしアラブ首長国連邦では事情が違っているようです。文末にある空きのある「クリエイティブスペース」の広告から、どうやらフリーランサーになりたい人は、このようなフリースペースから一つを選んで登録料を払って、フリーランス業に入るらしいことが想像されます。
クリエイティブスペース
クリエイティブスペースの広告には、以下のようなことが記載されています。
“Arrows & Sparrows この現代的なスペースは、仕事をしたりインスピレーションを受けたりできる空間です。土着色の色調、マイルドな工業感覚、ファンキーな置き物。素晴らしい朝食メニューと、サンドイッチ、サラダ、ドリンク付の平日ビジネスランチがDhs45(約1,320円)でお楽しみいただけます。毎日午前8時から午後6時まで。 電話:04 558 8141。”
これは自由諸国のコワーキングスペースを連想させる内容です。このようなスペースで仕事ができるのは理想的ですが、それ以外にこの「登録」には何が含まれているのでしょうか。
ペリー氏は語ります、「各フリーゾーンには、異なった取引許可タイプが用意されています。フリーランサーは、自分の活動と予算に適したフリーゾーンを選びます。」
この許可は安いものではなく、毎年更新する必要があります。価格はDhs8,500(約24万9,500円)からDhs20,000(約58万7,200円)以上。これには居住ビザ、首長国ID、 医療費が含まれています。フリーランスの許可証を得た人は、その許可カテゴリーの下でビザを申請しなければなりません。それが居住ビザとなって、この国でフリーランサーとして働くことができるのです。
許可には様々あり、たとえばアブダビのtwofour54は、現在Dhs8,500(約24万9,500円)ほどの手頃な価格ですが、アブダビ・メディアオーソリティに拠点を置く顧客からの仕事の意向状が必要であるという制限があります。
Umm Al QuwainはDhs20,000(約58万7,200円)前後。Dubai Media City、Dubai Internet City、d3(Dubai Design District)を含むTECOMとして知られるDubai Creative Clusters Authorityは、約Dhs 24,000(約70万4,600円)で許可を提供していますが、規定数があり、すでに満杯だそうです。
アラブ首長国連邦のフリーランサー
英国外駐在 オリビア・ブレントさんは10年以上この国に住み、英語のボイスオーバーアーティストとして働いています。 彼女は3ヶ月前にフルタイムの仕事を辞めて、フリーランスになりました。
「ずっと放送会社で働いていて、いつか独立しようと思っていました。フリーランスの柔軟性をどう楽しめるか、財政的にやって行けるか試したいと思いました。他にもビジネスのアイデアがあるので、フリーランスがこれらの仕事をする機会を与えてくれるかもしれないと感じたのです。十分なクライアントを得られれば、世界のどこからでも働けると思います。それは、まともなインターネット接続のあるところで、という意味ですが。」
ブレントさんは、基本的な医療保険やホットデスクへのアクセス、企業内にフリーランサープロフィールをアップロードできるポータルを含むtwofour54の許可を、Dhs9,000(約26万4,200円)で得ています。自由と柔軟性は大きな魅力ですが、仕事は楽ではありません。
エジプト・ヨルダン人のヘーバ・ハシェンさんは、ドバイを拠点にフリーランス・ジャーナリストとしています。Dubai Creative Clusters Authorityが発行した許可証ですでに10年間働いており、会議室やポスト・ボックスを含む共有のデスクや施設にアクセスすることができます。許可証にかかる費用はDhs20,000(約58万7,200円)だそうです。
「当初はよく知られている出版物に無料で書くことを提案しました。数ヶ月でそこから仕事をもらえるようになり、 今では世界中にクライアントを抱えています。アラビア語翻訳のスキルも使って、サービス範囲を広げました。」積極的なアプローチとスキルや顧客基盤を広げる能力は、フリーランス界で成功するのに不可欠なようです。
この国のフリーランスタスクは不足していません。 独立した才能が常に求められているため、フリーランサーを増やす余地はまだあります。どこから始めてよいかわからない人には、フリーランス業を始めるプロセス全体を代行するサービスもあります。どの許可証とロケーションが最適なのかを調査し、申請書の手続きを進め、医療費の支払いまで一貫して管理してくれるのだそうです。このようなサービスでは、エントリーレベルの許可証はDhs4,000(約11万7,400円)、より大きなフリーゾーンの複雑な許可証にはDhs20,000(約58万7,200円)ほどかかります。
まとめ
アラブ首長国連邦のフリーランス市場を支配しているのは、クリエイティブ、メディア、デジタル業界ですが、そのほかにもメイクアップアーティスト、ファッションデザイナー、デジタルマーケターも進出しています。2020年のドバイ博覧会では、その他の業種の成長も期待されています。
この国だけでなく、この地域のほぼすべての企業がプロジェクトや事業にフリーランサーを一度ならず使用していますが、それでもフリーランスはまだ非常にニッチな市場と言えます。
だれでも自由にフリーランス業を始められるのと違い、この国のような登録制度では医療費や作業スペースが保証されるのが利点ですが、登録費はけして安くはないようです。
記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)