日本人の会社員は趣味が少ないと言われています。敢えて言えば男性だったら「ゴルフが趣味」。もちろん心から楽しんでゴルフをする人もいると思いますが、多くの場合、ゴルフは仕事の延長としてやる「イベント」であることほとんどです。
その一方でオーストラリアでは趣味は十人十色。日本人とオーストラリア人のこの「遊び方」の違いはどこからくるのでしょうか。
交代で来る新しい駐在員は新風をもたらす?
海外に進出した日系企業では、一般的に3年か4年に1度日本人駐在員が交代します。新しいテクノロジーや新規の会社方針に追いつくために、次の人に来てもらう必要があるのですが、職場では新しい駐在員が来るたびにちょとした緊張感が生まれます。
このような緊張感は日本のように人事異動が3年に1回あるところでは当たり前のことかもしれませんが、前回の「海外で一般的なジョブ型雇用形態、メリットとデメリットとは?〜新しい働き方はどのように生まれた? -海外編 第14 回」の中で書いたように、ジョブ型の雇用形態では、経済状況によっては従業員がほとんど変わらないこともあります。ですから、3年か4年ごとにやってくる新しい日本人駐在員には「何か新風をもってくるのでは」という期待が集まるのです。
「趣味は何ですか」
新しい日本人の駐在員がやってくると、現地のメンバーはその日本人と親しくなろうとしていろいろな質問をします。その中で必ず聞く質問の一つが「趣味は何ですか」です。ある意味でとても身近な質問ですが、この答えとなると、ほぼ一定しています。つまり、10人いたら9人は「趣味はゴルフだ」と答えるのです。そして「ゴルフの他は?」と聞くと「別にない」という答えが返ってきます。
つまり90%の人が趣味はゴルフであとは趣味がない!ちょっと不自然だとは思いませんか。ではなぜ個性が現れるはずの「趣味」がこのように一定してしまうのでしょうか。
ゴルフは仕事の延長
これまで何人もの駐在員や長期出張者に出会い、そのたびにいろいろな話を聞くチャンスがありました。そうした人の話の内容をまとめると、本当に楽しくてゴルフをしている人はあまりいず、ゴルフをする人の殆どが付き合いや上司からの誘いを断ることができず仕方なくやっているということが分かりました。
それもほぼ毎週週末にゴルフをするわけですから、仕事の延長のようになっており、ゴルフに対してストレスを感じているという人がたくさんいました。でもその後いろいろ話すと、結構、野球が好きだったり、週末に魚釣りをしていたり、旅行に出かけていたりと個性が見えてくるのですが、人前ではそのように本当に自分が興味を抱くものをあえて公言しない人が多いのです。
十人十色のオーストラリア人の趣味
こうした日本人駐在員の趣味事情がだんだんわかるようになったので、オーストラリア人はやがて「趣味は何ですか」とは聞かなくなり、その代りに少しでもゴルフ以外の興味を示した人に対して、「今度の週末に一緒にテニスをしませんか」とか「釣りに連れて行ってあげるよ」というような誘いに変わっていきました。実際、オーストラリア人は遊びの名人で、趣味は10人いれば十人十色、それぞれ違っています。
例えば、マネージャーのAさんは、釣りが趣味です。自分でも小型のボートを持っていて、そのボートを車の後ろにくっつけてそれを引っ張って海岸まで行き釣りを楽しみます。Aさんはまた、車で2時間ほど行ったところにビーチハウスを持っていて、連休や長期の休みになると、そのビーチハウスで家族とゆっくりとした時間を過ごします。
仕事と趣味をしっかり切り替える
エンジニアのBさんは、日本では想像できないくらいですが、農場の仕事が趣味です。Bさんは職場から車で1時間くらい離れた田舎に安い土地を購入し、そこに家を建て小規模な農場(ホビーファームと呼んでいます)を作りました。農場には牛、ニワトリなどの家畜を飼い野菜を育て、敷地内には住居の他に娯楽用の大きな小屋を建てそこに卓球台やビリヤード台を置いて人を呼んでよくパーティーを開きます。
AさんもBさんも、よく仕事をしていた人ですが、趣味のための時間もしっかり見つけていました。例えばBさんは毎日朝6時に出勤し午後3時には退社します。そして退社した後日が暮れるまで趣味の農場の仕事をするのです。このように仕事とプライベートをしっかり分け意識を切り替えることよって、仕事も遊びも充実してできているように見えました。
遊ぶことを罪悪視する日本の風土?
オーストラリアでは日常での趣味の他にも、年休もしっかり取り楽しみます。年休はもちろん家族の事情で1日とか2日とか短期で取ることもありますが、少なくとも年に1回は、2週間以上取って国内のリゾートでゆっくり休んだり、海外旅行に出かけたりします。ときどきオーストラリアに日本から駐在員の家族や友人が遊びに来るのですが、どれくらい滞在するのかと聞くと、せいぜい5日間、ひどいときには2日いただけでとんぼ返りのように日本に帰ってしまいます。
高い航空運賃を払ってやってきても2日いただけでは何ができるのでしょう。けれども、それはそうした個人が悪いのではなく、そのように休みを取らせない職場、ひいては「遊ぶこと」を罪悪視する社会の風土に問題があるように感じられます。
英語のことわざに「勉強ばかりで遊ばないと子供はだめになる(All work and no play makesJack a dull boy)」というのがありますが、心の伴わない「趣味はゴルフ」を聞く度に、このことわざは、子供だけでなく大人にも当てはまるのではないかと思ってしまうのです。
記事制作/setsukotruong