物流の専門家による「物流の現場」コラム第5回。今回は【リスクマネジメント】についてです。
ベンチャー企業が避けて通りたい話題がリスクマネジメントです。
イケイケどんどんが信条ですから、リスクという言葉は常に出ていても真剣に考える事はほとんどありません。
製造販売流通では、リスクマネジメントとは「保険のことでしょ?」「BCP(Business continuity planning):事業継続計画ですか?」レベルの話題感です。
「売上げは、すべてをイヤす薬」というのは正しいのですが、反面では気をつけねばならないことが沢山あります。
「売り上げ好調、でも社長!資金ショートの危機が!」というセリフは聞きたくないものです。
今回は、リスクマネジメントについて次の3つのテーマについて述べます。
1. 倒産は総合失調症
2. 避けたいコモディティ化
3. キャッシュアウトより、キャッシュイン
1. 倒産は総合失調症
小売業で大成功するのはヒット商品に恵まれる時です。
マンションメーカーだったアパレル企業は、1億円ブランドを作り出すために必死です。市場で1億円の売り上げがあるとそれはもう立派な有名ブランドになります。
次々とブランドを開発して、勝負に出たいと願うものです。
アパレル業界は製造販売を同時に手がけます。
直営店からスタートして有名になると卸売り販売を手がけるようになります。
売れているのだから、どんどん製造にハッパをかけて膨大な在庫を保有することになります。
アパレルの宿命は、カラーサイズの展開が必要なので在庫はただでさえ膨らむものです。
売れている→続々と注文が入る→増産に次ぐ増産→売上金の入金遅れ→仕入れ代金の支払い→家賃、給与の支払いは待ったなし。
資金繰りで胃が痛くなります。
典型的なアパレル業界はこの苦労というか、地獄を乗り越えて成長してゆきます。
でも、一歩でも売り上げ入金が滞ってしまったら?
商品在庫は山ほどあり、いつでもどれだけでも売れるのに、手元不如意の事態が訪れるのです。
預金口座で資金ショート、小切手降り出しができません。銀行取引停止となり、倒産です。
【バンダイもギリギリの危機を経験:たまごっち事件】
名門玩具メーカーのバンダイもこのギリギリの危機を経験しました。
「たまごっち事件」です。
1996年11月23日、画期的な飼育ゲームソフトを発売、わずか2週間で爆発的ヒット商品となり、増産が間に合わず発売停止。
コピー商品が出回り、オークションでは定価の10倍でも買えなくなりました。
そして、わずか2年後、バンダイは126億円の赤字決算で社長交代となりました。
それは、売上と資金の時間差問題、販売生産のバランス失調が原因だったのです。
- 売上アップ:現金になるまで時間がかかります
- 増産指図:工場は急には作れません
- 在庫増加:仕入れ代金はいつまでも待ってくれません
- 運営経費:家賃、人件費、公租公課は待ったなしです
2. 避けたいコモディティ化
同じような事例は現在でも沢山あります。
今年の春にヒット話題となったサントリーの「ヨーグリーナ」、「レモンジーナ」は覚えている方も多いと思います。
4月発売、やはり2週間でコンビニ大ヒットとなり、テレビで販売中止宣言。
6月販売開始しましたが、時すでにブームは忘れられ、夏には1本50円で投げ売り状態でした。
大手企業さえ苦労するのが、売れる事件です。
「売れなくても困る、売れすぎてももっと困る」のです。
もちろん、その間は在庫が爆発して倉庫は足りない、人はいない、運べない!と物流現場は地獄のようです。
売れすぎると価格維持が難しく、競合製品や類似品が出回り、いわゆるコモディティ化が進みます。価格決定は買い手に移り、売っても売っても利益が出ない状態に陥るのです。
そうならないための秘策はどこにあるのでしょうか。
3. キャッシュアウトより、キャッシュイン
売り上げが嬉しいのはキャッシュが手元にくるからです。
ところが、与信や契約条件で売れてもキャッシュになるのは、商談次第という現実があります。
営業マンは売上追求に熱心ですが、意外と回収はおろそかになりがち。
財務管理や経営者はここに着目しなくてはなりません。売上代金を回収できて初めて嬉しいのです。
キャッシュインを経営管理の原則にしなくてはなりません。
キャッシュアウトをコスト問題と考えるのは正しいのですが、例えば物流をコストだけで見ていると、「同じ売上ならコストは安い方が良い」は正しくて、「売上を上げるためにコストを掛ける」という視点を見失いがちです。
物流活動は製造販売の必要経費ですから、コスト問題は販売方法、生産方法を見直ししなければ改善することはできません。
なのに、コストダウンばかりを強化すると現場や委託事業者は「手を抜く、いつもならするけど、今回はしない」という事態を生みだしてしまいます。
リスクマネジメントでやらねばならないことを、実際には止めてしまう。
大きなリスクを呼び込んでしまうことに気づかねばなりません。
1955年生れ東京都出身 慶応大学経済学部卒 証券会社を経て、生産・物流コンサルティング歴30年。28業種200社の物流センター開発と改善指導に携わり、多くの商材でSCM実現化課題を解決してきた。2012年より月刊誌ロジスティクス・トレンド発行人。主な著作に「見える化で進める物流改善」、「物流リスクマネジメント」共に日刊工業新聞社刊。
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