在庫管理や配達・配送は物流部門や物流アウトサイダーの責任として仕事に組み込まれています。

これは会社の資産である在庫を適切に管理して、得意先に正しく正確に届ける事が物流の仕事だからです。ところが、在庫が足りなくて注文に応じられない欠品や、売上に必要以上の配送を繰り返して輸送コストが突出するのは、「経営上の物流問題」という形容詞で語られる症状です。物流の問題は、物流部門に原因がない、それなのに責められてしまう物流の悲哀を明かします。

物流問題は、物流部門だけで解決はできない

企業にとって売上が不足すれば、営業部門を中心として全社号令で取り組むでしょう。商品事故や製造原価が上昇すれば、生産・購買部門が工場入りして原因追求を図ります。

ところが物流問題では物流部門が手出しできる余地は案外少なく、全社的な物流問題の改善活動は遅々として進まないのです。その理由を考えてみましょう。

注文を受けたのに販売できない商品在庫の不足は、生産・調達部門の仕事が原因で起きます。売れる時期に商品在庫が足りないのです。欠品は販売チャンスを失うので、営業部門は大騒ぎとなります。

在庫の過剰は販売部門の活動によって影響された結果です。「いつかは売れますから〜」と悠長なことを言いながら、問題の先延ばしをしてきた結果です。

更に物流コストの大半や7割近くを占める輸配送コストが膨らむのは、得意先と営業部門の商談の結果です。顧客の言いなりや採算収支を度外視した過剰な物流サービスの結果です。

物流の問題は、このように生産・調達部門、営業部門の仕事の結果として起きていますから、物流部門だけに責任を負わせるのは大変酷な事です。

しかし在庫の欠品や過剰は、どちらにも倉庫にある「物流の在庫」なので、物流という形容詞と動詞の区別は分かりづらく、おとなしい物流マンは深刻に受け止めてしまいます。欠品や過剰を予防したり、対策を取ったりするにも肝心な打ち手を持っていないのです。

物流問題の解決は、物流部門の周囲にある多くの部門に働きかけ、協力や意識の改革を図っていかなければならないのです。物流部門は物流問題の当事者ではなく、状況・情報を発信して解決の進捗を測定や評価する審判のような役割でなければならないのです。

在庫の過不足問題は財務ミッションである

会社の資産である在庫は、会計上「未実現利益」と呼ばれています。現金の姿が変わったものが在庫だからです。現金と同じように金額で示されますが、100万円の現金と100万円の在庫では価値は同じでも、意味は全く違います。在庫としての商品100万円は売上になる時には、100万円以上の現金に変わります。在庫は原価で勘定されているからです。売価は営業商談条件で決まるからです。売価―原価=利益ですから、「いくらの利益になるか分からない」という意味で在庫の事を未実現利益と呼ぶのです。

在庫は売れれば利益になりますが、売れなくていつまでも倉庫に残っていれば、最後には0円でも売れずに処分するためにコストがかかる事もあります。未実現利益が「現実損失」に変わってしまう事もあるのです。ですから、売れ残りというような過剰な在庫は絶対に避けなければなりません。月末に報告される在庫一覧は、ほとんどが売れ残りではないでしょうか。よく売れる商品は倉庫に入った途端に得意先に向けて出荷されて行きますから、季節備蓄商品以外の在庫は「売れ残り商品有高」とみなしてもあながち間違いではないでしょう。

利益になるはずだったものがいつしか損失になるなんて、その事の意味と影響を深刻に考えられる人は誰なのでしょうか。それは経理財務部門の人しか実感がわかないはずです。

営業欠品は売り逃がしですから、利益を棒に振った事になります。ですから、欠品も皆さんが避けたい物流問題として取り上げられます。欠品を防止するには多くの品揃えと豊富な在庫量を確保すれば安心です。ですから、どんな企業も欠品を恐れるあまりに在庫過多となりがちです。

在庫を持つことは、販売チャンスロスというリスクに対して、とても効果的なクスリだからです。在庫をたくさん持つ=生産調達を多めにする、というのも原価低減、単価が下がりますので、生産購買部門も歓迎します。

在庫が増えると貸借対照表上では棚卸資産が増えます。資産が増えるのは、会社が大きくなることだから歓迎されるでしょうか。いいえ、財務経理の方が苦虫を呈するはずです。それは、資金繰り計画に悪影響だからです。

在庫という未実現利益が増えると、利益であるキャッシュが代わりに減るからです。

物流問題と財務部門の関係は、責任というよりもっと軽い感覚で捉えていただきたいものです。コミットメントというのがふさわしいかもしれません。

多くの企業では、物流問題を解決しようと改善活動に取り組まれてはいるものの、「なかなか進行できない、改善が終わらない、次から次へと山積する」というのが現実ではないでしょうか。

症状を見て原因を特定し、対策を試みる改善アプローチやPDCAサイクルのマネジメント課題もありますが、<誰が当事者で、どのように改善コミットできるのか>という視点で振り返ると、物流問題は関連各部門の境界線の奥深くに鎮座している気がします。

全体最適とは物流在庫で評価できる

このように見てゆくと、在庫の欠品や過剰という物流問題症状は、その原因に生産・調達部門、営業部門、経理財務部門の関わりが大きいのだとお気づきでしょう。物流部門は、今ある在庫の正しい情報や状況を即座に報告することが重要な使命だと思っていただければ良いのです。

物流問題は毎日、事故・ミスの他にも在庫の過剰や欠品を温存しているのです。そしてその原因が財務・経理部門を起点とした資金繰りや在庫予算、販売計画に連動した手持ち在庫猶予額という財務の視点で現状を把握することもできるし、問題発生の抑制や万が一へのアラーム機能も織り込むことができるものです。

部門最適から全社最適へ、多くのビジネス場面で語られる言葉ですが、在庫の欠品や過剰も実は全体最適を実現するための重要な通り道であることを知っていただきたいと思います。

企業活動の成果が売上と利益で評価されるわけですから、キャッシュフローの観点でみれば最適な在庫と潤沢な資金繰りが直接の原因となるはずです。

未実現利益が本当に利益の実現となり、売上が最大の利益となるようにするには、在庫問題という物流の形容詞を動詞に読み替えた改善活動をそれぞれの部門がコミットして取り組む必要があるのです。

専門家:花房 陵(ロジスティクス・トレンド株式会社 代表取締役) 
1955年生れ東京都出身 慶応大学経済学部卒 証券会社を経て、生産・物流コンサルティング歴30年。28業種200社の物流センター開発と改善指導に携わり、多くの商材でSCM実現化課題を解決してきた。2012年より月刊誌ロジスティクス・トレンド発行人。主な著作に「見える化で進める物流改善」、「物流リスクマネジメント」共に日刊工業新聞社刊。

ノマドジャーナル編集部
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