ライセンス契約は、ベンチャー企業にとって最も基本的な契約書の一つになります。
本稿では、ベンチャー企業が最低限抑えておくべきライセンス契約の留意点について解説していきたいと思います。自社がライセンスを受けるライセンシーである場合のライセンス契約の留意点について解説していきます。
前編では、ライセンスの対象の特定、利用の制限、独占の意味やライセンス料について解説しました。後編では、知的財産権の取り決め、競業禁止規定、ライセンス期間及びライセンス期間終了時の取扱いについて解説していきます。
5. 知的財産権の取り決めを明確に!
ライセンシーが、ライセンスの対象を元に新たに著作権や特許権などの知的財産権を発生させた場合、その知的財産権を誰に帰属させるのかという点は重要な問題です。
ライセンシーとしては、自分に単独で知的財産権が帰属するようにした方が望ましいことは言うまでもありません。もっとも、どちらに帰属させるかについて協議が整わない場合には、ライセンサーとライセンシーの共有とすることも考えられます。知的財産権を共有とする場合には、次の3つの点に注意する必要があります。
1点目は、共有持分の割合についてです。ライセンシーとしては、自分の持分が不当に小さくならないように注意する必要があります。2点目は、共有持分の使用の可否についてです。自社と相手方がどのように相手方の持分も含めた知的財産権を使用できるのかについて定めておく必要があります。3点目は、共有持分の譲渡についてです。自社の持分及び相手方の持分について、それぞれ譲渡に相手方の承諾が必要なのか、それとも単独での判断で譲渡できるのか等を定めておいた方が良いでしょう。
6. 競業禁止規定の受け入れは慎重に検討すべき!
特に独占的なライセンス契約の場合には、類似品の開発、取扱い等を禁止する競業禁止規定を要求される場合が多々あります。独占の場合、ライセンサーにとっては、他のライセンシーからのライセンス収入の途を閉ざされてしまいますので、競業禁止を要請する動機が強くなるためです。
競業禁止規定は、ビジネスを大きく制約するものですので、このような規定が定められているとIPO審査やM&Aのデューディリジェンスの際に問題視される場合があります。従って、競業禁止規定が定められている場合には、まず削除を交渉しましょう。もっとも、ライセンサーがそれなりに資金を投入しているような場合には、受け入れざるを得ないケースもあります。このような場合には、「競合する事業」の範囲を明確にすることで、影響を最小限に留めることが考えられます。例えば、「競合する事業」の中身を「インターネットオークションのプラットフォーム事業」などと記載することで、単なるECのモールサイトは競業の範囲に含まれないことを明確にすることが考えられます。
なお、ライセンサーから提案を受ける契約書には、競業禁止という題名がないものもありますが、よく読むと内容は競業禁止が規定されていることもありますので、この点は気を付けて確認をした方がよいでしょう。
7. ライセンス期間の確保はしっかりと!
会社のビジネスの根幹となっているライセンスについて、その有効期間の確保は極めて重要です。IPOやM&Aのデューディリジェンスの際にも、そのライセンスを適切に保持し続けられるかという点は厳しくチェックされます。特にライセンサー側から提示された契約書においては、たとえ契約期間が長期間確保されていたとしても、ライセンサーからの一定期間前の書面通知によっていつでも解除されるというような規定が含まれている場合が多いので、注意が必要です。また、特に海外の会社との契約においては、Change of Controlの条項(=会社の支配権が変わった場合には、契約を解除されてしまう条項)が定められているケースも多いので、M&Aも考慮に入れているベンチャーは、このような規定がないかについても確認しておきましょう。
8. ライセンス終了時の取扱いにも注意!
契約終了時の手当てを入れておくことは重要です。例えば、ライセンスに基づき製品を製造して大量の在庫をかかえる可能性がある場合には、ライセンシーとしては、ライセンス終了時の在庫についても販売できる旨を明確にしておくことが望ましいでしょう。
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