ライセンス契約は、ベンチャー企業にとって最も基本的な契約書の一つになります。例えば、IT企業では、自社のシステム開発に必要な技術のライセンスを受けたり、開発したシステムを販売する過程でライセンスを許諾することがあります。また、ほとんどのバイオ系企業では、ライセンス契約が事業活動の根幹となっていると言っても過言ではありません。

そこで本稿では、ベンチャー企業が最低限抑えておくべきライセンス契約の留意点について解説していきたいと思います。本稿では、自社がライセンスを受けるライセンシーである場合のライセンス契約の留意点について解説していきます。

1. ライセンスの対象を特定しましょう!

ライセンスの対象を適切に特定することは重要なことです。例えば、ライセンスの対象がさらに改良された場合にその改良後のものもライセンスの範囲に当然に含まれるのか、ライセンスの対象について異なる形態が想定される場合にどの形態についてライセンスが許諾されているのか(例えば、オブジェクト・コードだけでなくソース・コードも含まれるのかなど)を明確にしておく必要があります。ライセンシーがライセンスの対象に当然に含まれていると思っていても、契約上ライセンスの対象に含まれていなければ、使用する権利を有していないことになるため、ライセンスの対象の特定は重要です。

また、IPOの際には重要な契約を開示する必要があるのですが、かかる開示が必要な場合に、ライセンス契約の対象が特定されていないと問題となることもありますので注意が必要です。

2. 利用に制限がないかを確認しましょう!

単にライセンスといっても、あらゆる利用が許される場合と利用形態や利用目的が制限されている場合があります。特に英文のライセンス契約では、利用態様が細かく列記されていますが、その場合には、自社が予定している利用態様が全て含まれているかを慎重にチェックする必要があります。たまに、再許諾権の有無が明記されていないライセンス契約がありますが、再許諾権がないということは自社内での利用しかできないということとなります。再許諾権の有無はその後の事業展開に大きな影響を及ぼす可能性がありますので、明確にしておいた方が賢明です。
また、利用できる地域(テリトリー)が設定されている場合もありますので、その点も慎重にチェックする必要があります。特にウェブビジネスでは、全世界でサービスを利用することが可能であるところ、ライセンシーが日本にいるからといって日本におけるライセンスのみ取得してしまうと、海外に存在するエンドユーザーへのサービスの提供がライセンスの範囲に含まれているのかといった問題が生ずるおそれがあります。

3. 「独占」の意味に注意!

ライセンス契約において、ライセンスが「独占」か「非独占」かは非常に大きな問題です。

しかし、この「独占」という用語は必ずしも明確ではありません。なぜなら、契約書において「独占」という言葉が使用された場合、①他の第三者には同じライセンスを設定しないという場合と、②①に加えてライセンサー自身も権利を実施してはならないという場合があります。従って、単に「独占」という文言が定められている場合には、①と②のどちらなのかを明確化することを検討しましょう。

また、「独占」といっても、その利用目的や独占となる地域などについて、例外が定められている場合もありますので、その例外を慎重にチェックし、どの点について「独占」なのかを確認する必要があります。

4. ライセンス料は揉めごとの大きな原因!ライセンス料の設定は明確にしておきましょう!

ライセンス料の設定については、契約締結時の一括払いの実施料などの定額ライセンス料と、ライセンスの使用に伴い売上高等に連動して継続的に支払うべきランニング・ロイヤルティの2つの形態に大別できますが、実務上はこれらが組み合わされることが多いです。

ランニング・ロイヤルティの場合、通常、ライセンシーがライセンスを使用して得た売上の何%と定めることが多いですが、その場合には、売上として認められる範囲やコストとして差し引ける範囲などを明確にしておかなければ、後からその範囲について揉めることにもなりかねません。特に「売上」に消費税が含まれているかという点は、実務上問題となりやすいので、明確にしておきましょう。また、ランニング・ロイヤルティに関連し、その最低額を定める場合があります。いわゆるミニマム・ロイヤルティと呼ばれるものです。これは、ライセンシーの売上がいくらであったとしても、このミニマム・ロイヤルティ額以上の支払いを、ライセンシーが保証しなければならない、というものです。このミニマム・ロイヤルティの額が大きいと、ライセンシーにとっては負担となりますし、場合によっては、ミニマム・ロイヤルティの未達成がライセンス契約の解除事由と定められている場合もありますので、慎重な検討が必要となります。

また、例えば、バイオベンチャーの場合、創薬開発段階等に応じてマイルストーンが設定される場合があります。このマイルストーンの設定自体は不合理ではないとしても、創薬が開発され、適切な認可を取得し、売上が発生する前の段階で、マイルストーンに基づく巨額のライセンス料を支払うことになると、まだ資金的な余力がないベンチャー企業にとってはリスクとなります。また、売上に連動しないミニマム・ロイヤルティの設定も場合によってはリスクとなります。このようなマイルストーンやミニマム・ロイヤルティの存在についてはIPO審査や会社を売却する場合に買い手側が実施するM&Aのデューディリジェンスの際に問題視される可能性もあるため、その内容は慎重に検討する必要があります。

後編では、知的財産権の取り決め、競業禁止規定、ライセンス期間及びライセンス期間終了時の取扱いについて解説していきます。

専門家:長尾 卓(AZX総合法律事務所 パートナー弁護士) 
ベンチャー企業のサポートを専門としており、ビジネスモデルの法務チェック、利用規約の作成、資金調達、ストックオプションの発行、M&Aのサポート、上場審査のサポート等、ベンチャー企業のあらゆる法務に携わる。特にITベンチャーのサポートを得意とする。趣味は、バスケ、ゴルフ、お酒。

専門家:平井 宏典(AZX総合法律事務所 弁護士)
弁護士になって以来、ビジネスモデルの法務チェック、各種契約書の作成及びチェックなどを通じて、日々新しいことに挑戦するベンチャー企業のサポートを行っている。趣味は、ランニング、海外ドラマ鑑賞

ノマドジャーナル編集部
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