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1.ロケットエンジン

佃製作所は、佃社長の宇宙科学開発機構で培った高い技術、特にエンジンの品質の高さにより、右肩上がりで成長してきました。しかし、大手メーカーである京浜マシナリーとの取引終了に伴い、業績が大幅に悪化します。

【図表1】
 当初〜特許訴訟  ロケット編  ガウディ編
 顧客 精密機械(エンジン)を
   必要とするメーカー
帝国重工
・ロケットエンジンの部品
・キーデバイス内製化
帝国重工
・ロケットエンジンの部品
・キーデバイス内製化
 競合 ナカシマ工業
・特許訴訟に強い
なし サヤマ製作所(顧客との共同開発)
・社長がNASA出身
・ヘッドハントによる優秀な
   技術者の結集
・成果報酬などによる動機づけ
   (外発的動機付け)
 自社 ・エンジンの品質
・高い技術力、特許
・佃プライド、佃品質
・ものづくりへのこだわりによる
   動機づけ(内発的動機付け)
・神谷弁護士
・バルブシステムの技術、特許
・高い技術力、特許
・佃プライド、佃品質
・ものづくりへのこだわりによる
   動機づけ(内発的動機付け)
・バルブシステムの技術、特許、
   更なる改善
・高い技術力、特許
・佃プライド、佃品質
・ものづくりへのこだわりによる
   動機づけ(内発的動機付け)

ここで佃製作所に目をつけたのがナカシマ工業です。ナカシマ工業は佃製作所のステラエンジンに対して特許侵害訴訟を起こします。ナカシマ工業は特許訴訟に強いと評判の会社です。長期の特許訴訟や多額の賠償金で競合の資金繰りを痛めつけ、最終的には競合の経営権を取得し特許を自社のものにする、という戦略を得意としています。この特許訴訟戦略を最大の強みをするナカシマ工業でしたが、佃製作所には特許訴訟に強い神谷弁護士というパートナーが現れ、最終的にはナカシマ工業に勝利します。これは、競合の最大の強みに対して、強力な外部パートナーの力を借りることで対抗できた事例です。しかし、神谷弁護士も佃社長との最初の面談で指摘した通り、本来は特許取得時に取得範囲等の工夫を行い、事前に防衛しておくべきだった、つまり、競合の取るであろう戦略を先取りして、自社で対抗戦略を取るべきだった、といえるでしょう。


次は、帝国重工へのロケット部品供給で考えてみましょう。帝国重工は初の純国産ロケット開発を行うスターダスト計画の中で、佃製作所の持つバルブシステムの特許が必要となります。当初は自社内製にこだわり、特許の譲渡を希望しますが、最終的には佃製作所から部品供給を受けることになりました。この時は、圧倒的な技術力と特許により、競合が存在しないという特殊な状況でした。

しかし、サヤマ製作所の登場で状況は一変します。サヤマ製作所は佃製作所が満たせていないキーデバイスの内製化いうニーズに注目し、帝国重工に共同開発を提案し、一時的ではありますが佃製作所の牙城を崩すことに成功します。 

圧倒的な技術力を持つ佃製作所ですら、顧客のニーズを満たせないと取引を失うことがあるのです。また、顧客のニーズとは製品・サービスの品質のみ、ではありません。佃製作所も品質面ではサヤマ製作所を上回りながらも、部品のコンペに負けてしまいました。顧客のニーズを本当に満たせているのか?さらに顧客のニーズに変化がないのか?個々のニーズの優先順位にも変化がないか?を常に自問自答しつづけることが重要といえるでしょう。

 

3.人工弁(ガウディ計画)

続いては人工弁のケースです。子供向けの人工心臓は大人向けよりもサイズを小さくする必要があります。ボトルネックは小型の人工弁の開発。北陸医科大学の一村教授と共同開発者のサクラダは佃製作所の技術力に注目し、共同開発を依頼します。しかし、サヤマ製作所もアジア医科大学と連携して、人工弁の開発を進めていました。

【図表2】
 顧客 人工心臓を必要とする子供
   (小型の人工弁開発による)
 競合 サヤマ製作所
・社長がNASA出身
・ヘッドハントによる優秀な技術者の結集
・成果報酬などによる動機づけ(外発的動機付け)
 
【協力者】
・アジア医科大学
 自社 ・バルブシステムの技術、特許、更なる改善
・高い技術力、特許
・佃プライド、佃品質
・ものづくりへのこだわりによる動機づけ(内発的動機付け)
 
【協力者】
・北陸医科大学、サクラダ、帝国重工、医療ジャーナリスト

サヤマ製作所は、外発的動機付けと言われる成果報酬などの賞罰(アメとムチ)により優秀な技術者の採用・動機づけを行い、佃製作所からも技術者を引き抜き人工弁の開発を進めます。一方、佃製作所は佃社長のものづくりにかける情熱の下、ものづくりの面白さに魅せられた社員が開発を行います。こちらは、内発的動機付けと言われる自分の内面から湧き起こる意欲・情熱が行動の源泉です。

また、佃製作所は、共同開発を行い北陸医科大学、サクラダに加えて、ロケットエンジンの顧客である帝国重工からの資金提供を受けることに成功します。自社の顧客を協力者として活用する佃社長の見事な戦略です。このように、自社のみではなく、協力関係にある他社も含めて競争優位を考える、顧客を巻き込んで協力者にすることを考えることが重要です。

最近では、3C分析は協力者(Co-operator)を含む4C分析とすることがあります。自社のみで差別化を図るのではなく、協力企業を含めて戦略構築をすることが求められていると言えるでしょう。

3C分析を行うことで、自社が競合に打ち勝つための課題を明確にできます。また、顧客・市場の分析にPEST分析、自社の分析にSWOT分析、などの他のフレームワークを組み合わせることで、さらに分析の精度を増すことができます。是非、皆さんも戦略を策定する際には3C分析をご活用ください。

次回(第9回)は、成長戦略を策定する際に有用なフレームワークである「成長ベクトル」をご紹介します。

専門家:濱口 誠一
ビジネスイノベーションハブ株式会社/戦略パートナー。中小企業診断士。経営コンサルタント、セミナー講師。
指導者ゼロ、ノウハウゼロの状態から大学生英語ディベート大会で全国3位の実績を持つ。その後、ノウハウをカタチにすることで、全国大会10年連続本戦進出、6年連続決勝戦進出(うち2回優勝)という強豪大学を育て上げる。現在はIT企業の経営企画部のマネージャーとして、中期経営計画、業績評価制度等に携わりながら、中小企業診断士としては、会員規模約1500名の東京協会中央支部の理事であり、セミナー・コンサル等幅広く活動を行う。

ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。