1.はじめに

第4回はVRIO分析です。前回(第3回)にご紹介したPEST分析が、マクロ経済、政治、社会、技術動向など、企業をとりまく外部環境を扱うのに対し、VRIO分析では、他社に対する競争優位性にどれだけ貢献しているかの観点から企業の内部環境、すなわち経営資源を評価します。「リソース・ベースド・ビュー(Resource Based View:内部資源論)」で知られる米国の経営学者J・B・バーニーが提唱したフレームワークであり、企業は経営資源の活用を通じて競争優位を獲得できるという考え方に基づいています。

VRIOは「価値(Value)」「希少性(Rarity)」「模倣困難性(Inimitability)」「組織(Organization)」の頭文字をとったもので、これらの4要素から経営資源の価値や活用度をチェックします。経営資源というと一般に「ヒト、モノ、カネ、情報」と言われますが、人材、工場、店舗、ブランド、特許技術のように思いつきやすいものだけでなく、資金調達力、意思決定の速さ、社員を大事にする社風など、企業が経営目標を達成するために活用できる「強み」が広く含まれると考えてよいでしょう。VRIO分析は4要素を用いて企業のこうした「強み」を一つひとつ評価し、重要度をランク付けして真の強み(=コアコンピタンス)が何かを浮き彫りにするところに特徴があります。

2.VRIO分析の考え方

続いて小説「下町ロケット」に登場する佃製作所の経営資源を題材に、VRIO分析の考え方を具体的に説明しましょう。小説の内容をもとに、同社の特徴的な強みである「バルブシステム製作技術」をVRIO分析のフレームワークにそって評価すると以下のようになります。

V:価値(Value) 経営目標を達成するために有用か? Yes

最先端ロケットエンジンのキーテクノロジーであると同時に、人工弁など他のデバイスへの汎用性もあり、企業としての経営目標(=今後の成長)達成のために有用かつ不可欠

R:希少性(Rarity) 競争相手が広く保有していないか? Yes

すでに特許を取得できており希少性は高い

I:模倣困難性(Inimitability) 競争相手に容易にマネされないか? Yes

大手企業の帝国重工もバルブ内製化を断念し、佃製作所からの調達を決断するほど模倣は困難

O:組織(Organization) 資源を有効活用できる組織体制か? Yes

佃社長を含む人材の技術力の高さや熱意、品質を重視する経営理念、高精度のバルブを製造する設備など、経営資源を活用できる組織体制がある

以上のように「バルブシステム製作技術」という経営資源は、価値・希少性・模倣困難性・組織いずれの観点からもポジティブに評価でき、佃製作所の持続的な競争優位構築に役立っていることが分かります。またさらに一歩進んで、他の経営資源をこのように一つひとつ評価することにより、企業のコアコンピタンスを浮き彫りにすることもできるのです。それでは次に、佃製作所の様々な経営資源をVRIO分析のフレームワークで評価すると、どのような企業像が浮かんでくるのかを考えてみましょう。

3.佃製作所をVRIO分析で徹底評価

小説「下町ロケット」(ロケット編およびガウディ計画編の両方)の内容から、社外パートナー、原材料調達、製造、販売・マーケティング、技術開発、財務、組織・人事、経営者の各分野より読み取れる佃製作所の様々な経営資源に対して、筆者なりにVRIO分析を試みたのが図表1です。なおこの経営資源の一覧表は、先ほど分析したバルブシステム製作技術も含んでいます。

【図表1】佃製作所の経営資源とVRIO分析一覧表

VRIO分析から得られる佃製作所の特徴は、以下のようにまとめられるでしょう。

  • 佃製作所に持続的な競争優位をもたらす経営資源(=コアコンピタンス)は、社長の経営者としての強いリーダーシップ、経営理念の浸透した組織風土、バルブシステム製作に関する高い技術力と生産体制である。
  • それら以外にも製造、組織・人事、社外パートナーの各分野でV(価値)のある経営資源は認められるが、R(希少性)、I(模倣困難性)、O(組織)いずれかの面で問題があり、持続的な競争優位をもたらすとまでは言えない。
  • 企業規模の小ささや人材不足から、原材料調達、販売・マーケティング、財務(資金調達など)面は弱い。

社長の強いリーダーシップに率いられた研究開発型企業として確固たる強みを持つ一方、営業力や財務力には弱みがあり、有能な社外パートナーに節々では助けられつつも、組織的な関係構築には至っていない中小企業。VRIO分析を通じて、そのような佃製作所の企業像が浮かび上がってきます。

私たちは経営資源を一くくりに「強み」と認識しがちですが、このように、一つひとつの「強み」を持続的な競争優位をもたらすかどうかの観点でふるいにかけ、企業の個性やコアコンピタンスを明らかにするところにVRIO分析の意義があります。実際に、読者の皆さんが勤務する、あるいは経営する会社のVRIO分析を行ってみると興味深い気づきがあるのではないでしょうか。

4.VRIO分析を行う際の留意点

VRIO分析は企業の経営資源を評価する優れたフレームワークですが、使いこなすために留意すべき点もいくつかあります。

1 重要な経営資源を見落とさない

VRIO分析を適切におこなうためには、評価対象となるべき重要な経営資源を見落とさないよう広い視点から洗い出す必要があります。一つのやり方としては、仕入・調達⇒技術・開発⇒製造⇒品質管理⇒販売・マーケティング⇒流通⇒顧客対応といった一連の企業活動を念頭におき、ヒト(組織・人材)、モノ(製品・設備・店舗)、カネ(資金)、情報(ブランド・ノウハウ・顧客データなど)という経営資源の基本分類を切り口に探せば、見落としが少なくなります。

2 経営資源の内容を正確に把握する

経営資源を広くすくい上げると同時に、その内容を正確に把握することも極めて重要です。対象企業の取材記事を幅広く読む、内部関係者にヒアリングする、企業を直接訪問するなど、十分に情報収集を行い評価の精度を高める必要があります。

3 時間の経過によってVRIO分析結果も変化する

VRIO分析に基づく経営資源の評価は、あくまで現時点のスナップショットです。従って技術革新や社会・経済情勢、業界内の競争状況などの外部環境に大きな変化が生じたときは、これまでの経営資源では通用せず競争優位が失われるかもしれません。時間の経過にともなってVRIO分析の結論も変化する点に注意しましょう。

次回(第5回)は、外部環境と内部環境の両方を統合した、全体環境分析を取扱うフレームワークとして知られる「SWOT分析」をご紹介します。

専門家:大橋 功
ビジネスイノベーションハブ株式会社/戦略パートナー 中小企業診断士

東京大学経済学部卒業。金融機関を経て現在は通信業界の会社に勤務。
海外業務経験が長く企業金融、投資評価、事業計画策定等の分野を得意とする。
2013年5月中小企業診断士登録。事業再生、補助金申請、ビジネスモデル研究、インバウンドビジネス等の分野で、中小企業支援および執筆活動を積極的に行っている。

ノマドジャーナル編集部
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