フレームワークという言葉を耳にしたことが、少なからずあると思います。システム開発の世界では、「システムの枠組」「基本的な構造」などを指すこともあるのですが、ビジネスの世界ではもっと汎用的にフレームワークが用いられています。論理的な思考を導き、仕事の無駄をなくす思考ツールとして、フレームワークは欠かせないものなのです。

誰でも使える便利な「型」。それがフレームワーク

空手を習ったことがある人はいるでしょうか。あるいは剣道。いずれも、「型」と呼ばれるものがあります。技を繋ぎ一連の動きをまとめたもので、一見すると実践には役に立たないように思えます。しかし、実際に空手の型を学んだことがある人は「型の重要性」を語ります。格闘技に止まらず、スポーツでは一定の動きを反復練習する、あるいはそのまま実践で使用することは少なくありません。バレーボールなどでも、Aクイック、Bクイックなど、決まった型での攻撃はトップレベルの試合でも活用されています。

こういった「汎用性が高い枠組」が、フレームワークです。例えば「起承転結」。これは、物語を作るときのフレームワークであり、「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」は、仕事を進める上でのフレームワークです。「PDCAで仕事を回せ」といった場合のPDCAも、「5W1Hで整理する」の5W1Hも、立派なフレームワークです。フレームワークを用いることで、物事を整理し、正確に把握、そして論理的思考が自然とできるようになるのです。

以下では、ドラマでも話題になった池井戸潤氏の代表作である「下町ロケット」を題材に、フレームワークを考えていくことにします。

※本稿は「下町ロケットで学ぶフレームワーク思考実践講座」(2016年1月19日〜5月26日の期間で連載)の記事を元に再構成したものです。

その1 ビジネスで使える「空・雨・傘」

まず考えるのは「空・雨・傘」のフレームワークです。これは以下のような考え方になります。

空・・・曇っている→事実の把握
雨・・・雨が降りそうだ→事実に基づく分析・解釈
傘・・・傘を持っていこう→分析・解釈に基づく行動

事実をベースとした分析があり、そこで行動が決定されるのです。例えば、「雨は降らないようだ」と分析されると、「傘は持っていかない」という行動になるはずです。これが「下町ロケット」では、次のようなケースになります。

<帝国重工の場合>

空・・・特許の取得に失敗
雨・・・ロケット打ちあげは計画通りに進めなければならない
傘・・・では、どうする?

ここでの「傘」、つまり行動では「佃製作所から特許を買いとる/使用権を得る」「佃製作所からデバイスの供給を受ける」「佃製作所を買収する」といった4つの選択肢が考えられます。こういった選択肢を明らかにするためにも、フレームワークは必要なのです。

もっと詳しく→【ビジネススキル:フレームワーク】下町ロケットで学ぶフレームワーク思考実践講座 第1回 フレームワークは身近な存在

https://nomad-journal.jp/archives/804

その2 偏りと漏れをなくす「二項対立」と「MECE」

ビジネスを進めるにあたり、気を付けなければならないのは、「思い込み」と「漏れ」です。だれでも先入観や思い込みは持っています。また客観的に状況を把握し、関連することを網羅することは至難の業です。そこで、思い込みを排除し、漏れをなくすフレームワークがあります。

まず思い込みの排除ですがこれは「二項対立」というフレームワークを用います。よくあるケースとしては、自社の商品をプレゼンテーションする場合、メリットばかりを強調してしまうこと。そこで「デメリット」を挙げることで「これはいい商品/サービスのはずだ」という思い込みを排除できます。「国内と国外」「男と女」など対義語をイメージするとわかりやすいでしょう。あえて「異なる条件」「対立する観点」で物事を考えていくことが重要です。

漏れをなくすという点では「MECE(ミッシー)」というフレームワークがあります。これは「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive(相互に重複せず、全体として漏れがない)」の略です。例えば、季節は「春夏秋冬」で漏れがありません。これをビジネスに置き換えてみると、経営資源を分類するフレームワーク「人・もの・金・情報・ノウハウ」を活用すると整理しやすいでしょう。

もっと詳しく→ビジネスパーソン必須スキル!下町ロケットで学ぶフレームワーク思考実践講座 第2回 木を見て森を見ず:「二項対立」と「MECE」

https://nomad-journal.jp/archives/842

その3 マクロ環境を分析するフレームワーク「PEST分析」

新規事業を立ちあげる、既存ビジネスのテコ入れ、再構築などに限らず、市場動向を把握することは欠かせません。よく言われる「マクロ環境」「ミクロ環境」という言葉ですが、端的に言えば「マクロ環境」とは社会全体の動き、「ミクロ環境」とは、該当ビジネスに直接関わる周辺環境の動きを指します。ここでは、マクロ環境を分析するフレームワークについて考えましょう。

マクロ環境を考える場合、関連する事柄が非常に広範囲に渡るため、どこから考えれば良いかわかりにくくなることがあります。そこで役立つのが「PEST分析」です。

政治的環境(Politics)・・・法律、規制、税制、政府の動きなど
経済的環境(Economy)・・・為替、金利、景気、株価動向など
社会的環境(Society)・・・人口動態、流行、文化、価値観など
技術的環境(Technology)・・・技術動向、特許、生産技術革命など

例えば、「下町ロケット」のロケットエンジン事業では、以下のようなPEST分析をすることができます。

▼政治的環境(P):アメリカ、ロシア、フランスなどの各国がロケット事業に力を入れている。そこで、日本は、国家戦略として国産ロケット事業を強化している。

▼経済的環境(E):生産拠点が国内から海外へと移転しものづくり空洞化が進んでいると思われる。

▼社会的環境(S):商用ロケット分野でアメリカ、ロシア、フランスが実績を競っている。しかし、ロケット打ち上げに国家予算を使っているため、打ち上げ失敗した時の世論の反発は大きい。

▼技術的環境(T):バルブシステムは、ロケットエンジンにとって非常に重要なデバイスである。このバルブシステムは極めて高い耐久性が求められる。

こういった分析の上で、帝国重工、佃製作所はビジネスを展開していたのです。

もっと詳しく→ビジネスパーソン必須スキル!下町ロケットで学ぶフレームワーク思考実践講座 第3回 マクロ環境を分析するフレームワーク「PEST分析」

https://nomad-journal.jp/archives/890

その4 企業の内部環境、すなわち経営資源を評価するVRIO分析

外部環境の対立事項である「内部環境」の分析も重要です。なかでも自社の経営資源を評価し、競争優位性を知るフレームワーク「VRIO分析」は非常によく使われています。

VRIOは「価値(Value)」「希少性(Rarity)」「模倣困難性(Inimitability)」「組織(Organization)」の頭文字をとったものです。自社の技術に価値があっても、稀少性がなく、摸倣しやすければあっと言う間に競合他社の参入を招きます。組織力が劣っていれば、普及させることは困難です。逆に、摸倣しにくい技術で十分な組織力があっても、市場で求められていないもの(価値がないもの)では、経営資源とは言えません。こういった分析を経て、企業のコアコンピタンス(真の強み)を見出し、それを活かす戦略を立てていかなければならないのです。

例えば、佃製作所のバルブ技術は「ロケット開発に欠かせない性能」=「価値(Value)」がありました。また、特許を持つという「希少性(Rarity)」、大手の帝国重工も内製化を断念する「模倣困難性(Inimitability)」もあります。さらに技術力や佃社長を含めた社員の熱意など「組織(Organization)」が加わったのです。あのビジネスの成功は、必然だったと言えるでしょう。

またVRIO分析をおこなう際には、偏りがないように二項対立のフレームワークを用い、MECEな分析を心掛けなければなりません。また、時間が経つと状況が変化するため、定期的に分析し直す必要があります。

もっと詳しく→ビジネスパーソン必須スキル! 下町ロケットで学ぶフレームワーク思考実践講座 第4回  VRIO分析で「佃製作所」の経営資源を徹底評価!

https://nomad-journal.jp/archives/918

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この「ビジネスパーソン必須スキル! 下町ロケットで学ぶフレームワーク思考実践講座」のシリーズでは、今回紹介した4回以降も、さらにフレームワークを解説、実践的に使えるノウハウを紹介しています。

下町ロケットで学ぶフレームワーク思考実践講座の連載目次はこちら

取材・執筆:里田 実彦

専門家:松永 智子
ビジネスイノベーションハブ株式会社/戦略パートナー 税理士・中小企業診断士
松永智子税理士事務所所長。
会計ソフトメーカー勤務を経て、2007年に独立。税務相談や税務申告業務などのほか、創業支援や事業承継、相続対策、事業再生支援、財務・資金繰り支援、企業理念・ビジョン・行動指針などの策定支援、中長期経営計画作成支援、セミナー講師など幅広く活動。

ノマドジャーナル編集部
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