人には主観的な側面があり思考にクセがあります。「木を見て森を見ず」に陥ったことは、誰にでもあるのではないでしょうか。また、先入観や思い込みによる発想となることがあります。客観的に物事の全体像を捉えるのは容易なことではありません。それは、個人が持つ価値観、感情、感性、経験などが思考の過程に入るからです。

今回は、ある一面ばかりにとらわれて、客観性が失われることを回避するために、有用なフレームワークを紹介したいと思います。

「それ」と「それ以外」。発想の偏りをなくすフレームワーク「二項対立」

下町ロケットのクライマックスシーンでは、佃製作所からの部品供給を受けることを決意した帝国重工の財前部長が、同社役員に対して、佃製作所からバルブシステムの供給を受けることの是非を仰ぎます。財前部長は、佃製作所が開発したバルブシステムについて「ロケット部品の傑作といっていいでしょう。これを超えるバルブは、いまこの世の中には存在しません。最高のバルブシステムです」と評価の結果を述べます。

さらに、「このバルブを超えるものを開発するのに、何年かかるかはわかりません。使わなければ従前のバルブシステムを継続することになります」と説明します。即ち、佃製作所の部品を使わないと、帝国重工は宇宙航空ビジネスにおいて劣勢の立場に陥ることを示唆します。

プレゼンテーションをする財前部長に、帝国重工の藤間社長は「もし、このバルブの採用を見送った場合、デメリットは競争力の低下だけか」と問いかけます。財前部長のプレゼンテーションは、「いえ、それに止まりません」と続きます。

藤間社長の中で、バルブシステムの内製を貫くことのメリット、デメリットの天秤が揺らぎます。そして、最終判断となります。

・メリット

・デメリット

このように2つの観点で物事を捉えることを「二項対立」といいます。具体的には、「表と裏」「国内と国外」「長所と短所」「男らしさと女らしさ」「賛成と反対」「性善説と性悪説」などがあります。対となる言葉は、対立の関係にあります。反対語をイメージすると分かりやすいです。「それ」と「それ以外」と捉えることもできます。例えば、「定期と不定期」「定型と非定型」です。

誰もが思考にクセを持っており、ある一方の側面からのみで物事を捉えることがあります。このような事態を防ぐために、「二項対立」を思考過程のフレームワークとして活用すれば、発想の偏りに気がつくことがあります。

ある物事を「昼と夜」に分類して考えるとしましょう。夜明け頃とか夕焼けどきは、どちらに分類すれば良いのかで悩むかも知れません。ここで、厳密に分類することが重要ではありません。複数の視点で物事を捉えることが最も重要なことなのです。複数の視点を持つことが、主観的な考えや思い込みによる発想から脱出する手立てとなるのです。

もれなく、だぶりなく。網羅するためのフレームワーク「MECE」

気の知れた仲間とレストランに来て、ワイン(シャンパンではなく)をボトルで注文することになったとします。そこで、「赤にする?白にする?ロゼにする?」と相談すれば「もれなく、だぶりなく」ワインを網羅できます。

このように「もれなく、だぶりなく」の状態をMECE(ミッシー)といいます。「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の頭文字をとったものです。フレームワークの考え方の根底に、MECEがあります。MECEな状態であるフレームワークがコミュニケーションをとる人間の相互で認識されていれば、コミュニケーションを円滑なものにし、お互いに納得する結論を導きやすくする利点があります。例えば、四季は季節をもれなく、だぶりなく網羅したフレームワークといえます。

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一方で、「もれあり、だぶりあり」な状態がコミュニケーションの相手方に露呈してしまうと、他にも何かあるのではないか、よく分からない話しになっているのではないかと、話しの信憑性を損なうことになります。下町ロケットでは、帝国重工の財前部長が、同社の部長会にてガウディ計画における佃製作所との共同開発、人工弁の医学的意義、経済的効果をもれなく、だぶりなく入念にプレゼンテーションする場面があります。

図では、AにもBにも含まれない「もれあり」、AにもBにも含まれる「だぶり」のイメージを示しています。

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既述したワインの色は種類が少ないですが、会社の経営資源となるとどうでしょうか。自分が勤めている会社の経営資源にどんなものがあるか思い浮かべてみて下さい。いろいろ出てきて雑多な感じになるかも知れません。あるいは、急に経営資源といわれてもイメージができないかも知れません。

このときに、経営資源を分類するフレームワーク「ヒト(人的資源)・モノ(物的資源)・カネ(資金)・情報・ノウハウ」を活用すると整理がしやすいです。下町ロケットに登場する佃製作所の経営資源をあげてみます。

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  • ヒト ・・・ 経営手腕にたけている社長、挑戦意欲に満ちた優秀な社員、優れた技術をもつ熟練工
  • モノ ・・・ 高精度な製品の生産に適した設備
  • カネ ・・・ 帝国重工も認める財務状態、ベンチャー・キャピタルからの出資、帝国重工からの出資
  • 情報 ・・・ 社長の元妻などからの情報、社外の共同開発者からの情報
  • ノウハウ ・・・ 世界の最先端技術を生み出す実力、特許技術

「ヒト・モノ・カネ」は有形資源、「情報・ノウハウ」は無形資源と捉えることもできます。有形資産、無形資産は、前節で述べた二項対立となります。このように様々なフレームワークを知っていれば、物事を捉える切り口を増やすことになります。

経営資源「ヒト・モノ・カネ・情報・ノウハウ」、四季「春・夏・秋・冬」、のようなMECEとなるフレームワークは物事の全体像を示唆しており、チェックリストともいえます。物事の全体像を捉えた思考により、思い込みを排除し、客観的に思考することを可能とします。このようなフレームワークは数多くあるので、様々なビジネスシーンで活用することができます。

フレームワークは万能ではない

フレームワークにもデメリットがあります。前回の記事でフレームワークのことを「枠組み」と紹介しました。フレームワークを用いて思考すると「枠組み」を超えられないことがあります。フレームワークは便利な道具ですが、フレームワークを使うが故に制約を受け入れることにもなるのです。

また、現実には、価値観や感情が優先することがあります。あながち、それ自体に罪悪があるわけではないです。佃製作所で、こんな場面があります。帝国重工から巨額の特許使用料を貰うことにすれば、リスクもなく、安定的な売り上げになると主張する社員に対して、佃社長は、「カネの問題じゃない」「これはエンジン・メーカーとしての夢とプライドの問題だ」といいます。これは、佃社長の価値観や感情によるものです。

論理的に思考すると社員の主張が正しいかもしれませんが、佃社長の価値観や感情を優先することにより、佃製作所は飛躍のチャンスをものにします。論理的な思考、価値観や感情による発想、経験や感性などからの直感による判断をバランス良く使い分けることが大切といえます。

専門家:中野真志
ビジネスイノベーションハブ株式会社
/取締役 中小企業診断士
明治大学卒業。中小企業診断士、社会保険労務士有資格者、宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。イー・マネージ・コンサルティング協同組合 組合員、日本マーケティング学会会員、人を大切にする経営学会会員。活動分野はIT、ビジネスモデル、労働法。 大手システム会社を6年間勤務した後、独立してフリーランスで活動、数多くのプロジェクトに参画。 ITを有効活用した中小企業の経営革新を実現するために、ビジネスモデルやマーケティングの研究やコンサルタント、執筆、セミナー企画、セミナー講師などの活動を行う。 酒蔵の経営コンサルタント、地域誘客プロジェクト立ち上げなど、地域に根ざした活動もしている。 主な執筆、小さな会社を「企業化」する戦略(共著)、新事業で経営を変える!(共著)、「地方創生」でまちは活性化する(共著)。雑誌「企業診断」の連載「業界最前線のビジネスモデルを追え!~勝ち組に学ぶ、儲かる仕組み」では、農業、日本酒業界を担当。 2014年11月にビジネスイノベーションハブ株式会社を設立、取締役に就任。
ノマドジャーナル編集部
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