首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長に「地方創生」について伺っていきます。

札幌唯一の酒蔵を持つ日本清酒株式会社は、日本酒『千歳鶴』ブランドの生産のほかさまざまな事業も手掛けています。同社社長・堀秀幸さんが考えている「これからの北海道」について伺いました。

酒ミュージアム・直営店を運営することで消費者の生の声が届く

Q:消費者から直接生の声を聴けるのはなぜですか?

堀 秀幸(以下、堀):

当社には本社・工場の隣に隣接する『酒ミュージアム』という当社の歴史や商品を紹介している施設があり、限定商品や酒粕ソフトクリームなどの販売を行っています。加えて、札幌駅・大通・すすきのという札幌市の中心部で直営店を運営、余市にはレストラン・カフェ・ギャラリーを備えたワイナリーを持っています。問屋や小売店からの情報同様、生の消費者の声は本当に貴重なものです。売れ筋もわかりますし、逆に売れていない商品もすぐにわかりますよ。

Q:売れていない商品がわかるというのは、逆の発想ですよね。

堀:

『何が売れていないのか』『なぜ売れていなのか』を分析することで、新しい商品企画に生かせるんです。商品のスクラップ・アンド・ビルドにとって、こんなに役立つご意見はありません。これは、札幌という大消費地の地酒だからこそできることなんです。

Q:酒粕ソフトクリームは、大人気商品のようですね。私も大好きです。

堀:

暑くなるこの季節だと、日本酒よりも売れる日があるくらいです(笑)。私たちは日本酒以外にも味噌やワインも生産していますが、ソフトクリームも含めてほかの商品がきっかけで日本酒に興味を持ってもらえればと思っています。最近は『酒ミュージアム』に外国人観光客も増えていますし、輸出の商談も多くすでに東南アジアに輸出を始めています。ここ数年日本酒は低迷していましたが、すでに底は打ったと確信しています。今後は、多品種少量生産の中で伸びてきている高級品種の売り上げ増や海外マーケットの拡大など、上昇気流になるのではと予想しています。

地場の酒蔵として「オール北海道」の姿勢で臨む

Q:『千歳鶴』のブランディングについてはどうお考えですか?

堀:

それは今後さらに進めていきたいと思っています。札幌に住んでいる方でも、『千歳鶴』を知っていてもそれが札幌の地酒であることを知っている人は少ないのが現状です。事実、当社が札幌で唯一の酒蔵ですから『札幌で日本酒を生産している』というイメージはないかもしれません。しかも、札幌の扇状地の伏流水を仕込み水に使用しているので、大昔に降った札幌の雨水が原料になっているわけです。先日、北海道新幹線が函館までやってきたタイミングで、美濃焼(岐阜県多治見)でH5系車両を再現したボトルの新商品(『千歳鶴 北海道新幹線 H5 プレミアムボトル』)を発売しました。これも北海道新幹線の盛り上がりに一役買えればという気持ちでしたし、ボトルやケースも鉄道ファンにも認知してもらえるよう努力をしました。やはり、北海道が賑やかにならなければ、北海道の企業も盛り上がらない…『オール北海道』の姿勢を大切にしていきたいですね。

Q:「オール北海道」…これは業種を超えて北海道人として大切にしたい姿勢ですね。

堀:

4月に発売した味噌の新製品(『寿 MY MISO 米油みそ』)も、北海道産の米・大豆にこだわって商品化しました。健康志向の方が増えている今、ニーズに応えた商品を作り続けることも大切だと思います。それができるのも、北海道の米を始め農作物の評価がどんどん高くなっているからこそ。北海道の恵まれた環境は、北海道の企業にとって一番の強みですから。

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

堀秀幸
1957(昭和37)年生まれ。1979(昭和54)年に北海道拓殖銀行(現・北洋銀行)に入社。
2013(平成25)年11月に日本清酒に入社し、顧問・副社長を歴任。2014(平成26)年12月に代表取締役に就任。現在に至る。
【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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