首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長に「地方創生」について伺っていきます。

今回は『千歳鶴』ブランドで有名な、日本清酒株式会社(本社・札幌市中央区)の堀秀幸社長にご登場願いました。同社は札幌で唯一の酒蔵を持つ日本酒メーカーで、前身の柴田酒造店は1872(明治5)年創業ですから150年近い歴史を持っています。前編では、現在の日本酒業界の状況、そして同社の施策について伺いました。

多品種少量生産体制への切り替えに活路

Q:最近は「酒離れ」が進んでいるといわれていますが、堀社長自身実感されることはありますか?

堀 秀幸(以下、堀):

「アルコールの出荷数は全体的に減少しているのですが、特にその中でも日本酒の出荷量は減っています。昭和40年代後半をピーク(170万リットル弱)に、現在はそのピーク時の3分の1(およそ60万リットル)の出荷量ですから。それだけ減っているのには、ちゃんとした理由があります。まずひとつめに、ピーク時に一番日本酒を飲んでいた世代が高齢化し、酒量が減ってきていること。そしてふたつめに、若い世代を中心に嗜好の多様化が進み、アルコール離れや日本酒離れが進んでいることです。日本酒は古いイメージがあるのか(苦笑)、ほかのリキュール類に目が行ってしまうようです。最近はハイボールブームですから、ウィスキーも人気ですよね。

Q:そのような中で、日本清酒ではどのような施策を打っていますか?

堀:

それだけ嗜好が多様化してくると、少品種では勝負できません。そこで、吟醸酒や純米酒等の多品種生産体制に切り替えることに活路を見出しました。商品を多くするということは、バラエティに富んだ品揃えに対応できる設備が必要ということです。私はもともと銀行マンで、幸いにして多くの業種の方々とお付き合いをさせていただきました。縁あって日本清酒に入社する前から『日本酒メーカーのイメージ』をある程度持っていたのですが、やはり一番の課題は工場・設備の老朽化でした。工場はすでに築50年を迎えていますから……。そこで、少しずつ設備を新しいものに入れ替えていくことにしました。

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設備投資が将来的なコストダウンにつながる

Q:設備投資をするということは、かなりのコストがかかると思うのですが。

堀:

それが、長い目で見るとコストダウンなんですよ。新しい機械というのは省エネ機能が進んでいるので、ガスや電気の無駄が省けるんです。しかも、少量生産に切り替えるための設備投資なので、大量生産の機会に比べ監視するスタッフも少なくて済みます。今当社で稼働している一番大きな機械には常時10人程度のスタッフが必要なのですが、新しい機械は少人数で済みますから。設備投資は、最初は大きな金額になってしまいますが、将来的な観点でいうと人的資材・エネルギーの面においてコストダウンにつながるのです。

Q:多品種となると、商品開発力の強化が鍵になりそうですね。

堀:

当社では、製造・営業・企画が三位一体となって商品開発に取り組んでいます。基本的には、私たちが製造した商品は『問屋→小売店→消費者』という形で流れていきますが、その逆の流れで情報をキャッチアップして商品開発の参考にし、毎年開催される新酒鑑評会で金賞を狙う(5月に発表された札幌国税局新酒鑑評会平成27年版では入賞を果たす)ため、味・デザイン共に最高の商品を目指しています。プラスして、当社の場合は消費者からの生の情報をお聞きできる場所を設けているのですが、これは『札幌の地酒』だからこそできることなのです。

(「消費者からの生の情報を聞ける場所」とはどこなのか……後編へ続く)

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

堀秀幸
1957(昭和37)年生まれ。1979(昭和54)年に北海道拓殖銀行(現・北洋銀行)に入社。
2013(平成25)年11月に日本清酒に入社し、顧問・副社長を歴任。2014(平成26)年12月に代表取締役に就任。現在に至る。
【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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