南部鉄器の洗浄は手洗いで仕上げる、と語る松尾社長

首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長に「地方創生」について伺っていきます。

今年創立60年を迎えた株式会社マツオは、タレで漬け込んだジンギスカンを提供している会社です。その4代目社長・松尾吉洋さんの北海道に対しての思い、そして同社の今後の展望について伺いました。

新千歳空港の「フードコート」に初進出

Q:人材育成についてはどのようにお考えですか?

正直に言うと人材難の時代ですね。10年前の募集と比較すると、採用費は確実に高くなっています。

特に飲食業は「きつい」「しんどい」「休みが取れない」というイメージで捉えられがちな職種なのですが、今後のことを考えると、いかにマツオを愛してもらって長く勤めらもらうかが一番重要になって来ると思います。

そこで今ちょうどワークライフバランスを取っていける仕組みを作るという取り組みをしていて、働くときは働き休むときは休むというメリハリのついた体制の構築に注力しています

Q:松尾さんが四代目社長に就任されてから2年強、初めて「店舗」ではなく「フードコート」にも進出されましたね。

ジンギスカンの味を知ってもらえれば、まだまだマーケットは広がると考えているので、全国的にジンギスカンの知名度を上げていきたいんです。

とはいえ、いきなり店舗を出すというのはリスクがあります。

フードコート業態で出展することで、通常の店舗よりもはるかに少ないイニシャルコストでチャレンジができますから、大阪や広島、福岡に店舗を出店する素地があるかどうかを知るには、フードコートというのはとても良い形態だと考えています

Q:フードコートと店舗の大きな違いはどこですか?

フードコートで食べる気軽さは大きいですね。

店舗に入ってもらうよりも、ジンギスカンの知名度を上げるための接点がたくさんできています。

あと、私たちの立場から言うと鍋洗いの時間がなくなるということが挙げられます。

南部鉄器の鍋を綺麗にするには、あら洗いのあとに手作業で仕上げるという労力がかかるんです。松尾ジンギスカンは基本的にお客様に焼いていただくことにしているので、ピカピカに仕上げておく必要があります。

油を塗って黒く光らせると見栄えはいいのですが、酸化もしますしホコリを吸収してしまいます。

しかしフードコートでは、従業員が焼いて提供するので乾燥している鍋を必要としないので、コスト面で考えると大きいですね

漬け込みのジンギスカンが食欲をそそる

自社牧場を持つことで六次産業への足掛かりに

Q:そのほかに取り組まれていることはありますか?

今全国にいる羊は1万5000頭くらいで、北海道には1万頭弱の羊がいます。ジンギスカン用の肉はほとんどがオーストラリアとニュージーランドからの輸入になっています。

そこで、今年48頭の繁殖用の羊と4頭の種羊がいる自社牧場をスタートさせます。生産から手掛けることで、生産・加工・流通・販売という六次産業に発展させていきたいと思っています。

そして、羊の肉という素材の美味しさを伝える……世界的にみると、羊の肉は栄養価が高くヘルシーな肉として認知されているので、羊肉の良さを発信していく取り組みを続けていきたいと思います。

Q:最後に、今のマツオが目指している姿とはどのようなものですか?

60周年の訓示で従業員に話したんですが、今後も『北海道民に愛されるマツオ』を目指していきます。そのためにも、学校給食の提供など社会貢献活動は必要です。

観光客の皆さんにジンギスカンの味を知ってもらいたいのはもちろんなのですが、一番大事にしたいのは、地元である北海道に愛されることだと思っています

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

松尾吉洋
1974年、北海道滝川市生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒業後、1999(平成11)年4月に株式会社マツオに入社。
2014年4月に代表取締役社長に就任。現在に至る。
【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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