社長就任3年目を迎えた松尾社長

首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?

そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長に「地方創生」について伺っていきます。

今回は北海道で8割が消費されるという「ジンギスカン」を60年に渡って提供してきた、株式会社マツオ(本社・滝川市)の松尾吉洋社長にご登場願いました。

松尾社長の祖父にあたる故・松尾政治氏が松尾羊肉専門店として立ち上げた同社は、北海道民であれば「松尾ジンギスカン」として誰もが知っている企業です。

前編では、現在の飲食業界・ジンギスカンマーケットの状況、そして同社の施策について伺いました。

北海道の皆さんに愛される・支持される『松尾ジンギスカン』を目指す

Q:今年でマツオは60周年を迎えました。

私が常々従業員に話しているのは、地元・滝川で育ててもらったということを忘れてはいけないということなんです。これから80年、100年と続いていく企業になるためには、子供たちを含め将来にジンギスカン文化を伝え、北海道の皆さんに愛される・支持される『松尾ジンギスカン』であること。それがあってこその道外進出だと思っています。

Q:松尾社長は今のジンギスカン市場をどのように捉えていらっしゃいますか?

ジンギスカンはニッチといえども特徴的なので、一般的な”焼き肉”とは競合しないと考えています。地元・滝川のお客様はもちろん、札幌ほか国内、インバウンドといったさまざまなお客様がいるマーケットですので、裾野の広さを感じますね。

地元と観光、両方のお客様にアプローチできるのは強みだと思っています。現在、北海道以外では銀座・赤坂・新宿の3店舗を出店していますが、『松尾ジンギスカン』のマーケットはまだまだ作っていけるのではないでしょうか

Q:東京でのジンギスカンの広がりはいかがですか?

ジンギスカンを提供するお店が増えたといっても、日本に輸入される羊肉の8割が北海道で消費されていますから。

日本の全人口の5%にも満たない北海道で8割が消費されているということは、どれだけジンギスカンが道外では馴染みがないかということだと思います。ただ自信を持って言えるのは、食べてもらえれば羊肉の印象は変わるということです

札幌駅前店には観光客も多数訪れる

子供たちに地元の味として認知してもらう取り組みをスタート

Q:逆に、北海道でここまでジンギスカンが支持されている理由は何だとお考えですか?

ブランドプロミスとして『いつでも、どこでも美味しい道民のソウルフードとして、家族や仲間との思い出づくりに貢献し続けること』とあるのですが、ジンギスカンを通して楽しい思い出を作り続けてきた結果ではないかと思います。

ジンギスカンの味だけではなく、楽しかった思い出が一緒にあること、そしてその場所に『松尾ジンギスカン』があることが重要ですね。毎年円山公園(札幌市西部にある桜の名所)では、ジンギスカンの材料・道具をすべて貸し出すイベントを行っていますし、花見と言ったらジンギスカンというのは北海道民だけですから(笑)

Q:外食産業全体では人口減に伴い縮小傾向になるといわれていますが…。

それは仕方のないことだと思っています。

外食産業が縮小するのに、これだけお店自体は増えている……そうなったときに、鍵を握っているのは子どもだと考えています。

昨年から、滝川市の小中学校の学校給食に『松尾ジンギスカンの日』と題して食材を提供し始めました。これは、ジンギスカンの味を知ってもらうのではなく歴史を知ってもらうためなんです。

ジンギスカンには「味付き」と「タレの後付け」の文化があって、滝川は前者なのですが、これは北海道が大正時代に軍服用の羊毛の自給を目指してスタートした『綿羊百万頭計画』が背景にあります。

滝川と札幌の月寒に種羊所が設立されたのですが、滝川はもともと玉ねぎとりんごの産地だったことから、そもそも食用ではなかった羊肉を美味しく食べられるようにタレに漬け込んだのが「味付き」文化の起源なんです。

玉ねぎやりんごを使ったタレに漬け込むことで、臭みを消し肉を柔らかくする……こういう歴史・知識をまとめたDVDも見てもらって、子供たちに自分たちの住んでいる町の味としてジンギスカンを認知してもらいたいなと思い始めました。

今年は、新十津川町・雨竜町にも拡大、滝川がある中空知地区の学校に給食を提供しました。

《後編へ続く》

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

松尾吉洋
1974年、北海道滝川市生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒業後、1999(平成11)年4月に株式会社マツオに入社。
2014年4月に代表取締役社長に就任。現在に至る。
【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。