澤田会長による授業
2015年に第1期がスタートした、エイチ・アイ・エス代表取締役会長の澤田秀雄氏が創設した澤田経営道場。「世界で闘う実践力」の習得を目指し、プロ経営者の育成に取り組む場です。現在は第2期の道場生が集い、幅広い領域のプロフェッショナルを招いて経営実務を学んでいます。
道場の期間は2年間に及び、道場生はフルコミットで参加します。外部の専門家を積極的に講師として活用し、集中的な座学のほかにハウステンボスでのマネジメント実習、新規事業専門家による経営シミュレーション、そこからの実際の新規事業創出プログラム、さらには澤田会長自身も直接指導に加わるという非常に特徴的なカリキュラム設計になっています。そうした澤田経営道場はどのような思いから生まれたのか。2年間におよぶプログラムの特徴とともに、その全体像に迫ります。
澤田経営道場事務局の河原大介さん、カリキュラムの編成を担当するKマネジメントデザインの川崎悦道さんにお話を伺いました。
世界を担うリーダーを育てたい。澤田経営道場創設の経緯
Q:初めに、澤田経営道場創設の経緯を教えてください。
河原大介さん(以下、河原):
H.I.S会長の澤田が温めていた構想をもとに、2014年の6月頃から具体的な検討を始めました。本格的なゴーサインが出たのは2015年の1月。そこから3カ月で準備し、4月に第1期がスタートしました。
川崎悦道さん(以下、川崎):
私は最初に、「これからの日本を担う人材を育てていきたい」という思いを伺いました。HISも大きくなって、ハウステンボスなどのグループ企業もありますが、どれだけ箱が大きくなっても会社の価値を決めるのは経営者次第。人材育成を強化するために、道場のようなハンズオンで教える場を作ろうという考えがきっかけだったと思います。
そこから視点は広がり、日本、世界を担うリーダーを育てたいという思いにつながっていったんです。ゴールは必ずしも経営者というわけではなく、政治家を志す人も現れるかもしれない。「広い視点でリーダーを育てよう」という考えが根底にあります。
Q:HISグループ内だけではなく、一般参加も可能となっていますが、当初からオープン化する前提だったのでしょうか?
河原:
はい。HISグループだけではなく一般参加もできるようにし、ゆくゆくは海外からも人を集めようという前提で考えていました。助走期間として1年目はHISグループの社員のみで行い、2年目となる今年からは一般参加も実現しました。
3期目となる来年はもっと広げていきます。澤田経営道場は現在「一般財団法人SAWADA FOUNDATION」が運営しているのですが、今年中を目処に公益財団法人化することを目指しています。3期目以降の参加者はすべて一般公募する予定です。
経営者の「勘所」を身に付け、知識のベースを作る。経営者育成で重要な3つの観点
Q:河原さんと川崎さんは、それぞれどのような経緯でこの取り組みに関わることになったのですか?
河原:
私はHISで人事を担当する社員として参加しました。川崎さんには、カリキュラムの構成や講師の方々をコーディネートしていただく役割で参加をお願いしたんです。
川崎:
もともとコーディネーターとして動いていらっしゃる方がいて、「一人ではやりきれないから一緒にやろう」と声をかけていただいたんです。当初は、ここまで大掛かりなプログラムになるとは予想していませんでしたね。
Q:多彩なカリキュラムが組まれていますが、どのような観点で構築していったのか、ぜひ教えてください。
川崎:
澤田会長からのオーダーは3つでした。すなわち、「実務的なスキル」、「財務」、「人を見る目」です。
「まずは実務的なスキルを教えてほしい」と。広く浅く学ぶのではなく、経営者に必要な「勘所」が分かる、知識のベースを作るということですね。
もう一つは財務です。「財務諸表だけを見て会社の良し悪しが分かるようになってほしい」と。これは細かな帳簿を付けるような話ではなくて、財務的な数字の特性から会社の姿を描く目を養っていきたいということですね。
最後に、これが一番難しいのですが、「人を見る目」です。これについては、澤田会長直伝の教育や、後半の1年半をかけて実施されるハウステンボスでの実地研修で磨いていきます。
前半の座学を中心としたカリキュラムで実施するのは、「実務的なスキル」と「財務」。「論理的な思考力」とその基礎となる調査力・情報収集力の習得を第一義としています。次のステップとして「戦略的な思考」ができるようになり、さらに「発想力・構想力」を身に付けるという構成です。
経営に必要な「基礎学力」とは。経営者間で生まれる「差」の要因
Q:「戦略的な思考」とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか?
川崎:
これは二つの要素から成り立っていて、一つはベーシックな経営戦略論と競争戦略論です。典型的な経営戦略論や一般的なマーケティング理論に加えて、ランチェスター戦略、孫子の兵法などを学びます。
もう一つの要素は、その上で具体的テーマを提示し事業計画書を作るというワークショップ形式の授業です。例えば「食品工場を作りましょう」というケースであれば、何を作るのか? 作ったものをどうやって売っていくのか? といったことをバーチャルに考え、シミュレーション経営を進めていきます。
基礎的な知識をバーチャルな事業計画の中にすべて織り込んで、自分で調査し、表現していく。そして判断し、結論を出していく。シミュレーションの過程で受講生に油断があると、「前にその知識は学んだよね? それをベースにこの問題を考えるとどうなるの?」という突っ込みが入ります。
Q:実際の経営でも起きうる落とし穴も経験するわけですね。これは川崎さんのご経験も影響しているのでしょうか?
川崎:
私は長く銀行に勤めていました。銀行はとても特殊な世界で、ある意味ではお客さんが作った計画書にいちゃもんをつけるのが仕事のようなものです(笑)。だから、そういった粗探しは得意なのかもしれませんね。
その後移籍した事業会社では、30以上ある子会社を見ていました。しっかりした社長もいれば、かなり無茶をする社長もいます。そうした経営者の差を見ていて感じたのは、”基礎的な知識としての「学力」がないと思わぬところでつまずいてしまう”ということですね。前半の半年間は、講師の先生や与えられた材料から、とにかく学んで吸収してもらいたいと思っています。
Q:講師の先生は、どういった観点で選んでいらっしゃるのですか?
河原:
「経営者としての実務的な知識と見識を習得する」ことがこの道場のテーマなので、アカデミックな方に偏らないようにしていますね。講座の各分野で、ビジネスプロフェッショナルとして活躍している方にお願いしています。第1期では、半年間の座学で100人超の先生にご協力いただきました。また、澤田をはじめ、著名な経営者や政治家の方々のお話を聞ける「経営講話」も設けました。経営に必要な広範囲の「学力」や「見識」を身に付けられる、貴重な場となっています。
後編へ続く
《編集後記》
澤田経営道場の詳細は公式サイトをご確認ください。
1999年、株式会社エイチ・アイ・エス入社。
音楽鑑賞専門デスクや海外ウェディング専門店である「アバンティ&オアシス」横浜店、表参道店所長を経て、2015年より本社人事本部、澤田経営道場事務局長。
2016年より、一般財団法人SAWADA FOUNDATION 事務局長兼務
1976年、株式会社日本興業銀行入行。
IBJ Australia Ltd., Managing Director (豪州興銀社長)、みずほコーポレート銀行シドニー支店長(3行統合)、株式会社パソナ(現パソナグループ)取締役を経て、2010年に合同会社Kマネジメントシステムを設立。
津田塾大学監事のほか、民間企業数社の経営顧問も務める。
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。