エイチ・アイ・エス代表取締役会長の澤田秀雄氏が構想し、「世界で闘う実践力」を持った経営者の育成を目指してスタートした澤田経営道場。現在は第2期が開講し、経営に必要な基礎学力の習得に向けてさまざまな講座が展開されています。

本記事では、その中から「ライセンスビジネス講座」をご紹介します。講師を務めるエスエス&パートナーズの佐竹聡さんは、プレイステーションのハード・ソフト開発でゲーム業界を牽引するソニー・コンピュータエンタテインメント(以下SCE、現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)でマーケティング関連を主に担当し、さまざまな企業とのコラボレーションを実現してきた経歴の持ち主。今回の講座の狙いやカリキュラム内容、そしてライセンスビジネス全般に対する思いを伺いました。

ゲーム業界の根幹はライセンスビジネス

Q:佐竹さんは長年ゲーム業界に身を置かれてきたと伺いました。澤田経営道場では、どのようなテーマで講座を展開されているのでしょうか?

佐竹聡さん(以下、佐竹):

「ライセンスビジネス」を軸に事業開発を考える講座を担当しています。ゲーム業界は、ライセンスビジネスが根幹にあるんですよ。任天堂も、マイクロソフトも、SCEも、ゲーム機本体であるハードを作って、ゲームソフト開発会社からリリースのロイヤリティを得るというモデルで成り立っています。

さらに、ソフトに登場するキャラクターを活用したコラボレーションを数多く展開しています。ソフトメーカー同士でもライセンスし合い、フォーマットを作ったり、グッズを企画したりという動きが日常的にあるんですね。私自身はSCEで約20年間、そうしたビジネスに携わってきました。その知見や経験をもとに、今回の講座を立ち上げています。

Q:ライセンスビジネスを学ぶことは、経営者を目指す人にとってどんな意義があるとお考えですか?

佐竹:

一般的にライセンスというと、「人気キャラクターやブランドを借りてコラボレーションする」といったイメージがありますよね。それによって新たな収益源を作っていけることはもちろん重要なのですが、本質的には、「自社のブランディングにつなげていける」ことこそがライセンスビジネスのいちばんの面白さだと思っています。

例えばH.I.Sさんでいうと、企業名そのものが高いブランド価値を持っています。例えば「H.I.Sと一緒にビジネスを作りませんか?」とアナウンスし、他社のブランドともコラボレーションすることで、新しい可能性がどんどん広がっていくと思うんですよね。自社のブランド価値をしっかりと認識し、それをさらに育てていく。これは経営者のマインドとして求められていることだと感じています。製造業であれば目に見える形でモノを生み出していくことができますが、ブランドや知的財産は目に見える形ではないものがほとんどです。これを守り育て、活用していくには、経営者のマインドが何より大切ですね。


Q:そうした「マインド」を大切にして伸びている企業の具体例があれば、ぜひ教えてください。

佐竹:

アパレルセレクトショップを展開するBEAMSさんは、そうした企業の一つだと思います。自社製品も展開していますが、基本的には世界中から良い商品をセレクトし、紹介していくというビジネスモデル。それでも、「BEAMS」という名前そのものに強いブランド力があります。実際に今、さまざまな企業とコラボレーションして、ブランディングをさらに強力に進めていますよね。それがあるからこそ、ファストファッションが浸透した現在でもしっかりとした価格帯で勝負できているのだと思います。

私はSCE時代に取引きしていましたが、BEAMSさんには、とても面白い発想をしたり、幅広い知見を持っていたりする方が多いんですよ。いつも会社の外をしっかり見ていて、有効なコラボレーションができるパートナーとシナジーを生むコラボレーションの取り組みを積極的に行っている印象がありました。そうしたベースが、企業文化として根付いているような気がしますね。

ポケモンのように長く愛され、世界を席巻できるキャラクターを生み出せるか

Q:ライセンスビジネスを積極的に考えることで外向き思考になり、オープンなコラボレーションの機会を増やしていけるということですね。確かにこれは、経営者の資質として大切なことだと思います。

佐竹:

もちろん、ライセンスビジネスを絶対にやらなきゃいけない、というわけではありません。自社だけの力で絶対的なブランド価値を築き上げることももちろん大切です。しかしそれ以上に、外部とのコラボレーションによってもたらされる効果は大きいと思います。これまで誘致できなかったユーザーへダイレクトに訴求することもできるようになる。そうした意味では、ライセンスビジネスは経営者が戦略として考えるべき一つの手段だと思いますね。

Q:直近だと、ゲーム業界では「ポケモンGO」が世界中を席巻しましたね。

佐竹:

私も長くゲーム業界に身を置いてきましたが、キャラクタービジネスの市場の可能性を改めて感じました。今回のポケモンGOも、まさに強力なブランド価値を持ったキャラクターを活用したからこその成果ではないでしょうか。

ポケモンは、すでに長い歴史を持った人気キャラクターとしての存在感を放っていますよね。「ポケモンGO」をプレイしている20代、30代は、子どもの頃にポケモンで遊んでいた世代でもあるという。

佐竹:

そうですね。日本では人気キャラクターに強い思い入れを持つファンも多くて、大人になってからの継続率も高いと思います。そのキャラクターが自分の子どもたちにも引き継がれる。一度爆発的にヒットすれば、20年、30年と人気が継続するキャラクターも多い。長期的なブランディングにもつながっていきますね。

一方で今は、新たなキャラクターを定着させていくことがとても大変な時代でもあります。「LINEスタンプ」のようなコンテンツをきっかけに大人気となるキャラクターもありますが、5年後、10年後もずっと愛され、定着できているかどうかは、今後の展開次第なのかと思います。やはりユーザーのロイヤリティを高めるためには、コミックやアニメ、グッズ、イベントなどを絡めて、そのキャラクターの世界観やストーリーをしっかりとユーザーに共感してもらい、熟成させていくことが大切。これは短期間で叶うものではありませんので、企業としては忍耐力も必要になります。しかし、「5年間儲けられないかもしれないけどずっと投資し続けられるか」というと、現実には難しい企業が多いでしょう。そういう意味では、長く愛されるキャラクターを育てる難易度は、昔と比べて明らかに高まっていると思います。

(編集後記)

澤田経営道場の詳細は公式サイトをご確認ください。

http://sawadadojo.com/

【専門家】佐竹聡
エスエス&パートナーズ代表。20年にわたり音楽業界やゲーム業界のマーケティングに携わり、マーチャンダイズとしてのライセンスビジネスや、コラボレーションを多数実施。現在は複数の企業のマーケティングや商品企画戦略、新規販路開拓の顧問、アドバイザーとして活動。
2級 知的財産管理技能士。

ノマドジャーナル編集部
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