エイチ・アイ・エス代表取締役会長の澤田秀雄氏が構想し、「世界で闘う実践力」を持った経営者の育成を目指してスタートした澤田経営道場。現在は第2期が開講し、経営に必要な基礎学力の習得に向けてさまざまな講座が展開されています。

本記事では、その中から「ライセンスビジネス講座」をご紹介します。講師を務めるエスエス&パートナーズの佐竹聡さんは、プレイステーションのハード・ソフト開発でゲーム業界を牽引するソニー・コンピュータエンタテインメント(以下SCE、現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)でマーケティングを担当し、さまざまな企業とのコラボレーションを実現してきた経歴の持ち主。今回の講座の狙いやカリキュラム内容、そしてライセンスビジネス全般に対する思いを伺いました。

経営者には、知的財産に関する「知識」と「勘所」が求められる

Q:今回の「ライセンスビジネス講座」では道場生の方々にどのようなメッセージを伝えていらっしゃるのでしょうか?

佐竹聡さん(以下、佐竹):

まずは身近な事例や問題点を解説しています。著作権でいえば、「フェイスブックに画像をアップする際はどんなことに気をつければいいのか」とか、「YouTubeで楽曲をダウンロードしてもいいのか」とか。いろいろなコンテンツを簡単に入手できてしまう時代だからこそ、個人レベルで知的財産に関する知識を持っておく必要があります。

個人レベルでも違法性を問われるようなことを企業がやってしまえば、毀損される信頼は計り知れません。SNSを運用する部署の、各担当者レベルである程度の知見を持っていないと、いくらでも事故が起きてしまう。知財について知ることは、自分たちの権利を守ることはもちろん、他者の権利を守るという意識の醸成にもつながります。まずはそれを明確に伝えていますね。その上で、ビジネスを展開するためのライセンスやコラボレーションの実務について講義しています。

Q:知財をいかに守っていくか、その知識を踏まえてどう攻めていくかを学んでいくのですね。

佐竹:

そうですね。分かりやすい例として「商標」があります。テキストロゴや、企業ロゴ、デザインロゴなどさまざまなものがありますが、多くの企業はこれを商標としている。権利侵害からいかにして自社を守るかというのは重要な観点です。どこまで権利範囲を広くとるかによってコストも変わってきます。専門分野については弁理士さんなどに委託することが多いのですが、ビジネスを展開する中で何が必要か、あるいは何が不要かという判断は、外部ではできません。それは経営戦略や現場の都合を踏まえて、経営側が判断しなければいけないんです。

Q:経営者としては、「知財に対する勘所」を持つことが必要ということでしょうか?

佐竹:

はい。自社のブランドを育て、守り、さらに活用していくために、これからの経営者には欠かせない知見だと思っています。もちろん、専門部署やミッションによって経験しなければ分からない部分も多いのですが、過去の事例や私自身の体験を踏まえて、ライセンスビジネス全般の基礎知識を身につけていただきたいと思っています。

情報番組とリアルイベントで人気を博した「トロ」

Q:ライセンスビジネスの専門家である佐竹さんのキャリアについても、ぜひ伺えればと思います。SCEで長くライセンス関連の事業に携わられていたということですが……。

佐竹:

SCEは 3社目なんです。私は理系出身で、キャリアの入り口は電機メーカー勤務のシステムエンジニアでした。一方、大学時代からエンタメ業界にも興味を持っていて、5年後にレコード会社へ転職しました。

そこでは営業職を経験し、音楽コンテンツの流通に関わっていました。その後SCEへ移ったのですが、SCEはソニーミュージックとソニーが50パーセントずつの出資比率で作った会社で、ソフトビジネスは販売・マーケティングを含めてソニーミュージックが手掛けていたんですね。私はそれまでの経験を生かす形で入社し、そこから20年弱、お世話になりました。

Q:SCEへ転職後はどのようなミッションを担当されていたのですか?

佐竹:

ソフトのプロモーションや、ゲーム機本体を含めた店頭での販売など、営業・マーケティング全般を担当していました。その流れで、自社のキャラクターを活用したコラボレーションの展開だったり、キャンペーンの企画や許諾を出したりといった、ライセンスビジネスに関わるようになったんです。

Q:実際にライセンスビジネスを展開した事例には、どのようなものがあるのでしょうか?

佐竹:

プレイステーション用ゲームソフト『どこでもいっしょ』のキャラクター、トロを活用して、フジテレビの「めざましテレビ」でコラボ企画を展開しました。「トロと旅する」というコーナーです。番組だけでなく、お台場冒険王などのイベントでも着ぐるみを出して、積極的に露出を図っていました。番組のコーナーは6年ほど続きました。

ライセンス部門として、トロのキャラクターライセンスによってロイヤリティ収入でしっかり稼ぎつつ、お互いに露出効果を高め合えるようなケースでは無償で許諾するなど、ケースバイケースでビジネスを構築していました。

現場単位でのライセンスビジネス展開をサポート

Q:独立の経緯についても、ぜひお伺いしたいです。

佐竹:

長年にわたり携わってきたライセンスビジネスやマーケティングの分野で、ベンチャーや中小企業の方々と一緒に、より幅広く仕掛けていきたいと思うようになったんです。独立することで、より自由な形で関わっていけるのではないか、と。SCE退職と並行して知的財産管理技能士の取得や、中小企業診断士の勉強もしています。自分なりの「楽しい生き方」につなげていくための独立ですね。

Q:さまざまな企業の課題に向き合っていると思いますが、実際に寄せられるクライアントの悩みには、どういったものがあるのでしょうか?

佐竹:

とある中小企業の例では、エンタメ業界への営業展開を考えていくために経営戦略から関わり、財務的な面を税理士とともに見ています。ウェブサイトの立ち上げや営業ツール制作をお手伝いしている会社もありますし、海外へのライセンスビジネスの展開を考えている企業からもお声がけをいただいています。ライセンスを起点に、どのようなビジネスモデルが成立するか、誰とコラボレーションするべきかといったことも、根っこの部分から提案させてもらっていますね。

知財保護に関しては、法務部が専門的な知見を持って対応している企業も多いんです。しかし新たにライセンスビジネスを企画するとなると、現場単位で戦略を考える必要がありますし、「知財をどう活用するか」という法務とは別の視点も必要になります。また、そもそも中小企業ではそうした部署がない企業も多いので、「知財と言われてもあまり良く分からない」というケースもあります。そうした課題と一緒に向き合い、これまでにない価値を作っていけるのは、本当に面白いですね。

飲み会や雑談から生まれる発想が、世の中を変えるコラボレーションを生む

Q:今後も澤田経営道場ではさまざまな講座が展開されていきますが、ライセンスビジネスの観点から、経営者を目指す方々にはどのような状態を目指してほしいとお考えですか?

佐竹:

例えばH.I.Sであれば、自社のブランドを使って展開できるビジネスには、まだまだたくさんの可能性があると思っています。新たなコラボレーションの形や、ウェブ・SNSを活用した発信のあり方を模索していってほしいですね。

実際に海外では、H.I.Sと日本の大人気キャラクターがコラボしている事例もあります。ハウステンボスには「チューリー君」というキャラクターがいますが、これなんかも新しいコラボレーションのきっかけになると思います。現場に落とし込んで柔軟に挑戦できる澤田経営道場だからこそ、さまざまな可能性につながっていくのではないでしょうか。

ライセンスビジネスでは他社とのリレーションをいかに構築するかが重要ですが、世の中を変えるようなコラボレーションも、もともとはゼロだった関係性から生まれることが多々あります。「あの企業とこんな企画を実現できたら面白いよね」といったような、飲み会や会社での雑談から生まれる柔軟な発想を受け入れることが大切なんです。それは現場を知る人たちだからこそ考えられること。経営道場での自由な議論の機会を生かして、外部とのコラボレーションのアンテナが研ぎすまされるように、私自身も役に立っていければと思います。

(編集後記)

澤田経営道場の詳細は公式サイトをご確認ください。

http://sawadadojo.com/

【専門家】佐竹聡
エスエス&パートナーズ代表。20年にわたり音楽業界やゲーム業界のマーケティングに携わり、マーチャンダイズとしてのライセンスビジネスや、コラボレーションを多数実施。現在は複数の企業のマーケティングや商品企画戦略、新規販路開拓の顧問、アドバイザーとして活動。
2級 知的財産管理技能士。

ノマドジャーナル編集部
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