社会進出を果たす女性が増える一方、「仕事と家庭をいかに両立するか」という課題も生まれています。企業や国による女性活躍支援が進んでいるとはいえ、まだまだ追いついていないのが現状。そんな中、女性たち自身が、課題解決のための場を作り出しています。どんな場があるのか、具体的な事例を紹介していきます。
女性のライフサイクルにあわせられる社会に向けて、まだまだ発展途上
1985年に「男女雇用機会均等法」が制定されました。この法律では、企業に対して採用や昇進、職種の変更などで男女で異なる取り扱いを禁じており、これにより、限定的な業務を任される一般職だけでなく、総合職として働く女性が増加し、彼女たちは企業の重要な一員として活躍しはじめます。
▼女性も男性と同じ職業で活躍しはじめたが…
また医者や弁護士など、かつては男性が多かった専門的な職業に、女性も就くようになっていきました。たとえば、女性弁護士の比率は1986年時点で約600人でしたが、2016年には約6,900人と11倍以上に増加しています。(http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2016/1-1-1_tokei_2016.pdf)
しかし、女性の社会進出が進むにつれて別の問題が起こりました。子育てや家事などに十分な時間を割くことが難しくなってきたのです。そこで、結婚や出産などでライフサイクルが変化しても女性が活躍できる環境を作るべく、国や企業の取り組みが始まりました。その結果が、平成24年の「育児・介護休業法」の改正です。1日6時間の「時短勤務」や残業免除、父親の育休取得の促進などが義務化されました。
▼「仕事or子育て」の選択を迫られる女性たち
法律は、つくっただけでは意味がありません。今だに未整備の企業があったり、制度はあっても人手不足のため行使ができなかったりと、まだまだ浸透しているとはいいがたい状況です。なお、2016年に妊娠・出産を理由に退職した20代女性は70%以上にのぼります。このデータから、仕事か子育てか、どちらかを選ばざるを得ない苦境がおわかりいただけると思います。
個々の企業だけでなく、社会全体としても大きな課題があります。「保育園落ちた日本死ね」という匿名の書き込みが発端となり、メディアで連日取り上げられた保育園の待機児童問題。特に都市部では保育施設が足りず、入所を待つ待機児童は全国で23,553名にも上ります。(http://www.kantei.go.jp/jp/headline/taikijido/)子供を預けられる場所がなければ、出産後に職場復帰をすることもできません。女性が働きたくても働けない、という悪循環が生まれているのです。
こうした状況を変えるべく、働く女性たちが自ら立ち上がり、仕事と家庭の両立を支援する場を作る動きが出始めてきました。
子育てしながら働ける環境を届けたい
最初にご紹介するのは、「子育てに追われるだけではなく、親も自分たちの夢を実現してもらいたい」という思いで立ち上げられた、ハイブリッドマムプリスクールナーサリー(以下ハイブリッドマム)です。
プリスクール(英語で保育を行う施設)とコミュニケーションラウンジが融合した日本初の施設で、東京都が独自に制定した「東京都認証保育所基準」も満たしています。どういうメリットがあるかというと、たとえば乳児を預ける場合、授乳のとき以外は保育士が子どものお世話を担当。その間に母親はラウンジで仕事をすることができます。つまり、プロの保育士に子どもを任せつつ、子どものそばで働くことで安心が得られるというわけです。
またハイブリッドマムでは、「国際バカロレア機構」という団体が提供する世界最高水準の教育プログラムを導入しています。年齢ごとに3つのクラスに分かれており、英語はもちろんのこと、音楽や科学、算数なども習うことが可能。コミュニケーションラウンジで自分を高めつつ、同時に、子どもの成長にとっても素晴らしい環境だといえます。
ライフイベントを経てスムーズな社会復帰を
次は、企業側に向けた取り組みを行っている「bouquet(ブーケ)」です。創業メンバーの3人の女性は全員が、妊娠、出産を経て社会復帰を果たした経験を持つワーキングマザーです。
育休を終えた後、女性たちは「すぐに活躍したい」、企業は「すぐに活躍してほしい」と、思いが一致しています。しかし、結婚や出産、子育てと女性の生活は変化していきます。また一方で、勤めている企業の方も、育休・産休などで休んでいる間に、事業や方針、組織体系が変化していくことがあります。ここでギャップが生じ、思うような活躍ができず、退職する女性社員が出てしまう企業が少なくありませんでした。
そこでbouqueでは、彼女たちの社会復帰をスムーズにするため、女性と企業がお互いの変化を把握し合い、相互理解を促す取り組みを提供することに。これから結婚や出産といったライフイベントを控えている女性や、産休・育休を経て社会復帰する女性、子育て真っ最中の女性など、状況に合わせて4種類のワークショップを開催。対話を通して今後の人生をデザインしたり、周りとの関係性を構築するコツをアドバイスするといったサービスを展開しています。
加えて法人向けには、人事制度、人材育成、人材採用から、組織風土・意識改革まで、組織・人事全般のコンサルティングを実施。ワーキングマザーの視点にたった組織づくりのサポートを行っています。女性の活躍を推進するためには、このように法人・個人双方の歩み寄りが必要なのかもしれません。
自分に合った働き方は、自分で創る!「大人の女子校」
大人の女子校は「人生を 私らしく 自分らしく」をキーワードに、自分らしい働き方をデザインするためのメンバー制コミュニケーションサロンです。現在、会社員、フリーランス、専業主婦、会社経営者など、国内外に住む650名の女性が在籍。自分らしく、自由な働き方を考え、学び、実践し、稼ぐ力を身につけることができます。
では、実際にどのような活動を行っているのでしょうか。大人の女子校では、「起業型」、「事業参加型」、「ノマド型」という3つの働き方に注目。これらの働き方を実現するためのさまざまなセミナーが、コンサルタントをはじめとした女性講師たちによって行われています。また参加者は国内外にいるため、Skypeを使用したセミナーも開催。「自分の強みを見つける」、「ブログで集客するためのノウハウ」など、内容は多彩です。
ここで、自分らしい働き方を実現した女性の例を取り上げてみます。(大人の女子校HPより:http://otonanojoshiko.com/2015/12/879)手作りのバッグを販売するある女性は、売り上げが振るわず、一件も注文をいただけない月もあるほどでした。しかし「女性起業入門コース」に参加し、商品のプロモーション方法を見直すことに。SNSやブログで宣伝の仕方を変えると認知度が向上し、注文が徐々に入るようになりました。
彼女のように企業に所属せず、フリーランスとして独立し、仕事と家庭との両立をはかる女性も少なくはありません。個人で働いていると、同僚がいないために仕事を順調に進めるノウハウを知ることは少し困難です。そんな彼女たちのためにとって、ノウハウを学ぶことができ、成果を出せるようにサポートしてくれる場は、まさに学校そのもの。ここから続々と、新しい働き方が生み出されていくはずです。
▼女子校らしく、横の繋がりを大切に
学校といえば、授業以外の課外活動も楽しみのひとつ。それに倣って、大人の女子校ではFacebook上で部活動やサークルを発足させました。「起業ママ部」や「週末起業部」など、次のステップに合わせた部活だけでなく、「ヨガ・ピラティスサークル」や「ガーデニングサークル」など、趣味でも繋がっているグループもたくさんあります。
実際に会うのではなく、SNSを情報共有の場としているため、どこに住んでいる人でも参加が可能。仲間と情報交換をしたり相談し合ったりすることができ、女性たちにとって心強い味方になっているようです。
個人にとって、より快適な場ができていく
これまで紹介してきた3つの事例のような新しい「場」は、働く女性が心を落ち着けられるプラットフォームとして、着実に浸透してきています。同じ悩みを持った人たちが集ることで知恵も集まり、課題の解決もスピーディーに。ひとりで悩むよりも解決の糸口が見つかりやすくなるはずです。
そして徐々に「場」が活性化し、お互いに信頼感が生まれるという好循環が生まれます。「大人の女子校」で部活動が盛んなように、気の合う仲間を見つければ、コミュニティは分かれていきます。さらに細分化されることで、一人ひとりにとって、居心地のいい場所になっていく。こうした「場」をつくることも、女性が活躍するためには必要なのです。
おわりに
今回は、働く女性を支援する「場」がどうやってつくられているのかについて見ていきました。企業や社会全体での仕組みづくりも欠かせませんが、自らが行動を起こすことで新しい道をつくることができますし、逆に、さらなる課題が見えてくることもあるでしょう。どちらにせよ、これまで制度がつくられることを待つだけだった頃に比べ、一段階上がった動きだといえます。どうすれば自分たち女性が社会の中で柔軟に働けるのか、さまざまな場を通して答えを見つけていくことが、社会を大きく変えていくことを期待しています。
【参照サイト】
厚生労働省 従業員数が100人以下の事業主の皆様 改正育児・介護休業法が全面施行されます!:
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/2012/03/02.html
20〜40代の出産と子育て
http://www.myilw.co.jp/research/report/pdf/myilw_report_2016_03.pdf
厚生労働省 保育所等関連状況取りまとめ(平成28年4月1日)及び「待機児童解消加速化プラン」集計結果を公表:
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000135392.html
News Up 保育園落ちた ネット投稿相次ぐ:
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170210/k10010871831000.html
東京都福祉保健局 認可保育所について:
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kodomo/hoiku/ninsyo/
【手作りバッグ】作っても売れない「どん底」から、月々10件以上の安定受注に成功!もっと高みを目指したい!:
http://otonanojoshiko.com/2015/12/879
ライター:平賀 妙子
1989年、三重県生まれ。広告代理店勤務を経て、ライターへ転身。
企業のPRライティングやビジネス書の編集、IT企業のオウンドメディアの執筆などに携わっている。
普段は当たり前すぎて見逃されていることにスポットを当てて、
その魅力を伝える文章を書いていきたい。