「人は何かを売って生きている」
“Everybody lives by selling something.”

19世紀のスコットランドの文学者ロバート・ルイス・スティーヴンソンが残したこの言葉は多くのアメリカ人のお気に入りのようで、彼らが書く文章に時折引用されます。私もこの言葉が好きで、人生の真理を濃厚なエッセンスにした言葉のように感じています。今回は、何かを売って生きること、プロフェッションについて書いてみます。

■プロフェッション=貨幣と交換出来る価値

私は、プロフェッションとは貨幣と交換出来る価値であると考えています。別のコラムで、全ての経営者は可能であれば、会社が倒産しても食べてゆく事が出来る何らかのスキルを持っておいた方がいいと書いた事があります。

私が前に一緒に仕事をしていたある医療系ベンチャー企業の経営者は本業が医者で、会社立上げの資金繰りが厳しい時期は、暇を見つけては知人のクリニックで患者を診察し、自分の生活費を稼いでいました。また、別の知人のIT系ベンチャー企業の社長も、会社の売上が安定していない時期には自分でプログラミングの仕事を受託してお金を稼いでいました。この人たちは、会社が倒産したとしても医者やプログラマーとしてお金を稼ぐ事が出来るわけで、つまり、いつでも貨幣と交換出来る価値を生み出すことが出来るのです。このことをプロフェッションと呼ぶのだと私は考えています。

■プロフェッションには相場がある

ところで、当たり前ですが、全てのプロフェッションには相場があります。貨幣との交換レートが低いプロフェッションもあれば、高いプロフェッションもあります。アメリカのビジネス誌Business Insiderが、毎年最も稼げるプロフェッションTop25というものをまとめていますが、それによると、2017年時点のアメリカで最も稼げるプロフェッションは、1位医師(平均ベースサラリー187,876ドル)、2位薬局管理薬剤師(同149,064ドル)、3位著作権弁護士(同139,272ドル)、4位メディカルサイエンスリエゾン(同132,842ドル)、5位薬剤師(同125,847ドル)と、医療系プロフェッショナルがほぼ独占しています。以下、ソフトウェアエンジニアマネージャー(11位)、ソフトウェアアーキテクト(13位)、ソルーションアーキテクト(15位)と、IT系プロフェッションが多くランクインしています。医療費の膨張が止まらないアメリカの医療と、アメリカに次々と新ビジネスを生み出しているIT産業が、現在のアメリカで最も稼げるプロフェッションを生み出しているようです。

■出来れば複数のプロフェッションを

とはいうものの、上の高収入プロフェッションが今後もずっと安泰というわけではありません。日本でも、医師、歯科医師、弁護士といったプロフェッションは最近まで、常に高収入が得られる仕事とされていた時代がありました。しかし、歯科医師は今日までに数が増えすぎて収入が激減し、中には廃業を余儀なくされる人も出て来ています。また、弁護士も最近は数が増えすぎて収入が下がり始め、自力では十分な収入が得られず、やむを得ず他の弁護士の軒下で仕事を回してもらう「ノキ弁」と呼ばれる人たちも少なからず存在しているそうです。つまり、常に高収入が得られるプロフェッションは、実はレアであると考えた方がよさそうです。

となると、自衛策として有効なのは、やはり複数のプロフェッションを持つことでしょう。前回ご紹介した私の友人のコンサルタントは、IT系のコンサルタントの他にセキュリティ対策支援、障害復旧サービス、GoogleアドセンスAmazonアソシエイト、アフィリエイトプログラム、セミナー講師、ライター、さらにはハウスクリーニング、介護サービスといった仕事からも収入を得ています。つまり、複数の仕事を同時に展開して管理する「プロフェッション・ポートフォリオ・マネジメント」と呼ぶべきものを構築しているのです。

複数のプロフェッションをポートフォリオで管理し、時代ニーズに合わせてスクラップアンドビルドしてゆく。そのようなスタイルで仕事をするのが当たり前になる時代が、もうすぐやってくると私は考えています。

記事制作:
ジャパンコンサルティング合同会社
代表 前田健二

ノマドジャーナル編集部
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