日本人の働き方に関する言葉の中で「副業」という言葉ほど蔑まれてきた言葉はないのではないでしょうか。自営業ならまだしも、会社勤めをしている場合は、副業を持つことは汚らわしいことと考えられ、タブーとして取り扱われてきました。それが、最近の「働き方改革」により、副業が解禁されたのです。
江戸時代に始まったと言われる副業。その歴史を辿りながら、「副業解禁」の持つ意味を考えてみたいと思います。

時代劇に出てくる武士の内職

時代劇を見ると必ずと言ってよいほど出てくるのが武士の内職です。武士がしていた内職には、傘張り、ちょうちん作り、朝顔やつつじの栽培などがありますが、どの内職も、いかめしいイメージを持つ武士には不釣り合いなため、時代劇でも多くの場合、ユーモラスな題材として扱われています。

また、時代劇では、内職をしているのは浪人である場合が多いのですが、実際には内職をしていたのは下級武士であったことがわかっています。
では、なぜ下級武士は内職をしなくてはならなかったのでしょうか。

武士の内職は副業だった

江戸時代、武士は「俸禄(ほうろく)」という給料をもらっていましたが、この俸禄は増えることがないどころか、幕府の財政が苦しくなると減らされることもあったのです。特に下級武士の俸禄は、それだけでは生活に困るほど少なかったので、他にも収入源が必要でした。幸い、江戸時代が平和だったため、武士には暇な時間がたくさんありました。その暇な時間を使って生活を支えるために始めたのが内職でした。

内職は他に仕事がなければ、それ自体が本業にもなり得ますが、武士の場合は、幕府に仕えるという本業があったのですから、内職はあくまでも副業だったのです。
忠誠心が重んじられていた江戸時代にあって、副業が許されていたと言うのは理解しにくいことですが、それだけ生活が苦しかったということになるのでしょうか。

開国で始まった養蚕業の副業

時代が少し進んで明治になると、生糸業が盛んになり、生糸を取るための養蚕業が発達しました。最初のころは生糸の需要も少なかったので、農家が副業として蚕を飼い生糸を生産していました。その後、生糸の需要が増えると、副業では追いつかなくなり、養蚕業を本業とする農家が生まれ、養蚕業の副業はだんだんとなくなっていきました。

その後大正9年(1920年)に戦後恐慌に陥ると、今度は生糸が売れなくなり、本業の養蚕業が危機に陥ります。もちろん副業としての養蚕業も生き延びることができず、消えていきました。
養蚕業のように、高い技術を必要としない副業は、その職種が始まったころから、本格な生産が始まるまでの「過渡期」だけに存在するという傾向があります。

タブー扱いされた副業

第2次世界大戦が終わり高度経済成長時代になると、終身雇用制が一般的な働き方となりました。この体制のもとでは、一度一つの企業に就職したら、退職するまでその会社一筋で働くことになり、この頃から「副業は汚らわしいこと」と考えられるようになりました。実際多くの企業では社則で副業を禁止していました。

副業を禁止した理由は、一つには、会社の知的財産の漏えいを防ぐことでしたが、同時に、会社側として、従業員が本業に専念し、より良い成果をあげることを望んだためでした。
終身雇用制、副業の禁止により、日本の企業には多くの知的財産が蓄積していきました。このことは高度経済成長にとっては良いことだったのかもしれませんが、その一方で、従業員一人一人の生活は会社生活だけという狭いものになり、人間らしさが失われてしまうことが、問題視されるようになりました。

「働き方改革」により副業が解禁

2016年、安倍内閣により「働き方改革」を推進することが宣言されました。働き方改革の目的の一つは、少子化に伴い減り始めた労働人口を増やすことで、その一環として女性や高齢者の労働への参加を促そうとしています。
この目的を達成するためには、職場が女性や高齢者にとって働きやすい柔軟な環境であることが必要で、その環境づくりのために考え出された一つが「副業の解禁」です。

ロート製薬では、他社に先駆け、副業(ロート製薬の公式サイトでは「兼業」と呼んでいます)の解禁を受け入れ、「社外チャレンジワーク制度」と「社内ダブルジョブ制度」を制定しました。
ロート製薬は、この制定の目標を「個人の可能性”内なるダイバーシティ”を広げていき、色々な考え方・働き方をする社員が増えると考えています。会社という枠にとらわれない、”自立した人”のネットワークを作る事への挑戦です」と述べています。
「副業解禁」により、全く新しい働き方の考え方が導入されたわけですが、果たして、「2足のわらじ」は履けるようになるのでしょうか。今後の展開が気になるところです。

まとめ

江戸時代に武士の間で、生活費を稼ぐための手段として始まった副業。その後、副業は、生糸などの需要が増えた時に、その産業が確立されるまでの過渡期に、足りない分を埋め合わせる形で発展しました。
そして、高度経済成長時には終身雇用制が確立し、タブー視された副業。それが「働き方改革」により解禁になりました。今後、副業の解禁が日本人の働き方をどのように変えていくのか注目したいと思います。

記事制作/setsukotruong

ノマドジャーナル編集部
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