前々回で、外国人を多く受け入れたことでドイツに起こった摩擦を取り上げました。今回は、外国人労働者を受け入れることによって起こりうる問題について考えていきましょう。

日本にいる外国人労働者が相対的に少ないので、いまはまだピンとこないかもしれません。ですが日本も外国人労働者の受け入れを拡大していけば、遠からず似たような問題が起こるでしょう。その前になにができるか、なにをすべきなのかを考え、準備しておくことが必要です。

外国人労働者に期待されることと現実

外国人労働者は、経済に貢献する労働者としての役割を果たすことを期待されています。実際、多くの外国人労働者は、自国よりも豊かな生活や多い賃金などを夢見て、働くことを前提に移り住んでいます。

ですが、外国人労働者にも、自身の人生があり、家族がいます。受け入れ国が期待するほど都合よくは動かないし、外国人だからといって遠慮する必要もありません。

わたし自身はワーキングホリデーでドイツにやってきましたが、すぐに仕事を辞めてしまったうえ現在はフリーランスなので、ドイツの経済にはたいして貢献していません。ドイツ企業に勤めている友人もいますが、仕事を辞めて大学へ通い始めたり、働けない状況になってドイツの社会保障を受けている人もいます。

日本は外国人が滞在許可を取得するのはむずかしい国なので、「仕事をせずにブラブラする外国人」は少ないでしょう。ですが規制を緩和し、滞在許可がおりやすくなれば、日本が期待する「労働力」にはならない外国人も増えていくのではないでしょうか。

「働かなくなった元外国人労働者」の対応も、慎重に考えなければなりません。

問題は「問題が起こること」ではない

外国人労働者のなかにも、定住し、家族を呼び寄せて生活基盤を完全にうつす人も少なくありません。その場合、滞在許可をした国はさまざまな義務を負うことになります。外国人を受け入れるということは、それによって起こりうる問題に対応する、という覚悟が必要なのです。

起こりうる問題、とは、たとえば以下のような場合です。

日本国籍のAさんが、労災で怪我をして、今後働くことがむずかしくなったとします。その後、日本の税金でAさんの生活を保障することに反対する人はいないでしょう。

ですがそれが、永住権を持った外国人労働者であるBさんだったらとうでしょうか。この場合も、「永住する権利があるのだから日本の社会保障を受けてもいい」と思うかもしれません。

では、あと3ヶ月で帰国予定だったCさんの場合はどうでしょう。「3ヶ月間は日本の社会保障を受けるべき」というのは異論ないでしょうが、その後はどうするのが「良い」のでしょうか。

日本で労災にあったのだから、今後日本の社会保障を受け続けるべきなのでしょうか。日本滞在延長を認めず、怪我をしたCさんを当初の予定どおり帰国させ、自国の社会保障を受けさせるべきなのでしょうか。

ほかにも、いきなり会社が倒産して失業してしまった外国人労働者の扱いや、外国人の両親のもとに生まれた日本語が話せない子どもの義務教育への対応など、考えなければいけないことは山ほどあります。

もちろん、こういった場合に備えて、各国はさまざまな決まりを設けています。ですがそういった決まりを、日本国民はどれだけ知っていて、関心があるのでしょう。正直、「自分にはあまり関係ない」と思ってしまっているのではないでしょうか。

外国人労働者が日本国籍を持っていないことや、日本の医療や社会保障を望むことは、まったくもって罪ではありません。問題が起こることが問題ではないのです。大事なのは、そういった問題が起こることを前提とし、外国人労働者が安全に、安心して日本で働ける環境を提供できるかどうかなのです。

理想的な妥協点を見つける必要性

このように、外国人労働者が引き起こしうる問題を挙げると、「外国人労働者は厄介だ」という結論になってしまいがちです。ですが問題は、「そのような問題が起こること」ではありません。

労働力として外国人を使うのであれば、それによって考えうるリスクは、甘んじて受け入れるべきです。また、外国人労働者が故意に引き起こした犯罪などの問題でなければ、教育や社会保障などは、受け入れる時点でしっかり考えておかなくてはいけないものです。

受け入れて、必要なときは歓迎し、問題が起こったら「厄介者」扱いするのは都合が良すぎます。問題が起こるのは必然で、それは外国人ではない全労働者に言えることです。

つまり必要なのは、「そういった問題をどうやって解決するのが理想的か」と考えることです。

もちろん日本も、自国の利益を考えるべきです。その上で、外国人労働者の人権にも十分に配慮しなくてはいけません。ではお互い、どこで妥協できるのか。どういうかたちで受け入れれば、双方ともに大きなメリットがあるのか。

外国人労働者を受け入れるのであれば、「どう対応するべきなのか」を考えなければいけない事柄はたくさんあります。大きな社会問題になる前に、しっかりと準備しておかなくてはなりません。

取材・記事制作/雨宮 紫苑

ノマドジャーナル編集部
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