クラウドファンディングの活用が進んでいる分野のひとつに伝統工芸があります。資金提供者とともに新たな製品を作り上げていくというのは伝統工芸分野では古くから行われている手法です。クラウドファンディングは現代における旦那文化のひとつの姿なのかもしれません。

伝統工芸の成り立ちと旦那文化

経済産業省では、100年以上の伝統を持つ手作業性の工芸品を「伝統的工芸品」に指定しています。2017年1月現在、北海道から沖縄までの全国で227品目が伝統的工芸品の指定を受けているところです。経済産業省が指定する伝統的工芸品の他にも、全国各地には様々な伝統工芸が根付いており、雇用の維持や観光客の誘致に貢献しています。

伝統工芸の成り立ちは品目によって様々ですが、大名や大商人といった資金提供者の存在によって成立・継承されてきたものも数多いところです。
例えば、安土桃山時代から継承されてきた織部焼は、古田織部という戦国大名の庇護の下に発展してきました。また、戦乱の時代が終わりを告げ、都市部での商人文化が花開くと、旦那と呼ばれた商人と職人の交流が始まっていきます。文化に理解のある商人が資金提供者となって職人の活動を後押しすることも増え、ここから現代にも続く伝統工芸となったものもあります。

これまでも日本社会ではクラウドファンディングが当たり前に行われてきたと紹介してきました。伝統工芸も例外ではなく、文化を愛する商人や町民達の支持と協力によって大きな発展を遂げていったのです。

伝統工芸とクラウドファンディング

伝統工芸の魅力は卓越した技術を持つ職人の手によって生み出されていきます。手作業を中心にいくつもの工程を経て作り上げるので、ひとつの工芸品を作り上げるのに長い時間がかかります。このため、大量生産には向かず、受注生産方式をとることも少なくありません。

このような伝統工芸の生産体制は、一点物の高品質な製品を作ることには向いていますが、職人の経済的負担が大きくなってしまうという課題も抱えています。
まず、ひとつの製品を作るのに長い時間を要するということは、売上(収入)を手にするまでの期間も長いということです。製造に着手するためには原材料を仕入れなければいけません。それに伴い仕入代金として資金が流出していきますので、売上が出てくるまでのキャッシュフローをどのように保つかが課題となります。
そして、作り上げた製品が確実に売上に変わるかというのも重要な課題です。仕入先行でキャッシュフローに余裕がない中では、早期かつ確実に製品を売上に変えないと、在庫を抱えたまま倒産してしまうリスクが高まっていきます。

これらの伝統工芸が抱える経営課題を解決していくためには、最初に製品の販売先を確保してから、製品の製造に着手していく体制に転換していくことが効果的です。そして、これは購入型クラウドファンディングを活用することで実現することができるのです。
購入型クラウドファンディングは製品対価を先払いするような形で行われますので、製造着手前に資金を手にすることができます。これによって仕入代金を無理なく捻出することができます。また、製品の販売先が確定した段階で製造着手できますので、在庫を抱えるリスクも低減できるのです。
全国各地の伝統工芸産地で購入型クラウドファンディングを活用した取組が増えつつあります。

クラウドファンディングを活用する伝統工芸産地

購入型クラウドファンディングの活用が進んでいる伝統工芸産地の中でも、岐阜県の飛騨・高山地域は、高山市に本店を置く飛騨信用組合が購入型クラウドファンディングのプラットフォームを運営していることもあり、地場産業である木工分野の実績が目立ちます。

飛騨・高山地域での木工の歴史は古く、17世紀初頭には漆器の製造が始まり、これが「飛騨春慶」として伝統的工芸品の指定を受けています。また、19世紀初頭には一位材を素材とした一位一刀彫という工芸品も生まれ、高い技術と美術センスに裏打ちされた木工品を国内外に販売してきました。
しかし、安価な海外製品の流入と商品単価の下落により、木工品・家具の出荷額は90年代をピークに減少傾向に転じ、工房や職人の数も減りつつあります。作れば作っただけ売れる時代ではなくなり、作った後の販路も見据えなければいけなくなったのです。この販路を見据えるという点で購入型クラウドファンディングの活用が進んできているのです。木製雑貨の開発プロジェクトには多くの支援が集まっており、かつての旦那文化を彷彿させるものとなっています。

他の伝統工芸産地でも、久留米絣を用いたスーツ製作に60人の支援者が現れる等、工芸品を愛する現代の旦那衆・パトロンと作り手である職人を繋ぐツールとして、クラウドファンディングは定着しつつあります。

記事制作/ミハルリサーチ 水野春市

ノマドジャーナル編集部
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