経営に関わる人数が多い場合は法人格を取得して、その法人格をもって事業を進めていく方が効率的です。前回は「会社」について紹介しましたが、この他に「協同組合」という選択肢もあります。

協同組合とは

協同組合とは、同じ目的を持った個人や企業が集まって共同事業を行うための組織です。個別法に基づいて法人格も与えられていますので、会社と同様に法人名義で契約や財産管理をすることができます。

各自が持ち寄った資金や財産を原資として組織運営を行っていくことから、持分会社に似た性質があります。一方、持分会社との違いは、メンバーである組合員の加入や脱退があることも前提にしている点です。持分会社の設立が結婚であれば、協同組合はシェアハウス契約と言ったところでしょうか。

複数人が共同して事業を行うための法人格(家)を管理していくとします。持分会社は結婚して家を構えるのに対して、協同組合はシェアハウスの住民(組合員)が独立した立場のもとで家の管理費を出し合っていきます。同じ家の中に住んで協力し合いながらも、個人としての生計は別なのでメンバーの入れ替わりが容易です。

兼業や副業といった自由な働き方が提唱されている中、持分会社と株式会社の中間のような存在でもある協同組合は、起業時の法人格として有力な選択肢となっていくかもしれません。

協同組合には様々な種類があり、ビジネスに主眼を置いたものとしては中小企業等協同組合があります。中小企業等協同組合は、その名前のとおり、中小企業同士が集まって結成されることを前提にした協同組合です。今回は中小企業等協同組合に焦点を当てて、そのメリット等を紹介していきます。

手に職持った人達の共同事業体

中小企業等協同組合は、個人事業主を含む中小企業が集まることによって設立されます。協同組合の種類によっては、普段はサラリーマンとして働いている人や主婦もメンバーに加わることができます。

例えば、フリーのイラストレーターA、カメラマンB、ライターC、デザイナーDがいたとします。A・B・C・Dは、普段はそれぞれで仕事を請け負っています。この4人が意気投合して出版事業を展開することになりました。事業が拡大するにしたがってメンバーも増やしていく予定です。
出版事業の母体として、株式会社や持分会社を設立するというのも選択肢のひとつではありますが、それぞれ以下の課題があります。

・株式会社

立ち上げメンバーであるA・B・C・Dの4人が出資して株式会社を設立すると、後から合流してくるメンバーの扱いに頭を悩ませることになります。従業員として迎えると上下関係が出来てしまいますし、出資をしてもらうにしても、その都度株式を発行しなければいけないという手間があります。

・持分会社

株式会社と同様に出資者と従業員の関係性の課題があります。出資者(社員)として迎えるとなると定款を変更していく手間があります。これはメンバーの離脱時も同様です。

つまり、株式会社・持分会社という形態をとると、立ち上げメンバーと合流メンバーを同等の立場に置くのに事務的な手間がかかるのです。
これが協同組合の場合、メンバーの追加・離脱を前提とした組織ですので、組合員の追加(出資者の増加)という形で簡単に処理をすることができます。離脱時の出資金の扱いについても、定款に「出資額を限度に払い戻す」と規定することで、協同組合側に残す財産をコントロールしやすくなります。
メンバーそれぞれが本業を営みながら、出版事業についてはお互いの能力とノウハウをもって共同で行うという体制を築くことができるのです。協同組合は、手に職を持った専門人材の共同事業体として優れた法人格なのです。

協同組合設立のハードル

専門人材同士で共同事業を行うのに適した協同組合ですが、持分会社や株式会社と異なり、設立にあたって行政庁の認可が必要というデメリットがあります。中小企業等協同組合法に基づいた要件を満たしていれば原則として認可されるのですが、協同組合というものに馴染みがない層からするとハードルが高く感じられるかもしれません。

また、行政の認可によって設立する法人ということもあって、決算書の提出義務もあるなど、法人運営上の事務コストもやや嵩んできます。定款変更も認可なしに行うことはできませんので、ビジネス環境の変化が激しい業界だと、変更認可が下りるのを待つ間に同業他者に差をつけられてしまうリスクもあります。

加えて、協同組合の設立発起人は最低でも4人必要となります。これは、中小企業等協同組合法において、協同組合には理事3人以上と監事を1人以上置かなければならないと規定されているためです。このため、ゼロの状態からの起業・法人設立というよりは、既に個人事業主として一定の経営基盤を築いており、そしてビジネスパートナーと呼べるような存在が複数人いるときに選ぶ法人格と言えます。

記事制作/ミハルリサーチ 水野春市

ノマドジャーナル編集部
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