前回にも紹介したとおり、クラウドファンディングを活用することで新商品・サービスの開発・展開に向けたリスクを低減させることができます。需要見込みが立てられずにお蔵入りとなっていたアイディアについても、クラウドファンディングによって表舞台に立たせることもできるようになってきました。

リスク軽減策としてのクラウドファンディング

既存の商品やサービスの延長線にあるようなものは、これまでの売上実績等から需要見込みを立てることができます。しかし、これまでにない新しいアイディアの具現化は参考情報のない中を手探りで進めていかなければいけません。

このようなモノがあると良い、これがあると便利だというアイディアがあったとしても、それが商品・サービスとしてどれだけの需要があるか、一般消費者の財布の口を開かせることができるかは、蓋を開けてみるまで分からないところです。手持ち資金が潤沢であれば、当たるも八卦・当たらぬも八卦と割り切って開発に取りかかることができますが、創業期の企業・小規模な企業では生死を賭けた博打を打つようなものです。

新商品・サービスの開発は一種の博打なのです。博打に勝って成功を収めた企業もあれば、失敗した企業もいます。そして、挑戦することすら出来ずに現状維持の道を選んだ企業もいるのです。

近年、クラウドファンディングを活用して新商品・サービスの開発費用を調達する企業が増えています。これは前回に紹介したとおり、クラウドファンディングがリスク軽減策として機能しているものとも評価できます。

市場にアイディアをぶつける

クラウドファンディングは資金を募るというだけではなく、市場に直接アイディアをぶつけることができるというメリットがあります。

このメリットをイメージしやすくするために、2014年から2015年にかけて講談社のモーニングに掲載されていた『ハルロック』という漫画を例に説明していきます。同作はフィクションであることを割り引いたとしても、等身大の起業・クラウドファンディング活用をイメージするための参考書籍として評価できます。

『ハルロック』は電子工作が趣味の大学生である向坂晴(以下、ハル)を中心にしてストーリーが進んでいきます。ハルは趣味の電子工作で周りの人々の悩みを解決し、人間的にも成長していきます。そして、飼い猫の行動がツイッターに投稿される「ネコッター」を開発、展示会で即売したところ多くの反響を得ることで起業を決意します。自身の趣味で作ったモノに対価が支払われることの喜びを知ったわけです。

起業後の商品第一弾として、ハルはお風呂場用の自動掃除機を立案します。お風呂場の壁面掃除が大変だという悩みがあるのを知って、この悩みを解決するために奮闘していくわけですが、ここで資金調達の壁に当たります。

お風呂掃除機の開発には1年近くの期間が必要になります。そして掃除機を500台製造するためには、金型代300万円と原材料費450万円の計750万円が必要です。この全てを既存商品のネコッターの収益だけで賄うのは難しいことが分かってきます。

そこでハルは、クラウドファンディングによってお風呂掃除機というアイディアを市場に直接ぶつけるという選択肢をとりました。そして、テレビで取りあげられるという幸運に恵まれたこともありますが、ハルのアイディアは多くの人々の共感と期待を得ることができ、資金調達に成功していくわけです。

結局のところ、新商品の事業性は、その商品を企業側が提示した金額でも欲しがる人がいるかどうかに尽きるのです。ハルは、クラウドファンディングによってアイディアを市場に直接ぶつけることで、このようなモノがあると良い、これがあると便利だという消費者ニーズの掘り起こしにも成功したのです。

もし、クラウドファンディングという手法がなければ、ハルのアイディアは狭い範囲でしか共有されないまま終わったかもしれません。

企業の挑戦を後押しする

企業の成長のためには常に新しいことに挑戦をしていかなければいけません。失敗を恐れて挑戦を諦めるというのは、企業としての成長の道を自ら閉ざすのと一緒なのです。

新商品・サービスの開発にあたっては、金銭面のリスクだけではなく、その商品・サービスが市場から求められているかという不安も抱えながら挑戦への一歩を踏み出していくわけです。ここでクラウドファンディングを活用することによって、金銭面のリスク軽減と同時に市場に受けいれられるかどうかの不安を和らげることもできるのです。仮に市場からの反響が少なければ、開発仕様や計画を見直すこともできます。

先ほど例にあげた『ハルロック』のように、クラウドファンディングには企業の挑戦を後押しするような一面もあるのです。

記事制作/ミハルリサーチ 水野春市

ノマドジャーナル編集部
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